『揚羽蝶(3)』

「科学忍者隊を誘き出す為なら、堂々とすればいい。
 何もニューオーク市を破壊しなくてもよ。
 また人々が多く犠牲になった。
 ……そして、きっとまた俺みたいな子が出たに違いねぇ。
 汚ねぇ奴らだ。絶対に許せねぇっ」
激高したジョーが涙しているのではないか、と健は思ったが、そうではなかった。
ただ怒りに震えていた。
「博士。揚羽蝶メカの奇跡を追って、すぐにゴッドフェニックスでアンナス山脈へ出動しましょう」
健は自分の背中に手を回して、ジョーの手を軽く握って離した。
「そうしてくれたまえ。諸君の健闘を祈る」
「ラジャー」
5人は急ぎ出動した。
南部博士は再びISOへと移動した。
金粉の分析にはISOの方が適しているからだ。
博士がテストドライバーとして採用したロジャースの運転だから、ジョーも安心だった。
彼ならカーアクションドライバーだっただけに、ちょっとやそっとの事ではやられないだろう。
そのテクニックで何とか博士を守ってくれる筈だ。
アンナス山脈に基地を構え、わざと痕跡を残したのは、科学忍者隊を誘き寄せる作戦である事は明白だ。
今はそちらに集中したい。
揚羽蝶メカの金粉攻撃には火の鳥で対抗するしかないのだが、まずは博士の指示通り、竜を留守番に残し基地に潜入する事になった。
「アンナス山脈が見えて来たぞいっ」
竜がスクリーンに映った山脈を指し示した。
「ゆっくりと1周してみろ」
「解った!」
竜がゴッドフェニックスを周回させる。
山脈の陰に隠れた大きな円が見えた。
ヘリポートを大きくしたような感じだった。
どうやら地下基地になっているようだ。
「如何にもギャラクターが好みそうな場所だな」
腕を組んだジョーが呟いた。
「よし、竜。此処に着陸しろ」
健がスクリーンを指差して、山脈の外側に下りるよう指示を出した。
「すぐにトップドームへ上がるぞ」
「ラジャー」
竜を除く3人が応じた。
竜だけは憂鬱そうな顔をしていた。

4人はヒュッ、ヒュッと風を切る音を立てながら、敵基地へと近づいて行った。
「やっぱり巨大なヘリポートだな」
一番近い山の中腹に大きな岩が出っ張っており、4人はそこに蹲っていた。
ジョーが見下ろしながら言ったのも解る。
全くその通りで、そこから揚羽蝶メカが出て来るものと思われた。
「メカはあそこから出入りするのだろうが、他に隊員が出入りする為の出入口がある筈だ。
 この近くの山脈にあるだろう。分かれて探そう」
健が呟くように言った。
4人は跳躍して、東西南北それぞれに散った。
ジョーは山脈の西側を担当した。
こちらは麓の街の方から見ると死角になるから出入口は作り易いかもしれない。
だが、利便性を考えると、健が行った東側の街の方向にある山脈も怪しい。
ギャラクターの隊員もずっと基地に詰めているのではなく、普段は市井の人々に紛れて何かを企んでいる事も考えられる。
(まあ、そう思えばどこだって怪しいよな…)
ジョーは自分の思いに苦笑した。
全くその通りだ。
ギャラクターの事だから、堂々と入口を設けているか、それともこんな所に?と思うような見つけにくい場所に作ってあるか、全く解らない。
一番手っ取り早いのは、誰か隊員を見つけ出して、尾行して行く事だった。
『ギャラクターの隊員を2人見つけたわ。
 ジープに乗っている。尾行するわね』
ジュンから通信が入った。
基地の入口は山脈の奥深くの南側だったのか?
ジョーもジュンの連絡を聴いて、南側へと走った。
今、健も甚平もそうしている筈だ。
甚平は北側に回ったので、少し遅れそうだ。
ジョーは風を捲いて脚の動きが見えない位のスピードで走った。
『基地の入口を発見したわよ』
ジュンから連絡があったのは間もなくだった。
ジープ毎基地に入って行ったと言う。
ジョーはその後数分後にはジュンが言う場所に到着した。
すぐに健もやって来た。
「なる程。岩肌に隠して解りにくくしているが、近くで見れば一目瞭然だ」
健が入口を下から上まで見上げて呟いた。
「ジュン、良くやってくれた」
「別に誰が発見してもおかしくはないわ」
ジュンは首を竦めて見せた。
「兄貴!お姉ちゃん!」
甚平もやって来た。
一番遠距離を走って来た筈だが、甚平は息も切らしていなかった。
「ジュン、中に入る時はどうしていた?」
健が訊くと、ジュンは首を横に振った。
「ジープが来たら自動的に開いたわ。
 何か特殊な電波でも装備していたのかもしれないわね」
ジョーがそれを聴いて、エアガンの先でとんとんとドアの周囲の岩壁を叩き始めた。
「こいつは精巧に出来た鉄製の岩壁だな」
やがてそこだけ音が違う場所を見つけて、じっと見つめる。
「赤外線センサーではなさそうだ。
 一か八かやってみるぜ、健」
「解った。全員心構えをしておけ」
ジョーは健の答えを聴いて、岩壁に隠された10cm四方ぐらいな小さな扉を開けてみた。
そこには何かのセンサーがあるが、侵入者を見つける物かどうかまでは判断が着かない。
ジョーは決意をして、そこに手を翳した。
すると、入口がごとんごとんと音を立てて、上に開いた。
中を一瞬覗き込んで誰もいない事を確認すると、健が最初に飛び込んだ。
ジュン、甚平と続き、最後にジョーが滑り込んだ処で入口は閉まった。

中には敵兵は誰もいなかった。
「妙だな。見張り役ぐれぇいてもいいようなもんだぜ。
 早速罠が張られているかもしれねぇぜ」
「ああ。全員気をつけろ。
 ギャラクターの隊員達は罠に掛からない何か特殊な物を身に付けている可能性がある。
 罠は俺達だけに反応すると見ていい」
健が言い終わらない内に、地面から生きた蔦のような緑色の物体が勢い良く飛び出して来た。
20〜30本はありそうだ。
「全員散れっ!」
健が叫んだ。
4人は高く跳躍して散った。
甚平が脚に絡まれる。
ジョーは咄嗟にそれをエアガンで撃って切り離した。
健が「バードランっ!」と叫んでブーメランを華麗に投げ、蔦を根元から刈り取ってしまった。
漸く騒ぎは収まった。
「健、こんなのは序の口だぜ」
「ああ、解っているさ。みんな、行くぜ!
 博士の指示通り、基地を爆破する作戦で行く。
 ジュンと甚平は2人で行動しろ。
 揚羽蝶メカを発見した場合には、速やかに連絡して、爆破作業に入る事。
 いいな!?」
健は全員を見回した。
「ラジャー」
3人は声を合わせて答え、科学忍者隊は三方へと散った。
健とジョーはそれぞれ単独行動だった。
危険だが、仕方がない事だ。
竜はゴッドフェニックスに残しておかねばならない。
どちらにせよ、科学忍者隊は隠密行動をする部隊であり、単独行動も辞さない覚悟がなければ務まらないのだ。
ジョーは健と分かれて、奥へと進んだ。
時折罠が待ち受けていたが、彼はそう易々と捕まったりはしなかった。
上下左右から剣山の化け物みたいな物が襲って来たり、いきなり左右の壁から槍が突き出て来たりした。
ジョーは素早い動きでそれを避けたり、エアガンで撃ち破ったりしながら、前へと進んで行った。
全く敵兵が現われない。
この罠は『破られる事を前提に』作られているとしか、ジョーには思えなかった。
つまりは科学忍者隊をある場所に誘導しようとしているのかもしれない。
これは危険な任務である事は言うまでもない。
ジョーはそれを肌で感じ取った。
彼の勘は良く当たる。
今回も多分そうだ、と自分自身で決め込んで、彼は数々の罠を破りながら進んだ。
誘い込もうとしているのなら、誘われてやるまでだ。
そう思っていた。
健はどう考えているだろうか?
恐らくは同じ思いに違いない。
ギャラクターの汚い手には健も怒りを隠し切れなかった。
逆の事を考えれば、この罠が彼らを案内してくれる。
探す手間が省けたとも言えるのだ。
「構わねぇ。突っ込んぢまえ!だ」
ジョーは瞬速で走った。
待ち構える罠など怖くはなかった。
電気鞭が壁から現われたが、ジョーはそれも手前で気付き、エアガンで元のスイッチを破壊してしまった。
電気は流れなくなり、鞭はただの『紐』になった。




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