『トリケラトプス(2)』

竜がゴッドフェニックスを操って、トリケラトプス型メカ鉄獣を上空へと誘き寄せた。
なる程、博士の想像通り、四肢にジェット噴射が付いており、首の周りのヒレで方向転換をしているようだった。
手にはスコップのような物が付いていたが、それは引っ込むように出来ていた。
上手く出来ているものだ。
ギャラクターのメカ開発者はなかなかの知能と腕を持った人間なのだろう。
問題は操っている人間どもだ。
彼らが上手く操縦し、感情的にならず、頭を働かせれば、メカ鉄獣はもっと有効に使える事だろう。
いつも同じ手で科学忍者隊にしてやられている彼らも、そろそろ学習してもいい頃だ。
科学忍者隊も油断はならない。
しかし、竜の挑発には乗って来た。
オールドシティーを破壊する事よりも、腹にあるミサイルで、ゴッドフェニックスを倒す事の方が緊急性を要すると判断したに違いない。
ミサイルだって限りない訳ではない。
ゴッドフェニックスでも、ジョーが撃ち切ってしまってピンチに追い込まれた事がある。
敵は惜しげもなく、ミサイルを撃って来ようとしていた。
その為にゴッドフェニックスよりも先に上空に出ようと躍起になっている。
「奴ら、腹からしかミサイルが撃てねぇから俺達より上に出なければならねぇんだ!」
ジョーが叫んだ。
「やらせておけ。急いでくれれば、こっちはその分助かる」
健は冷静に竜に高度をぐんぐん上げるようにと指示をした。
「問題は奴らがどこまで上昇出来るかだぜ。
 高度3000kmより下が限界だったら、地球に被害が及びかねねぇ」
それは科学忍者隊の誰もが心配している事だった。
今、息詰まる思いで、彼らはスクリーンを眺めていた。
敵に上を取らせてはならない。
竜は巧みな操縦で抜きつ抜かれつのシーソーゲームを乗り切っていた。
「竜、いいぞ。そのまま一気に高度3000kmだ!」
健が声を張り上げた。
「高度2500、2600、2700、2800、2900、3000!
 ゴッドフェニックスの限界じゃ!」
「来たな。此処まで」
ジョーが呟いた。
敵のトリケラトプスはなかなか精巧に出来たメカだった。
これがギャラクターのメカ鉄獣じゃなかったら、恐竜博覧会にでも展示しておきたい位の出来だ。
前回の揚羽蝶メカのように、この処、デザインにも凝っているのだろうか。
「壊しちまうのが勿体無いなぁ」
思わず恐竜好きな甚平が呟いてしまうのも無理はない。
だが、こいつは腹にウランを詰め込んだ化け物だ。
ジョーは黙って甚平の頭にゴツンと拳を降らせた。
「全員配置に着け。科学忍法火の鳥!」
「ラジャー」
健の指示に緊張感が120%アップする。
全員が自席に着き、シートベルトを締めた。
「ジェネレーターアップ!」
ぐーんと機内温度が上がり、苦しさが襲って来た。
全員が歯を喰い縛って耐えている。
いくらバードスタイルが熱に強いから、とは言っても、火の鳥はいつでも限界を超える技だった。
全員この後、情報部員が掴み出す筈の敵基地へと乗り込まなければならない。
此処で体力を失う訳には行かないのだ。
耐え切って尚且つすぐに意識を取り戻さなければならない。
(気を確かに持つんだ…っ!)
ジョーはハッキリと意識を保ち続けた。
いつもは途中で意識を喪ってしまうのだが、耐え切る事によって、未知の世界を見た。
ゴッドフェニックスが火の鳥となって、敵のメカ鉄獣に突っ込んで行くその瞬間に立ち会えたのだ。
物凄い衝撃がゴッドフェニックスを襲っていたが、やがてそれが終わった。
よくぞこんな衝撃に機体が耐えられるものだ、と感心している内に事が済んでいた。
火の鳥は自然と解消し、機内温度が整えられた。
意識を残しているのは、ジョーだけではなかった。
健も考える事は同様だったようだ。
トリケラトプスが跡形もなく消えて無くなっている事を2人は確認した。
「健。早く次の任務に入らねぇと!」
「ああ。こちらG−1号、南部博士、応答願います」
スクリーンに南部博士が現われた。
『良くやってくれたな』
博士はコックピット内を見回し、健とジョーだけが意識を喪わずに火の鳥に耐え切ったのだと言う事を知った。
『さすがは2人だ。次の任務に備えて火の鳥に耐え切ったか』
感慨深げにそう言った後、本題に入った。
『情報部員がウランが運ばれて行く先を突き止めた。
 WAD−20、この地点だ』
博士が映っているスクリーンの反対側にあるサブスクリーンにその地図が出た。
『諸君は此処に向かって欲しい』
「ラジャー」
言いながら、ジョーは竜を叩き起こしていた。
ゴッドフェニックスのメインパイロットにいつまでも気絶されていたのでは、ゴッドフェニックスは墜落してしまう。
火の鳥が終わって暫くは自動操縦になっているが、時間に限りがある。
竜は慌てて起きて、操縦桿を握った。
「竜、次の行き先はWAD−20地点だ」
「ラジャー」
竜は急速展開した。
「あわわわ……」
甚平がシートベルトに引っ掛かったまま、落ちそうになっていた。

「湖の底に基地を作ったか…」
健とジョーが並んで、渋い顔をしている。
ゴッドフェニックスから降りた科学忍者隊は、WAD−20地点にある湖を見下ろしていた。
「間違いありません。
 此処に複数のルートから運び込まれるのを我々が目撃しています。
 ミニ潜航艇を使って運び込んだようです」
目深に帽子を被り、サングラスとマスクで顔を隠した情報部員がそう言った。
その男の隣の男も同様の姿をしていたが、ジョーにはそれがフランツだと解った。
フランツもジョーが科学忍者隊のG−2号だと解っているように思えるのだが、お互いに相手の素性は知らない事にしていた。
「敵の潜航艇を戴くか、潜水して行くかだな」
ジョーが呟いた。
「潜航艇を奪うのは、現実味がない。
 もう粗方運び込んでしまったに違いないからな」
健はそう言って、ゴッドフェニックスで突っ込むか、携帯型酸素ボンベで身体1つで乗り込むかを考えている。
「健、奪われたウランを運び出さなければならねぇ。
 ゴッドフェニックスで行こうぜ」
ジョーは健が考えてる事を見抜いていた。
「そうだな。ゴッドフェニックスで我々が運び出して、基地を爆破するか!」
「我々は引き上げます。直(じき)に国連軍がやって来ますから、どこかでウランを引き渡してく下さい。
 後は軍が引き受ける筈です」
情報部員の最初の口を聞いた方が言った。
「ご苦労様でした。気をつけて」
健が声を掛けた時、その男はいきなり銃で撃たれて、もんどり打って倒れた。
敵の偵察兵がいたのだ。
ジョーは羽根手裏剣でそいつを退治した。
「くそぅ…。即死だぜ。
 早く気付いていれば助けられたものを…」
唇を噛み締める思いでジョーが悔しげに呟いた。
「我々の任務にはこう言う事があっても仕方がない。
 屍を拾って行く事が出来ないのは残念だが、後で軍に拾って貰おう。では!」
フランツと思しき男はそう言って感情を押し殺し、姿を消した。
(フランツ。気をつけろよ…)
ジョーは内心で呟いて見送った。
情報部員の仕事はそれだけ重い任務なのだと言う事をジョーは改めて思い知らされた。
危険な任務を負っているのは、科学忍者隊だけではないのだ。
「くそぅ。この名前も知らねぇ情報部員の弔い合戦だ。
 行こうぜ、健!」
「よし、全員ゴッドフェニックスに戻ろう。急げ!」
「ラジャー」
全員が風のように、鳥のように、ヒュッとトップドームの上へと飛翔した。
やがてゴッドフェニックスは湖の中に突っ込んだ。
湖水が溢れ出し、先程の情報部員の遺体を少し押し流してしまった。
(すまねぇな…)
ジョーはそっと片手拝みをした。
(これから必ず任務は完遂してやる。
 生命を賭けたあんたに報いる為にもよ…)
決意を新たに、レーダーをじっと見つめた。




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