『トリケラトプス(3)』

「レーダーに金属反応あり。左25度に大型の建物があるぜ」
ジョーが声を上げた。
「よし、竜。ゴッドフェニックスの機首を突っ込ませろ。
 全員で突入する!」
「え?おらもいいのけぇ?」
健の言葉に竜が眼を輝かせた。
「竜は中にある重機を使って、ウランをゴッドフェニックスに運ぶんだ。
 ジュンと甚平も手伝ってくれ。
 中の爆破は俺とジョーで遂行する。
 事は迅速を要するぞ。
 運び出しが完了次第、此処を爆破して引き上げる」
「ラジャー」
人選はベストだとジョーも思った。
何より自分が運搬係に入っていない事が気に入った。
「ようし、思いっきり暴れてやるぞ。
 あの情報部員の弔い合戦だからな」
「ちぇっ、いいのう、ジョーは」
「ジョー、随分あの情報部員に入れ込んでるな」
健はフランツとの事情を知らない。
ジョーの入れ込み振りに疑問を感じるのも無理はない。
「余り熱くなるなよ」
「解ってるぜ」
ジョーは気を引き締めた。
確かに熱くなり過ぎだ、と自分でも思った。
だが、ジョーは熱いまま行く男だった。
反省する必要などない。
ただ、気を引き締めたのは、必ずこの任務を遂行しなければならない、と自分自身を叱咤したからだ。
すぐにゴッドフェニックスがその機首を敵基地へと喰い込ませ、科学忍者隊の5人はトップドームへと上がった。
「ジョー、行くぜ!」
「おうっ!」
2人は顔を見合わせてトップドームから華麗に舞い降りた。
「ジュン、頼んだぞ!」
「ラジャー!」
ジュンが甚平と竜を引き連れて行った。
ジュンは竜よりも1つ年下だが、健とジョーが抜けると自然と3人の中でリーダーシップを発揮するようだ。
「はいはい」と2人が従って行く姿を横目に、健とジョーはズンズンと敵基地の中を進んだ。
既に敵兵が泉から湧き出る水のようにどっと現われ始めていた。
「健、おいでなすったぜ」
「ああ、此処は2人だけだ。ジョー、俺の背中は任せたぜ」
「同じ言葉をおめぇに返すぜ」
健はにこりと、ジョーはニヤリと笑った。
2人はリーダーとサブリーダーとして通じ合っていた。
息もピッタリな2人は、時には相似形のように敵兵の前を回転して、相手を混乱させた。
まるで体操の競技のように、2人は左右に片手で倒立しながら、マントと手を広げて真横に回って見せたのだ。
全く左右対称の動きで、敵兵はどこをマシンガン攻撃して良いのか解らなくなったらしい。
2人の間をマシンガンの弾丸が通過して行った。
2人は背中合わせになって、敵兵を蹴散らし始めた。
「ジョー、こいつらを倒して司令室を目指すぜ」
「ああ、当然の事だぜ!」
いつも基地や敵のメカ鉄獣内に忍び込んだ時は、そうだった。
もう飲み込めている。
これまでその戦法でいくつもの基地を破壊して来た。
ギャラクターはそれで司令室の警備を強化するようになったから、自ずと司令室の場所を知らせてくれているようなものだ。
ジョーはそう思ったが、ギャラクターはそうは思っていなかったのだろう。
愚かな事である。
科学忍者隊を司令室の前で押し止める事など、出来る筈もなかったのである。
(俺達も甘く見られているってもんだ…)
ジョーは唇を歪めた。
その意味など知らない敵兵が彼に襲い掛かる。
彼は身を低くして、敵兵の足払いをすると、今度は跳躍して高い場所から膝蹴りを喰らわせた。
2人とも華麗な闘い振りを披露している。
安心して自分の背中を任せられる仲間だ。
実力が伯仲しており、ライバル関係にあるとも考えられるが、それは訓練時代の話で、今は『戦友』である。
共に生命を賭して闘っている仲間だ。
勿論、科学忍者隊全員がそうであり、彼らは先程のフランツのように、いつかは仲間の屍を置いて行かなければならない事もあると言う覚悟はしていたが、誰もがそうならない事をいつだって強く念じていた。
そして全員の一致団結した闘い振りによって、此処までは無事で来た。
しかし、ジョーは見てしまった。
サングラスとマスクで表情は隠れていたが、あの場所を去る時のフランツの拳が、背中が震えていた事を…。
フランツも辛かっただろう、と思った。
今は感傷に溺れている暇はないが、せめてフランツの為に、弔い合戦としてこの任務を成功させたい。
直接手を下した男はジョーが羽根手裏剣で斃し、仇は取っていたのだが、それで気が済む筈がない。
ジョーはその羽根手裏剣を手にした。
纏めて3本の羽根手裏剣を放った。
見事に3人の敵が倒れた。
いつでも彼の狙いは正確だった。
羽根手裏剣と言う武器は彼には合っていたようだ。
他のメンバーも持ってはいるが、殆ど使う事はない。
ギャラクターからはジョー専用の武器だと認識されている事だろう。
もう少し早く敵を発見出来ていれば、フランツの仲間は助けられた。
ジョーにはその思いが強かった。
何故あの時、勘が働かなかったのか。
健ならどう思うだろう?
それがあの人の運命だった、とジョーを慰めるかもしれない。
でも、自分がその立場だったら、やはり自身を責めるに違いなかった。
ジョーはそんな考えにまだ捉われ続けている自分の両頬を叩いた。
(しっかりしやがれ!そんな事では殺られてしまうっ!)
心がしゃんとした。
ジョーは「うぉぉ〜っ!」と叫んで、敵兵の中に飛び込んで行った。
彼の重いパンチとキックは、確実に1発で敵兵を倒した。
長いリーチを利用して、敵兵に勢い良く拳を浴びせる。
そして、長い脚で重みのあるキックを与える。
その動きには淀みが全くない。
風を切り、力強く、時には柔軟に。
自由自在に伸び伸びと闘う姿は見ていて見惚れてしまう程だ。
2人は敵兵を綺麗さっぱり片付けてしまった。
「ジョー、あっちだ」
健に何の根拠があったかは解らないが、建物の中心部に向かって、健は走り始めた。
ジョーもそれに遅れる事なく、続いた。
またぞろ敵兵が現われて来る。
敵の隊員達の溜まりが近いのか、後から後から出て来た。
「健よ。司令室はこっち方面で間違いねぇようだな」
ジョーは納得したかのように呟いた。
そして、怒りの形相で敵兵の中へと飛び込んで行った。
彼が通り抜けた後には敵が束となって倒れ、見事な通り道が出来ていた。
別の敵と闘っていた健もそれを放り出しておいて、ジョーが作った道を走り抜けた。
敵兵の1人が健の足首を握り締めたが、健は右手でそれを握って、バキっと音をさせた。
骨が砕けたに違いない。
健はジョーにすぐ追いついた。
「ジュン達の作業はどうなっているかな?」
健はブレスレットに向かった。
ジョーは健が話している間に、敵兵を一気に引き受けた。
健もジョーに任せっきりにはしない。
ブーメランを投げて、敵兵を薙ぎ払っている。
『倉庫を発見したわ。相当量のウランが眠っている。
 トリケラトプスのメカに搭載されたのは、ほんの一部分だったのね』
「解った。とにかく作業を急いでくれ」
『ラジャー』
ジュンの背景からは闘っている音が響いていた。
敵兵もウランを死守したい処だ。
必死で向かって来る筈だ。
健はジュン達3人を信じた。
それしかなかった。
「ジョー、運び出しはこれからだ。
 まだギャラクターを一掃している処らしい」
「解った。そっちはまだ時間が掛かりそうだな。
 となれば、時間稼ぎが必要だ。
 どうする、健?こいつらと遊んでばかりはいられねぇぜ」
「カッツェがいる可能性もある。
 とにかく司令室まで一気に進もう」
「おう」
ジョーは力強く頷いた。




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