『仕立て上げられた暴君(2)』

ゴッドフェニックスはニチナン国の国境手前数キロの地点に着陸体制に入り、メカ分身した。
南部博士からは特別なパスポートを受け取っていた。
それで国境線は抜けられる手筈となっている。
G−2号機からG−3号機、G−4号機は3台連なって国境へと向かった。
国境の担当官はISOから既に言い含められていた。
健はセスナの為、ジョーのG−2号機のナビゲートシートに収まっていた。
一見仲間同士の気軽な旅行に見える。
日系イタリア人のジョーと、日米のハーフであるジュンが混じっている事で、彼らの間には無国籍感が漂っていた。
ニチナン国には無事に潜り込む事が出来た。
「ジョー、王宮は国の中心地にある。
 表向きは国防長官の呼び出しに応じた事になっているが、まだ科学忍者隊は到着していないと思わせたい。
 隠密裡の行動が必要だ」
健は運転席のジョーに言ったのだが、それはブレスレットから全員に伝わっている。
「まずは市井に潜り込み、クーデターの首謀者と接触しよう」
「解ってる…。それにしても確かに立派な街並みだが、人々は皆痩せ細って弱っている感じだな」
 国が財宝をギャラクターに貢いで、人々の生活を脅かしてる。
 こんな事があって溜まるかよ!」
ジョーはステアリングを叩いた。
今は街中に入ったので徐行運転をしている。
人々はぎすぎすとしており、日常的に、当たり前のように武器を背に背負っている。
どこで調達したのか、戦争の武器である。
子供までが武器を取って、立ち上がっている事にジョーは驚愕した。
「子供まで巻き込まれているってぇのか……」
それきり彼は絶句した。
「ジョー、停めろ」
健はG−2号機から降りた。
その人懐こい顔で、年配の男性−初老と言ってもいいだろう−に声を掛けた。
「僕達は観光で来たんですが、観光案内の本によるとこの国は華やかで美しい国だと言う事でした。
 一体何があったんです?
 戦争でも始まったのですか?」
「余所者に答える筋合いはない」
初老の男はプイと横を向いた。
「それは良く解ります。
 でも、僕らはこのまま見過ごせない。
 人々は皆痩せ細っているではありませんか?
 豊かな筈のこの国に何が?
 僕達に手伝える事はないのですか?」
「何で通りすがりの旅行者がそこまで言う?」
初老の男は警戒して、背中の銃を取った。
「この国に友達がいるからです。
 そして音信不通になっているのです」
此処の処は勿論嘘も方便だった。
「僕らは本当に心配しているのです」
健の円らな青い瞳が、初老の男を騙し込む事になった。
それは彼がこの国の人達を心配している事が事実だったからであろう。
嘘の中にある『真実』が、初老の男の心を突き動かした。
「そうかい。友達がのう…」
男は暫く考え込んだ。
「国防長官が率いる軍隊にやられたのかもしれん…」
気の毒そうに健達を見た。
「国王は明らかに洗脳されとる。
 我々の生活を脅かしてまで、我が国の金銀財宝をギャラクターなる組織に横流しにする筈はない」
「そこまで解っているんですか?」
訊き役は専ら健が行なった。
ジョー、ジュン、甚平、竜の4人はその後ろで黙って聴いていた。
「だから、我々は銃を取ってクーデターを起こした」
「誰がそれの指揮を取っているのです?
 是非友達を探したい。
 教えて下さい」
「もう一般に降嫁された国王の姫様だ。
 マリーン王女、今は一般市民となっておられる」
「マ…マリーン…?」
ジョーは小声で呆然と呟いた。
その名前に衝撃を受けた事は、何とか押し隠す事が出来た。
サーキットで死んだ彼女と同じ名前だった。
恋までには発展しなかったが、彼女の事を憎からず思っていた事は事実だ。
その名前と同名の元王女が、クーデターの首謀者だったとは…。
元王女なら父親の人格は良く知っている筈。
父親の変貌振りを一番嘆いているのが彼女である事も頷けた。
「どこへ行けば、王女に逢えますか?」
健が1人で話を進めた。
気がついたら、健に言われるままG−2号機を走らせていた。

首都の街は完全に国防長官の手の者によって、封鎖されていた。
そこに住む人々は怯えながら生活をしていた。
その街からかなり北西に逸れた処に、マランヤと言う小さな街があった。
そこがクーデターの本部的な場所になっていると言う。
クーデターの本部は何度も襲撃に遭い、その度に場所を移動しているので、またいつ国防長官に発見されて攻撃を受けるか解らないとの事だった。
何とも殺伐とした空気の中、5人は進んだ。
銃を持った人々の数が増えて来た。
5人はそれぞれのマシンから降りて、歩いて先へと進んだ。
擦れ違う人々が余所者が何をしに来た?と言う顔で彼らを一瞥して行く。
その先に教会があった。
先程の初老の男は教会が今の本拠地になっている、と教えてくれた。
教会の前には警備を担当しているらしい若者が5名揃っていた。
入ろうとした5人に、銃を向ける。
「我々は怪しい者ではない。国際科学技術庁からの指示であなた方に加勢しに来た」
健は博士から与えられた身分証明書を見せた。
ジョー以下の4人も同様に、証明書を提示した。
「少し待っていろ」
まだ歳若い声をした男が中へと入って行った。
歳の頃は健やジョーと変わるまい。
「マリーン王女が逢われるそうだ。
 降嫁されたからとは言っても、国王の血筋であられるお方だ。
 くれぐれも失礼のないようにしてくれ。
 それから入る前に名前を訊いておこう」
「俺は健。こっちから、ジョー、甚平、ジュン、竜だ」
健が全員を紹介した。
「俺はヒムソン。歳はあんた達とそう変わらないようだな。
 今年19になった」
「俺とジョーは18だ。竜は17、ジュンが16、甚平は11歳」
「若いな。同胞よ。
 王女様は心身共にお疲れだ。
 謁見は早めに切り上げてくれ」
「解った、ヒムソン」
健はその肩を叩いて、中へと入って行った。
その後にジョー達も続いた。
中はそれ程広くはなかった。
こんな処に元王女が…、と思わせるような寂れた教会だった。
彼女はそこに降嫁した先の夫と共にいた。
夫はそれなりの血筋の人間で、侯爵の位を持っていた。
「私は王女の夫のエヴァン侯爵だ。
 同席させて貰う」
「解りました」
健は頷いた。
「国際科学技術庁がどうして貴方達を此処に寄越したの?
 こんなに若い人達を…」
マリーン王女は20代後半の色白な美人だった。
この女(ひと)が先頭を切って闘うとは思えなかったが、動きやすい服装に、やはり背中に銃を背負っている。
「軍隊やISOの情報部員を寄越すより、若い我々の方が怪しまれずに済むからです。
 実は国防長官からクーデターを鎮めてくれと科学忍者隊に要請があったのですが、ISOの南部博士は事前にあなた方の状況を掴んでおり、『これはおかしい』と科学忍者隊を出動させなかったのです。
 一応国防長官からの要請は『保留』としているそうですが…」
健が説明した。
「おれ…いや、私達はサーカス団から急遽引き抜かれたのです。
 身も軽いし、腕っ節も強い。
 若いがあなた方の助けになるでしょう」
ジョーの低い声が教会の建物に良く反射した。
あのサーキットのマリーンも美しかったが、方向性が違う。
髪の色も声も違う。
ジョーは似ていなくて良かった、と思った。
似ていたら感情移入してしまうに決まっている。
同じなのは名前だけだった。
「国王が洗脳されているのでは、と言うのがISOの情報部の見方ですが、それについてはどう思われますか?」
健が訊いた。
「全くその通りです。間違いありません。
 父はギャラクターに洗脳されています」
「どうしてギャラクターだと解ったのですか?」
「それは、戦闘の時に1度ベルク・カッツェの姿を見たからです」
王女は淀みなく言った。
ベルク・カッツェは人々の前に姿を現わした事もあるから、元王女がそれを知っていても不思議ではなかった。




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