『揚羽蝶(4)』

ジョーは罠を避けながらズンズンと進んで行った。
他のメンバーも恐らくは同様に先へと進んでいるに違いない。
どこかで合流させられる予感があった。
だが、いざとなれば竜と言う切り札がある。
ゴッドフェニックスはメカが完全に合体した状態だから、バードミサイルも火の鳥も使えるのである。
健は揚羽蝶メカの出現も考えて、竜を残したのだろう。
ジョーでもその位の判断はしたと思う。
この基地にどんな罠が待っているか解らないのだから。
こんな機械の罠は問題ではない。
この奥に待っている罠は途轍もない物に違いない。
メカ鉄獣の金粉についての解析は続いているだろうか?
今頃ゴム製の衣装を着た国連軍達がニューオーク市の金粉の残骸を焼いて回っている事だろうが、根本的な解決策はジョーが発見した『火に弱い』、この事だけだった。
金粉の正体はまだ解ってはいない。
正体が何であろうとも、俺達は敵を倒せばいい。
ジョーはそう思っていたが、南部博士達は必死に正体を突き止めようと今も研究を重ねている事だろう。
しかし、この闘いには役立つまい、とジョーは考えた。
真相究明には時間が掛かる筈だ。
揚羽蝶メカと基地を破壊した後で教えられても自分達には意味はない。
相変わらず敵兵は全く出ては来なかった。
どこまで走らされるのか、と思った。
山脈の合間に地下に巡らされた基地だ。
案外大規模だった。
そろそろ何かある筈だ、とジョーが思った時、拓けた部屋が見えて来た。
(やはり俺達は罠によって誘導されて来たんだ…)
ジョーはそのまま誘われるようにその部屋に入るより他なかった。
何が待ち受けているのか解らないが、そうするしかない。
中に入るとジュンと甚平が口にガムテープを貼られて吊り上げられていた。
(こんな事だろうと思ったぜ…)
彼女達は健とジョーに連絡の取りようがなかったのだ。
いきなり手足に鎖付きの枷を嵌められたのだろう。
ジョーが部屋に入ってすぐに、健も反対側から飛び込んで来て、一瞬で状況を察した。
ジョーは自分もやられる事を警戒して、周囲を見回した。
鉄の枷が彼に向かって飛んで来た。
健も同時に襲われている。
健はブーメランでそれをカットしていた。
ジョーはエアガンのワイヤーで4本の鎖を絡め取った。
その間に羽根手裏剣を甚平が拘束されている鎖に投げようとしたが、敵兵が現われて、仕方なくそれを敵に向けて放った。
ワイヤーを巻き取り、エアガンで先程自分を襲った鎖を切った。
そのまま三日月型のキットを敵兵に向けてタタタタタタンっ!と見事に連続ヒットさせて行く。
素早い切れのある動きは相変わらず冴えている。
敵の狙いは何なのか?
科学忍者隊を磔にしておいてやる事と言ったら…!?
「金粉を吹き付けるつもりだな、健!」
ジョーはブレスレットに囁き掛けた。
『ああ、その為に俺達を此処に誘き寄せたんだ』
「長居は危険だぜ。早く2人を助け出さねぇと!
 俺は金粉の噴射口を捜して、バーナーで焼き切るから、2人を頼んだぜ」
『やってみるが、ジョー、気をつけろ』
「解ってるぜ」
ジョーはニヤリと笑って、辺りを俯瞰した。
あのような物を噴霧するとすれば、大概は上の方にある筈だ。
今はギャラクターの隊員達がいるから大丈夫だとは言えない。
ベルク・カッツェの事だ。
隊員など見殺しにして、いつ金粉噴霧を始めるか解ったものではなかった。
ジョーは急いだ。
この部屋は四角い。
まずは四隅を上から下まで眼で追って探した。
ならば、天井か?
ジョーが見上げた時、天井の照明の部分に5箇所程シャワーのような器具が隠されているのが眼に入った。
ジョーは跳躍して天井のパイプに片手で掴まり、1つずつ焼き切る事にした。
下からマシンガン攻撃が来た。
ジョーは身体を捻ってマントでそれを避けたが、健がブーメランで敵を一掃してくれたので、攻撃はやがて収まった。
作業はなかなか進まなかった。
この間にいつ噴霧されてもおかしくはない。
ジョーは一番近くにいる。
これにやられたらお陀仏だ。
健がジュンと甚平を助けるのを待って、この部屋から脱出するのが得策だろう。
しかし、それまではこれに取り組んでいるしかない。
早く焼き切る事だ。
それしか考えてはいなかった。
1つが焼き切れて、ジョーは次のシャワーに取り掛かった。
死の金粉シャワーなど浴びたくはない。
仲間にも浴びせたくない。
せっかちなジョーも根気良くバーナーを手に作業に専念した。
此処で焦っても仕方がない。
慎重に作業をしなければ、片手でパイプからぶら下がっているだけなので、体勢を崩しかねないし、そうなれば作業は遅れを取る。
2つ目のシャワーも焼き切った。
下からは健の気合や「バードランっ!」と言う声が聴こえている。
健も今は孤軍奮闘中だ。
せめてジュンだけでも助けられれば、甚平を任せる事が出来るのだが…。
そう考えたジョーはエアガンを一旦腰に戻し、羽根手裏剣を4本取り出した。
ジュンを拘束している4本の鎖目掛けて羽根手裏剣は空を切った。
下で見守っているしかなかったジュンがハッとした。
ジョーの右手から微妙なバランスで羽根手裏剣が四方に散って行くのが見えた。
勿論彼女を捕らえている鎖を狙っている事が解る。
ジュンはすぐに自由になった。
「ジョー、有難う!」
ブレスレットに囁いた彼女は、自分の手枷足枷を手で取り外した。
そして、彼女はすぐに甚平を自由にした。
『ジョー、作業は中止だ。脱出するぞ』
ブレスレットから健の声がした。
「解った」
3個目に取り掛かっていて、もう少しで焼き切れる処だったが、ジョーは素早くエアガンを腰に仕舞って飛び降りようとした。
その時異変を感じた。
「みんな早く逃げるんだっ!」
ジョーが叫んだ瞬間、金粉が残り3つのシャワーから噴霧された。
ジョーは身体の一部にそれを浴びた。
バードスタイルの上からだったせいか、特に身体に異変は見られなかった。
素早く床へと降りて、彼も部屋から脱出した。
その際にペンシル型爆弾を何本を投げておいた。
逃げ遅れたギャラクターの隊員達が金粉にやられたのか悲鳴を上げたのが聴こえた。

「ジョー、その金粉、どこかで洗い流さないと、移動して身体の中に侵入するかもしれんぞ」
健が通路で深刻な顔をして言った。
「バーナーで焼き切るしかあるまい。
 健、おめぇがやってくれ」
ジョーは覚悟を決めた顔で健にエアガンを渡した。
「あ、ああ…。しかし……」
金粉は下半身に掛かっていた。
それが蠢きながら上に上がって来ようとしている。
「バードスタイルは火の鳥にも耐えられる。
 少しぐれぇの熱さなら耐えて見せるぜ。
 健、とにかく早くっ!」
「解った!」
健はその場でバーナーを使った。
ジュンと甚平はその間に今いた部屋のドアを閉めていた。
その瞬間にジョーが仕掛けたペンシル型爆弾が爆発した。
これでもう金粉が部屋の外に溢れ出て来る事はないだろう。
この部屋には隙間がないように出来ている。
出入口さえも厳重に設計されていた。
そこへ来て、ジョーの爆弾の『火』だ。
これでこの部屋の金粉は壊滅した事だろう。
「うっ、くっ…」
ジョーは唇を噛み締めて苦痛に耐えながらも、姿勢良く仁王立ちで立っていた。
その姿は凄みを感じさせるものだった。
甚平がジョーのマントを持ち上げて、健はジョーの背部の金粉も焼き切った。
「ジョー、終わったぜ」
健も汗を掻いていた。
「ふう、ありがてぇ。すまねぇな、健」
「いいや」
と健はエアガンを投げ返して寄越した。
受け取ったジョーはそれをくるくると回転させて腰のホルダーにすとんと放り込んだ。
「またお前に危険な任務をさせてしまった」
「馬鹿言え。ああするより他は無かったじゃねぇか!
 無駄に終わったけどよ」
「それは仕方がない事さ。
 とにかく無事に済んで良かった」
「でも、何か拍子抜けしないかい?
 おいら達を誘き出してこれだけって事はない筈だよ」
甚平が不安そうに言った。
「その通りね。これからどうするの?健」
「まずは博士に連絡をしてみよう。
 こちらG−1号。博士応答願います」
『こちら南部だ。どうかね?』
「今、罠に嵌まりかけましたが、全員無事です。
 金粉の調査はどうですか?」
『核を持った地球上には存在しない生物である事しか解らん。
 金粉の集合体が1個の生物と化すなどとは、通常では考えにくいのだが、核を持っているので、間違いなく生物であろう。
 ギャラクターなら地球外生命体を持ち込んだとしても不思議はない』
「なる程。で、やはり弱点は火とゴムだと?」
『現時点ではそれ以外の弱点は見つかっていない』
「解りました。これから揚羽蝶メカを探してみます」
『気をつけて取り掛かってくれたまえ。
 爆弾を仕掛けるか、火の鳥で撃破するかは、諸君のその時々の判断に任せる』
「ラジャー」
通信を終えた健は、今度は分かれて調査するとは言わなかった。
4人は固まって風のように走った。




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