『トリケラトプス(1)』

『科学忍者隊の諸君、速やかに私の処に集合してくれたまえ』
南部博士からの通信が入ったのは、早朝だった。
ジョーは森にいたので、自然の明るさで既に目覚めており、スープで食事を摂った処だった。
「G−2号、ラジャー」
と答えると、すぐさま身支度を始めた。
急いで歯磨きをして、彼はTシャツに袖を通した。
G−2号機は此処にある。
竜に連絡を取って、拾って貰う事にした。
それが一番早く基地に到着出来る方法だった。
浜には車毎乗せられる潜航艇があったが、必ずあるとは限らない。
誰かが使っている可能性もあった。
G−2号機は海には潜れないので、竜と合体して行くのが一番いい。
竜との合流地点を決めて、ジョーはスタートした。
科学忍者隊は風のように三日月基地に集合し、南部博士も驚くような速さで司令室にバードスタイルで集まっていた。
「オールドシティーにメカ鉄獣が出現した。
 映像が入手出来たので、まずは見て欲しい」
南部博士は、スクリーンが降りて来るボタンを押した。
「オールドシティーにはウラン鉱がある事で有名じゃないですか。
 今まで狙われなかったのが不思議な位だ」
ジョーが言った。
「その通りだ。このメカ鉄獣は手の先に大型のスコップのような物を付けた恐竜型メカだ」
画面にはトリケラトプスを思わせるメカ鉄獣の姿があり、ウラン鉱採掘工場で暴れている姿が映し出されていた。
工場は火災を起こし、人々が逃げ惑っていた。
国連軍が戦車を出動させて応戦しているが、全く歯が立たない様子だった。
精々、ウラン鉱を奪われるスピードを少し遅らせる程度だ。
「すぐに出動しましょう」
健が意気込んだ。
「まあ、待て。このメカ鉄獣の攻撃方法を見てみよ」
南部博士がビデオを先送りした。
「これを見たまえ」
博士がビデオを止めたシーンを見て、全員が絶句した。
取り込んだウランを使って、既にエネルギー化しているようだった。
トリケラトプスの腹の部分から、ミサイルが飛び出す仕組みになっているのだが、それが核燃料を使っている事は見るからに明白だった。
「何てこった!取り立てのウランをもう利用していやがる!」
ジョーが唸るような声を振り絞った。
「そう言う事だ。これを破るのには……」
「火の鳥しかない。そう言う事ですね。博士」
「その通りだ。メカの内部から破壊する事は非常に難しいだろう。
 また、諸君にはもう1つ任務がある」
「何ですか?」
健が訊ねると、博士はスクリーンをバンっと叩いた。
「このウランは既に基地へも運ばれている。
 諸君にはそれを奪い返して貰わなければならない。
 勿論、国連軍は付ける。
 とにかくまずはこのトリケラトプス型のメカ鉄獣を倒す事から始めて貰いたい」
「ラジャー」
科学忍者隊の5人は同じポーズを取ると、博士の前からさっと姿を消した。

ゴッドフェニックスはすぐに基地から飛び出した。
「オールドシティーまで何分で着く?」
健の問いに、竜は「15分じゃ」と答えた。
「急いでくれ。被害が増すばかりだ」
「解っとるわい。これで最大速度は出しておる」
「とにかく頼んだぞ」
竜は最短コースを割り出して、航行していた。
だが、科学忍者隊の焦りは募るばかりだった。
ギャラクターはいつだって汚い。
人々の生命は簡単に握り潰すし、苦労して繁栄させて来た街を一瞬の内に破壊してしまう。
まるで破壊の神、いや、鬼だ。
地球を奪い取ろうと言う計画なのなら、これ程までに破壊してから奪っても仕様がないではないか。
ジョーは歯軋りしたくなる思いで、スクリーンを見つめた。
「もうすぐじゃ!計器走行に切り替えて、スクリーンに拡大映像を出すぞいっ!」
竜がスクリーンにオールドシティーの現在の様子を映し出した。
あちらこちらから火煙が上がり、ウラン採掘で栄えた都市とはとても思えない惨状になっていた。
ウラン採掘工場の痛手は特に凄い。
既に粗方メカ鉄獣が取り尽くしたのか、残り僅かのウランをギャラクターの隊員達が機械を使って集めている様子が窺えた。
「何てこった!この採掘錠から殆どのウランを既に奪い尽くしてしまっているのか…」
ジョーが呟き、健は悔しげに俯いていた。
「とにかく、トリケラトプス型のメカ鉄獣を火の鳥で破るしかあるまい」
健が顔を上げた。
「おいらは気が進まないけど、そんな事言ってられないやいっ」
「そうよ、甚平。これ以上被害が拡大するのだけは避けないと…」
「健よ。奴は既にウランを相当呑み込んでいる筈だ。
 下手に爆発させればどれだけの被害が出る事か…」
「南部博士に被害が少なくて済む場所を算出して貰おう」
健はブレスレットで南部博士に連絡を取った。
メインスクリーンの上方にある、サブスクリーンに博士の姿が映った。
「今、算出しているのだが、地球上の何処でも被害が甚大になる事は間違いない。
 ゴッドフェニックスの限界高度まで上空に上がり、そこで倒すより手はないだろう」
「それで地球への影響はどうなりますか?」
健が自身の屈託を露わにして訊いた。
科学忍者隊全員が同じ事を考えていた。
「高度3000kmまで上昇し、敵を引き付ける事が出来れば、地球上へ降り注ぐ放射能は人体に影響が及びにくい程度まで落とす事が出来る。
 但し、出来る限り海上にて行なう事」
「でも、それじゃあ、また海が汚染されるわい」
竜が不満そうな声を上げたが、どうにもならない事は彼自身にも解っていた。
健とジョーが竜の両肩を叩いた。
「仕方ねぇ。やるしかないぞい…」
竜は溜息混じりの声を出し、メカ鉄獣を誘い込む為にゴッドフェニックスを接近させた。
「待てよ。あのメカ鉄獣が飛べるって言うデータはあるのか?」
ジョーが眉を顰めた。
「恐竜型だぜ?」
「でも、歩いて来たとは考えにくいだろう。
 地下から出て来たとか言うなら話は別だがな」
健が腕を組んだ。
「南部博士。メカ鉄獣が現われた時の目撃証言はないのですか?」
『現在調査中だ。突然現われたと言う事だが、襲撃当時オールドシティーは夜が明ける寸前だった』
「つまり、目撃証言は得にくいと言う事ですね?」
『そう言う事だ。知っての通りトリケラトプスには羽根がないが、首の周りにヒレがある。
 メカ鉄獣は飛べる可能性が高いと私は見ている。
 脚の裏にでも、ジェット噴射を付けておき、ヒレで方向転換をする。
 それ位の事はギャラクターなら朝飯前だと考える』
「解りました」
健は作戦を実行するように竜に告げた。
「こいつを倒した後、ウランを奪い返しに敵の基地を急襲しなければならない。
 全員、火の鳥をやった後にも闘えるように、心しておけ」
健が静かに告げた。
「ラジャー」
全員が闘志を燃やした。
健の言う通りだ。
やるしかないのである。
『ギャラクターの基地は情報部で調査中だ。
 諸君はまずはメカ鉄獣を倒す事だけを考えてくれたまえ』
「ラジャー」
健は博士に答えると、スクリーンに映っている、どこから見ても恐竜にしか見えないメカ鉄獣をじっと睨み付けた。
「竜、挑発しろ」
「解った!」
ゴッドフェニックスは竜によって自由自在に飛び回り、メカ鉄獣の気を引いた。
まさにメカ鉄獣は地上から飛び立とうとしていた。




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