『仕立て上げられた暴君(3)』

「ベルク・カッツェめ、随分堂々と出て来たもんだな…」
ジョーが憎々しげに呟いた。
その時、ピーっピーっと指笛を吹く音が辺りに響いた。
危険を知らせる合図なのは科学忍者隊にも解る。
その指笛の数からして尋常ではない。
「ハリー、とうとう来たわね」
ハリーとはエヴァン侯爵のファーストネームだ。
「俺達が連れて来たのだろうか?」
ジョーが唸るように言った。
やって来たのは国防長官の手の者達だ。
「いや、違う。そろそろ奴らが来る頃だと思っていた。
 君達は早く逃げたまえっ!」
エヴァン侯爵は意志の強い人間だった。
夫人であるマリーン元王女と一緒に銃を取って立ち上がった。
「我々は助けになりますよ」
ジョーはそう言うと、教会の外に走り出た。
健達も同様に外へと出た。
先程警護に当たっていた若者5人が銃を構えていて、尋常ならざる空気が充満していた。
国防長官率いる軍隊がクーデターの本拠地を襲撃しに来たのだ。
彼らは一見して武器も持っていない健達5人に不安の色を隠せなかった。
「早く逃げろっ!あいつらは旅行者だろうと構わずに巻き込むぞ」
「ISOからの指示で来たんだ。
 おいそれと逃げ出す訳には行かねぇのさ」
ジョーが不敵に笑った。
「敵はマシンガンを持っているんだぞっ!」
ヒムソンと名乗った男が叫んだが、科学忍者隊の5人はマシンガンなど恐れてはいなかった。
変身出来れば尚良いのだが、そうは行かない。
此処は生身で闘うしかなかった。
「全員、無事に乗り切れよ」
健がブレスレットに向かって、それぞれに散った仲間に声を掛けた。

ジョーは敵兵に対して容赦はしなかった。
良く見たらギャラクターの隊員ではないか。
国防長官の手の者とは言っても、実質はギャラクターなのだ。
その事を健にブレスレットで告げた。
『解っている。慎重にやれよ、ジョー』
「ああ。勿論だ!」
言い終わった時には、ジーンズの隠しポケットからエアガンを取り出していた。
肉弾戦でも充分に強い彼だが、エアガンがあれば百の味方を手に入れたも同然だった。
「うぉりゃ〜!」
と叫びながら、敵兵の中に飛び込んで行く。
クーデターの若い連中が、5人の闘い振りにビックリして手も足も出ないと言った風情だった。
ジョーは長い脚を回転させ、周囲にいた敵を見事に蹴り倒した。
次の瞬間にはバネを利かせて跳躍し、敵兵の喉元にエアガンを突き付け、その状態で長い脚が後方に飛んでいた。
彼の後ろ側にいた敵が重いキックを受けて吹っ飛んだ。
エアガンを突きつけられた敵兵はブルブルと震えていた。
「ギャラクターめ。いつからこの国に入り込みやがった?」
「い…1年前だ…」
「国王を少しずつ洗脳して行ったんだな?」
「まずは…側近に化けて少しずつ食事に薬を混入し、操りやすいようにコントロールしたのさ…」
ジョーはエアガンの銃把を敵兵の首へと落とした。
敵兵は意識を奈落の底へと突き放した。
周りにはまだ敵がいる。
ジョーは構わずに走り込んで行った。
羽根手裏剣を手に、敵兵のマスクを裂いて回る。
羽根手裏剣を現場に残せば、科学忍者隊が来たと言う事が解ってしまう。
だがこう言った使い方ならバレはしまい。
表向きは国防長官の要請に応じるがゴッドフェニックスのメンテナンスの為、暫く猶予をくれ、と言う事になっている。
だから、既に科学忍者隊がこの国に潜入している事を知られる訳には行かなかったのだ。
南部博士は彼らに国王を救い出す事を指令として与えた。
つまりは国防長官の要望に従う訳には行かないのである。
それは冷静に考えれば誰でも解る。
元王女が嘘でもついていない限りは、この状況を見て、国防長官の方がギャラクターに取り込まれていると見るしかない。
そして、実際に国防長官の手の者の中にギャラクターが紛れ込んでいる。
ジョーは跳躍して、敵兵の群れへと飛び込んだ。
長い手足を利用して闘いまくる。
重い膝蹴りが飛んだ。
生身であっても、彼らにはギャラクターのマシンガンなど敵ではなかった。
エアガンでマシンガンの軌道を少しずらしてやれば、勝手に同士討ちをしてくれた。
甚平も専らその手法を使っているらしかった。
アメリカンクラッカーで敵を翻弄している。
ジュンもヨーヨーがあるから、同じような闘い方をしている。
健はブーメランを伸ばしてヌンチャクのように利用したりして、自由な闘い方をしていた。
竜はと言えば、相変わらずの力技だ。
敵兵を1人重量挙げのように持ち上げて、相手の溜まりに投げ込むと言うシンプルな方式が意外と効いた。
ジョーはエアガンの三日月型キットで、敵兵の顎を砕いて行く。
小気味良い音が響き渡り、敵兵は崩れ落ちた。
「大方片付いたようだな…」
ジョーが呟いた時、クーデターのメンバー達があちらこちらから現われた。
彼らが殆ど手出しをする事なく、この場が片付いてしまったのだ。
「ただのサーカス団じゃなさそうだな…」
エヴァン侯爵がマリーン王女に向けて、笑顔を見せた。
科学忍者隊の5人−正体は隠しているが−この若者達が敵ではない事を、改めて実感した瞬間である。
そして、非常に役に立つ力強い味方を得たと言った感じで、クーデターのメンバー達は、5人を歓迎した。

その夜、健とジョーは王女と侯爵の手引きで、地下水路の施工業者に逢い、設計図を手に入れていた。
「此処から王宮に侵入する事は出来なくはないが、警備が厳しい筈じゃ。
 マンホールは宮廷の庭の隅に2箇所あるが、そこにも警備の者を置いている事じゃろうて」
王宮を造った時にはまだ若かったのだろう。
すっかり総白髪になった爺さんがそう言った。
「王宮が出来てもう40年になる。
 マンホールには庭の蔦が覆っていて、中からは開けられなくなっている可能性もある。
 爆弾を使えば容易な事だが、それでは侵入者がいると知らせているようなものじゃ」
「解っています。でも、国王が軟禁されていると言う情報がISOの情報部員から齎されています。
 もう猶予ならない事態になっているのではありませんか?
 国王は今のような暴君ではなかった筈です。
 何とか救い出したい。
 だから貴方達も銃を取って闘っているのでしょう?」
健が言った事は真理を突いていた。
「その通りだ…。だが、王宮に忍び込もうとして成功した者はまだおらん」
「その成功者に俺達がなって見せる」
ジョーが強気で言って見せた。
勿論、今夜にでもやる気である。
夜がチャンスだ。
夜陰に紛れて、隠密行動がし易い。
「健、行こうぜ」
「ああ。国王がどれ位まで正気でいるのか見たい。
 側近の状況もな。
 出来る事なら盗聴器を仕掛けて来たい処だ」
「盗聴器なら準備OKだぜ」
元王女の話では、国王の部屋は最上階、5階にある。
5階の部屋は1部屋が国王の部屋で、同じ広さの部屋がもう1つあるが、そちらは側近の詰所になっていると言う。
国王の部屋には、仕切りがあって、通路側には超側近がいる部屋がある。
国王にもしもの事があった場合に、すぐに飛び込んで行く、執事のような者がいるのだ。
その者は長年国王の厚い信任を受けていた、と王女は言う。
「その男がいたのなら、どうして国王がこんな目に遭ったのだろうな…」
健が呟いた。
「そいつが既に殺されていて、カッツェが変装していたのだとしたら?
 簡単に国王は騙されるんじゃねぇのか?」
ジョーの見方は間違っていなかった。
健も思わずその説得力に、頷いた。
「お前が見た通りなのは、間違いなさそうだな。
 信頼している者ならば、国王に取り込んで何とでも出来る」
「ベルク・カッツェ。相変わらず汚ねぇ野郎だぜ…」
ジョーは怒りを滲ませた。
「国民がこんなに貧困に苦しむ程の事をたった1年で遣り遂げるとは、大した野郎だ」
ジョーが述懐するのも無理はなかった。
子供までが闘いに駆り出されているこの国の現状に、ジョーが我慢ならない事は健が一番良く知っていた。
(また、自分のような子供が出て来る…)
ジョーの思いはそこなのだ。
健は痛い程その気持ちが理解出来た。
「ジョー、俺達の手でこのニチナン国の人々を、子供達を救うんだ。
 マランヤの本拠地はこのままジュン達に守らせて、王宮への潜入は俺達2人で行くぞ」
「ああ、望む処だ」
ジョーは低い声で答えた。
怒りはマックスに達している。
だが、健がいる限り、ジョーが冷静さを失う事はない。
「行くぜ、ジョー」
「おうっ!」
2人はそうして、あるマンホールから地下水路へと潜入した。




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