『仕立て上げられた暴君(1)』

科学忍者隊の任務はいつ何時呼び出しが掛かるか解らない。
ギャラクターは世界中に拠点を持っているので、ユートランドが夜中であろうと、出動命令が下る事は多々あった。
甚平などはまだ眠たい眼を擦りながらやって来る。
ジョーはあの状態でG−4号機を操縦して来る甚平を内心では心配している。
一歩間違えば居眠り運転だ。
空中を飛んでいるからまだマシだが、いつ墜落事故を起こしてもおかしくない。
ジュンには密かに叩き起こしたらコーヒーでも飲ませろ、と言ってある。
アイスコーヒーを作っておいて、冷蔵庫に入れておけばいいのだ。
実はジョーもそうしていた。
車の高速運転をするのだ。
居眠りなど間違っても出来ない。
今日も夜中の3時に博士からの交信で眠りを妨げられた。
博士はいつでもシャンとしている。
眠っていなかったのではないかと思う程、いつもと全く変わらない。
「G−2号ラジャー!」と答えながら、ジョーは冷蔵庫を開けていた。
アイスコーヒーを2杯飲んだ。
カフェインで頭を覚醒化させるのだ。
彼は眠りが浅い方だが、それでも、やはり眠気が完全に途絶える事はないから、こうしてカフェインを摂取する。
それから竜をブレスレットで呼び出し、G−2号機を拾って貰う場所を決めた。
いつものパターンだ。
お互いに普段の場所にいる時は合流場所も決まっている。
海岸に必ず基地への潜航艇があるとは限らないのだ。
こんな緊急事態には、竜と合体して駆けつける方が時間の節約になる。
そうして、三日月基地にはまだ眠そうな甚平を含めた科学忍者隊5人がバードスタイルで集合した。

「諸君、大変な事態になった」
南部博士はすぐに現われた。
「またギャラクターですね?」
健が訊くまでもない事だった。
「今度は何をやらかしたんです?」
ジョーは腕を組んだままで訊いた。
「ニチナン国の国王がギャラクターに取り込まれ、国の財宝をベルク・カッツェに全て横流ししていると言う。
 国民は飢え死に寸前、と言う酷い状態で、武器を取り闘い始めた。
 だが、食事も碌に摂っておらず、斃れる者が続出していると言うのだ」
「それなら国連軍が食糧を持って援助に行けば?」
と甚平が呟いたが、ジョーはごつんと拳を落とした。
「馬鹿。クーデターが起きている中に軍が介入出来るか?
 事はニチナン国の問題だ。
 で、博士。どうしてこんな事で科学忍者隊に出動命令が出たんです?」
ジョーは全員が感じている疑問をぶつけた。
「ニチナン国の国防長官から、助けを求めて来た。
 だが、私が聴いている状況とはちょっと話が違う。
 暴徒化した国民を停めてくれ、と言うのが国防長官の要請なのだ」
どう言う事なのか?
クーデターを起こした国民側からの救援要請ではないのか?
「これには裏がある。
 科学忍者隊を誘き寄せる為の何かがな」
南部博士は呟くように言った。
「恐らくはニチナン国の国王はギャラクターに洗脳されていると思われる。
 ニチナン国に金銀財宝が眠っていたのはずっと以前からの事で、急に降って沸いたものではない。
 それを急にギャラクターに横流しするとは、どう考えてもおかしい」
「国民を貧困に喘がせてまで、それをしていると?」
健が眉を顰めた。
「そう言う事だ。国王は正常ではない。
 国防長官はそう言った事は言って寄越さなかった。
 ただ、クーデターを何とかして欲しい、との要請だ。
 だが、こちらには情報部からの情報が入って来ている」
「それが博士が先に聴いていた話と言う訳ですね?」
ジョーは腕組みを解かぬまま言った。
「その通りだ。私は情報部の話がなければ、諸君を動かすつもりはなかった。
 先程ジョーが言ったように、事はニチナン国の問題だからだ。
 だが、クーデターの原因がギャラクターにあるとすれば、諸君に内密にニチナン国へと潜入して貰うしかないのだ」
「良く解りました。ギャラクターの野望を打ち砕き、国王の洗脳を解けばいいんですね」
健が模範解答をした。
「ニチナン国は豊かな国だった。
 国民は貧困生活に慣れていない。
 暴動が起こる事は当然の結果なのだ。
 諸君にはギャラクターを追い払い、国民を救って貰いたい」
「ラジャー」
そう言う事で、科学忍者隊はニチナン国へと出動する事になった。

「どうするよ?健。ゴッドフェニックスで大々的に行く訳には行かねぇぜ」
南部博士が去った後の司令室で、ジョーが言った。
「各自自分のメカでニチナン国に行こう。
 幸いニチナン国は四方を陸続きで他の国に囲まれている。
 周囲の国は国連加盟国だから、協力を仰いでおく、と博士が言っていた」
健がスクリーンの地図を指で指し示しながら言った。
「つまりは、ゴッドフェニックス、いんや、G−5号機は隣国のどこかに隠しておかなければならねぇって事かいのう?」
「まあ、そう言う事だ、竜」
ジョーがニヤリと笑って竜の肩を叩いた。
竜の言いたい事は解っている。
G−5号機だけは目立つので、単独行動がしにくい。
自分だけ徒歩で行くのか、と言っているのだ。
「竜はG−4号機に同乗しろ」
健が助け舟を出したので、竜は心底ホッとした表情を見せた。
「これが科学忍者隊かね?」
ジョーは肩を竦めて呆れて見せた。
「各自のメカは擬態のまま行く。
 G−4号機に竜が乗っても問題はないだろう」
そう言った健に、甚平はジョーのコピーのように腕を組み、不満そうな顔をして見せた。
「竜が横に乗るとさ。狭いし、何よりも、重いんだよね」
「まあ、そう言うな。任務の為さ」
健は甚平を宥めなければならなかった。
「それで、問題はどうやって国王に接近するかだな。
 状況がまるで見えて来ねぇ」
「ジョーの言う通りだ。情報部員の連絡によると、国王は軟禁されているらしい、と言う話だ。
 周りにカッツェの手の者がいると考えるのが自然だ」
「王宮に忍び込むしかねぇな」
ジョーの言葉に、健は情報部員が仕入れたと言うニチナン国の首都の地図をもう1度スクリーンに呼び出した。
「これをゴッドフェニックスに転送しておこう。
 此処で話しているより、移動しながら作戦を練ろう」
「ラジャー」
全員が出動態勢に入った。
意見交換はゴッドフェニックスに移って出動してからも続けられた。
「ニチナン国の王宮は此処だ。この写真を見てくれ」
健がメインスクリーンに王宮の写真を映し出す。
その間は計器飛行に切り替えている。
「この通り、警備は厳重だ。
 クーデターが起きているから当然の事とも言えるが、これをどうやって破るかだ」
スクリーンには、王宮の正門の様子から、もっと中側の望遠レンズでの写真に切り替わった。
国防長官の手の者と思われる、銃を持った軍隊が王宮までずっと2列に並んで一糸乱れず立っていた。
健は他の写真も映し出す。
「他の出入口も同様のようだな。
 尤も王室関連の人物は全てこの正門から出入りするようだが…」
健は腕を組んで、考え事をしていた。
「地下から行くしかないか…」
「マンホールか、健」
「王宮にだって水道設備は必要だ。地下水路が走っていない事はあるまい」
「ああ、そうだな」
ジョーは思わず腕組みを解いた。
「そうなると地下水路の地図が欲しい処だが…。
 施工業者を探して手に入れるしかねぇか。
 国民は国王を恨んでいる。
 俺達には喜んで協力するだろうぜ」
「表向きは国防長官からの要請だと言う事を忘れるなよ、ジョー」
「解ってるさ。だが、博士の指令はそうじゃねぇ」
「解っているのならいい」
健はそれ以上は何も言わなかった。
「だからこそ隠密裡に事を運ぶ必要があるわね」
ジュンが言った。
「全員で手分けをして、まずはクーデターの首謀者に接触を図ろう。
 国防長官の手の者に気付かれないように充分注意するんだ。
 失敗は許されないぞ」
健が全員に言い含めるように指示を出した。
「よし、竜。隣国のアルミナ国との国境が見えて来た。
 国境より手前にゴッドフェニックスを着陸させ、メカ分身する」
「ラジャー」
竜は着陸態勢に入った。




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