『揚羽蝶(6)』

甚平は身体が小さい。
彼にとっては、5mの巨木を相手にしているようなものだった。
だが、すばしこさで敵を翻弄していた。
「甚平、大丈夫か?」
甚平は百の力を得たような顔をして「うん」と頷いた。
「ジョーの兄貴、1人で2体やっつけたんだね。凄いや」
「いや、此処を使って相討ちにさせただけさ」
ジョーは頭を指差して見せた。
ジュンの決め台詞なので、甚平は少し笑った。
だが、すぐにその顔を引き締めた。
「あの棍棒を何とか奪えないかな?」
「俺達に扱うにはちょっと重そうだぜ。
 竜でもいればな」
「いないものは仕方がないよ。何とかしなくちゃ」
「ようし。あの棍棒を折ってやるとするか」
「ええっ?どうやって?!」
「甚平はとにかく動き回って奴を翻弄していな」
ジョーはサッとエアガンを取り出した。
その時、近くでバキっと言う音がして、健が相手をしていた雪男の棍棒がブーメランで見事に2つに折れていた。
健はその隙に跳躍して敵の鳩尾付近に「バードキーーック!」と叫びながら強い蹴りを入れていた。
木偶の坊のように雪男は倒れた。
ドーンと床が音を立て、地震のように揺れた。
これで残り2体になった。
「考える事は同じようだぜ、甚平」
ジョーはニヤリと笑った。
これで健はジュンの応援に回るだろう。
安心して取り掛かる事が出来る。
ジョーは甚平を狙う雪男の隙を狙って、エアガンの銛で何度も棍棒の同じ場所を突いた。
ひび割れが入って来たのを確認して、彼はペンシル型爆弾を取り出した。
そして振り回される棍棒を相手に、正確にひび割れが入っている部分にペンシル型爆弾を放った。
棍棒は折れ、爆発した。
その破片が雪男の眼に突き刺さって、雪男は痛みに暴れ始めた。
「ほほう、予想外の収穫だ」
ジョーは笑って、最後の攻撃に掛かろうとした。
また、フラリとした。
「ジョーの兄貴、大丈夫?おいらに任せといて!」
甚平がアメリカンクラッカーを投げて、敵の首に絡ませた。
その勢いで雪男はうつ伏せに倒れて動かなくなった。
「ジョー、少し休んでいろ」
健はジュンと組んで最後の雪男と対していた。
ジュンはヨーヨーで敵の棍棒を絡め取った。
そのままピッとボタンを押して、棍棒その物を爆破した。
その間に健のブーメランが敵の後方にぐるりと回って、雪男の首を直撃した。
雪男は声にならない呻き声を上げて、どうっと倒れた。
これで5体を倒した事になる。
全員が先程浴びた電気ショックの影響もあり、疲弊していた。
また蛾のような姿をした隊長がエレベーターから出て来た。
健はそれに掴み掛かるような勢いで、走り始めた。
もうこいつらを倒して、このエレベーターで地下に潜入すれば良いではないか。
健はそう思ったのである。
科学忍者隊と敵兵の乱闘が始まると、いつの間にか隊長は消えていた。
敵兵の数は先程は20人程だったが、確かに増えている。
ジョーは体力をこれ以上消耗しないようにと、羽根手裏剣で応戦した。
雑魚兵相手に本気を出して消耗する必要はない。
これからが本番なのだ。
指の加減で羽根手裏剣を正確に放つ。
敵兵には次から次へと倒れる者が出た。
その首にはもれなく羽根手裏剣が突き刺さっていた。
エアガンの三日月型キットもこう言う時は打撃系武器として活躍する。
健達は身体を使って闘っている。
健はジョーがこのような闘い方をして体力を温存しようとしているのだと言う事に気付いているだろう。
時折ブーメランで後方支援もしてくれた。
ジョーに金粉の噴霧装置の処理をさせた事を悔やんでいるのか?
それなら違うぜ、とジョーは思った。
火器系の武器を持っているのは、ジョーだけなのだ。
揚羽蝶メカは火の鳥か爆弾で粉砕する予定だったから、彼らはそれ以外の火器系武器を装備していなかった。
準備する時間もなかった。
仕方のない事ではないか。
リーダーだからと言って、そんな事に責任を感じる必要はない。
ジョーは強い眼でその事を健に訴えた。
健は黙って頷いた。
ジョーの気持ちを解ったに違いない。
とにかく此処の雑魚兵達を彼らは綺麗に片付けた。
そして、健がエレベーターのボタンを押した。
恐らくは蛾のような姿の隊長は下に降りたのだろう。
彼らも追って行く事にした。

エレベーターは更に地下へと降りて行った。
そこには巨大なメカ鉄獣がいた。
羽の模様と色合いが美しい。
まさに巨大な揚羽蝶だった。
「ついに見つけたな…」
健が呟いた。
揚羽蝶の先頭部には触覚が付いている。
そこまで正確な作りだった。
その触覚が向いている方向に広い通路があり、滑走路のようになっていた。
良く見るとレールが敷かれている。
この揚羽蝶メカを発進場所まで運んで行き、そこから出動させるのだろう。
恐らくはそこの上部が先程の巨大ヘリポートのような部分になっているに違いなかった。
科学忍者隊は此処まで待ち受けた罠を悉く打ち破って来た。
此処が最後の砦に違いない。
エレベーターもこれ以上下には行かないようだ。
「よくぞ此処まで来れた、と褒めてやろうぞ。科学忍者隊」
さっきの蝶なような羽を持った隊長が言った。
形状は蝶のようだが、色合いが全く蛾のようで、メカとは違って美しくはなかった。
しかし驚いた事に、隊長はその羽を使って飛ぶ事が出来た。
ジョーがエアガンで羽を撃ち抜こうと試みたが、突然瞬間移動でもしたかのように、ジョーの前に現われて、羽を揺さ振るようにして彼を襲った。
ジョーはすぐに飛び退った。
「気をつけろ!こいつの羽には金粉生物が仕込まれているぞ!」
健が叫んだ。
「こいつも切り札の内の1つだったのか?」
科学忍者隊の4人は、隊長を取り囲んだ。
「竜巻ファイターだ!」
健が叫んだ。
健とジョーが土台となって肩を組み、その上にジュンが、更にその上に甚平が健の手をジャンプ台にして飛び上がった。
「科学忍法竜巻ファイター!」
甚平の号令で彼らは回り始めた。
恐ろしい程の竜巻が沸き起こった。
蛾のような隊長は、踏ん張っていたが、まず羽が片方千切れた。
その瞬間羽から出て来た金粉生物に、本人が取り囲まれた。
竜巻ファイターのフォーメーションを解いて着地した4人は、それを黙って見守った。
腕と脚が最初に白骨化して行く。
ジュンと甚平は眼を背けている。
「本当に身体の動いていた部分から白骨化するんだな。
 死後硬直と同じ原理か」
ジョーが呟いた。
「此処は危険だ。
 この揚羽蝶メカに爆弾を仕掛けて、早く脱出するんだ」
健がそう言った時、揚羽蝶メカがいきなり動き始めた。
4人はメカの羽の上に密かに飛び乗った。
揚羽蝶メカは案の定レールを滑って、発進地点へ移動し始めた。
健が竜と連絡を取って、状況を説明する。
「巨大なヘリポートから揚羽蝶メカが飛び出す筈だ。
 俺達はその羽に乗っている。
 今から侵入して中から破壊する。
 竜、場合によっては1人で火の鳥をやって貰う事になるかもしれん。
 覚悟はいいか?」
『解った!おらに任せとけ!』
竜はやっと出番が来るか、と意気込んでいる様子だ。
基地でアンダーソン長官に見せられたビデオを確認しておいたので、羽の動きに合わせて隙間が出来る事が解っていた。
彼らはその隙間から侵入する事にした。
人1人、充分に通れるスペースだった。
「竜だったら、ちょっと難しかったねー」
と甚平が茶化すように言って、ジュンに窘められていた。
「出来るだけ竜に負担を掛けないよう、俺達で片付けよう。
 竜の火の鳥は最後の手段だ」
「ラジャー」
健の言葉に全員が頷いて、健、ジョー、ジュン、甚平の順で隙間を通り抜けた。
甚平は余りにもするりと抜けたので、通路にすとんと落ちてしまった。
ジョーが厳しい眼でそれを見た。
甚平は肩を竦めた。
「行くぞ。気を引き締めろ」
健が囁くように言った。
緊張感が漲る瞬間だった。




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