『仕立て上げられた暴君(5)』

『何事が起きたのだ?突然眠くなった気がするが…。
 時間は30分程度だし、国王は変わりない。
 私が居眠りしてしまっただけなのか?』
国王の部屋を覗いたらしい執事の声が聴こえていた。
『やあ、何をごちゃごちゃ言っておるのじゃ。
 折角気持ち良く微酔んでいたものを、眼が醒めてしまったではないか』
国王の声がする。
健はジュンに連絡して、その会話を録音・監視して貰う事にした。
これから王宮を脱け出すのにブレスレットから会話が聴こえていたのでは問題があるからである。
健もジョーも問題なく、脱出に成功し、拠点を別の場所に移したクーデター軍と合流した。
「マリーン王女、国王は正気でした。
 洗脳されているのは、執事の方です。
 まだ探り切れていないのですが、黒幕はやはり国防長官。
 恐らく科学忍者隊を呼んだのはついでに罠を掛けようと言う計画だったのかと思われます」
健が報告をした。
廃墟となったビルに移動した彼らは、まだ落ち着かぬ様子だったが、国王が正気だと解った事は収穫だった。
「国王は自由を奪われている。
 あの執事が国王を軟禁しているからだ。
 まずは国防長官の悪事を暴いて、それから国王の救出に当たるのがベストだろう」
ジョーはつい、普段の言葉遣いになってしまっていた。
「国防長官は人が違ったようだ、と国王は言っていました。
 だとすれば、ベルク・カッツェが国防長官に化けている可能性は充分にあります」
健が言った。
「国防長官邸はどこですか?これから忍び込みます」
ジョーがいきり立ったように言った。
「忍び込んでどうするのです?」
王女が不安そうに訊ねた。
「まずは国防長官が遺体になっていないか、或いはどこかに監禁されていないか。
 それを確認する事です。
 ベルク・カッツェが摩り替わっている可能性を証明出来ます」
健が力強く言った。
「解りました。場所はお教えします。
 でも、王宮同様警備は厳しい筈です」
エヴァン侯爵がそう言って地図を広げた。
「今夜の内に何とか忍び込み、戻って来たい」
ジョーが呟くように言った。
今は23時半。
王宮に忍び込んだのが22時だった。
まだまだ夜は長い。
「どうするの?今度は私達が行きましょうか?」
ジュンが訊いた。
「いや、今回も俺とジョーで行く。
 3人はこの人達を守っていてくれ」
「解ったわ」
「ちぇっ、かっこいい役はいつも2人じゃないか」
甚平が唇を尖らせて拗ねる姿は可愛かったが、健は言い放った。
「それだけ危険なんだ。
 さっき忍び込んだ王宮よりも、警備は厳しいに違いない。
 カッツェがいるなら尚更だ」
「まずは地下に潜って、『本物の』国防長官を探して来るだけさ。
 それ以上の事はしねぇで帰って来るぜ」
ジョーも言った。

2人は国防長官邸に忍び込んだ。
見立て通り、地下室に国防長官の制服を着た白骨死体を発見するのには手間取らなかった。
「カッツェめ。やりやがったな」
「しかし、カッツェも1年間ずっと国防長官に化けていたとは思えない。
 他の任務もあった筈だ。
 カッツェの影武者が何人かいたんじゃないかな?」
健が冷静に言った。
「そりゃそうだろうぜ。そんなにあちこちの国にカッツェがいるだなんて有り得ねぇ」
「さて、これからどうするかだが…」
「今、此処にいるのがカッツェ自身である可能性は高いぜ。
 科学忍者隊に助けを求めて来た。
 それが奴らの罠なのであれば、本人が出張って来ている筈だ」
「だが、2人で乗り込むのは危険過ぎるだろう。
 南部博士に此処までの事を報告して、科学忍者隊が国防長官の要望に答えて出動する事にしよう」
「なる程、こちらから罠に嵌まってやる訳か」
「ああ、そうだ」
「そうと決まったら、此処に長居する必要はなくなった。
 行こうぜ、健」
ジョーは国防長官の白骨死体から腕時計を抜き取った。
念の為、本人の遺体であるかどうか、王女に判別して貰いたいからだ。
そうして2人はクーデター軍の本拠地へと引き上げた。
もう3時を回っていた。
王女達は寝ずに彼らの帰りを待っていた。
ジュンが眠るように勧めたのだが、そうは行かない、自分達の国の事だから、と王女は眠らなかったのだ。
「何と言う事でしょう!
 あなた方の言う通りだったのですね!」
王女は美しい顔(かんばせ)を両手で覆った。
「その腕時計は間違いなく、国防長官の物です。
 確か病気で亡くなった奥様に貰った物で、とても大切にしておられた筈……」
王女が崩れ落ちそうになり、エヴァン侯爵がそれを支えた。
「私達は一旦引き上げてISOに報告しなければなりません。
 恐らくは科学忍者隊が、国防長官の要求に従って出て来る事になるでしょう。
 でも、それは貴方達を潰す為じゃない。
 助ける為だと言う事を解ってやって下さい」
健が言った。
「もしかして貴方達…」
王女はそう言って口を噤んだ。
この戦闘能力が半端ではない5人組。
科学忍者隊も5人だと聴いている。
王女は全てを悟ったが、それを口に出す事は控えた。
(賢い王女だ…)
と健達は感心した。
どうしてこの国には『降嫁』の制度があるのだろう。
女性も優秀な人間であるならば、国を継ぐ事が出来るようにしたらいいのに。
ジョーはそう思った。
国王には王子はいないようだ。
どんなに優秀で聡明でも、女性には国王となる資格はないと言うのだろうか?
その国々の制度が違うのは仕方がない。
でも、ジョーは女帝がいてもいいのではないかと思っている。
実際に女帝が国を治めている所もあるのだから…。
このマリーン王女とエヴァン侯爵なら、立派にこのニチナン国を治めて行く事が可能だろう。
まあ、しかし、それは余所者が考える事ではない。
ジョーは考えを途中で断ち切った。
彼らは一旦ゴッドフェニックスに戻り、南部博士と今後の相談をする事になった。

『うむ…。やはりカッツェが国防長官に成り代わっていたか。
 クーデターを収めて欲しい、と言う連絡が入った時からおかしいとは思っていたが…』
南部博士はスクリーンの向こうで顎に手を当て唸っていた。
此処はゴッドフェニックスが着陸したニチナン国の隣国だった。
「やっと事件は単純になりましたよ。
 国王は軟禁されて利用されているだけでした」
ジョーが言った。
「だが、執事までが取り込まれていて、国王が何ともないと言えば、不思議な事でもあるわ」
ジュンが疑問をぶつけた。
「国王は酷く弱っていた。
 生かさず殺さずの状態で軟禁されているんだ。
 今、国王に死なれては後継者を立てられないので困るのだろう。
 このままの状態で金銀財宝を全て吸い取ってしまい、使い捨てにするつもりではなかろうか?」
健がスクリーンの中の博士に「どうですか?」と問う眼を投げ掛けた。
『その考えは私の意見と一致している。
 科学忍者隊はゴッドフェニックスのオーバーホールが終了したので、国防長官の救援要請により出動する、と打電しておこう。
 諸君はくれぐれも注意して行動するように』
「ラジャー!」
いよいよ、国防長官とご対面だ。
何が待っているか解らない。
国防長官がカッツェである可能性が高い以上、直接対決となる事は充分有り得る。
ジョーは腕が鳴るのを感じた。
自分達が事を片付けた後、国王の治療をし、その間にニチナン国の法律を変えて、行く行くはあの王女と夫が収めて行けばいい。
それは彼女達がする事だ。
ジョーは握り拳を左手に当てた。
(やってやる…)と言う意識の表われだった。




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