『仕立て上げられた暴君(6)』

科学忍者隊はニチナン国の国防長官の要請に応じて出動する事になった。
合流場所は先方で指定して来た山奥だった。
もはやカッツェの変装である事は間違いのない、国防長官が何を企んでいるのか、科学忍者隊は警戒を続けていた。
「罠が待ち受けている事は間違いない。それもいつなのか想像も付かない。
 全員努々油断はするなよ」
健が注意をした。
「カッツェの野郎の事だ。どんなに卑劣な罠を仕掛けているか解らねぇぜ。
 俺達にも覚悟が必要だ。
 どんな眼に遭っても、奴らの鼻を明かしてやりてぇ」
「そうね。汚い野望しか感じないわ」
「カッツェってどれだけ変装の名人なのか知らないけどさぁ、良くもまあ、此処まであちこちの国に潜入するもんだね。
 おいら、ある意味感心するよ」
「そろそろ出発するぞい」
敢えてゴッドフェニックスはニチナン国の隣国から離れ、暫くは遠くの空を巡回していた。
しかし、そろそろ約束の刻限だ。
竜はニチナン国に機首を向けた。 ゴッドフェニックスのエンジンが唸りを上げる。
「いよいよだな…」
ジョーは右手の拳を左手にパシっと当てた。
まるで「腕が鳴る」と言いたげだった。
「ジョーの兄貴、やっぱりあの王女に肩入れしているのかなぁ?」
甚平はこっそりとジュンに言ったが、ジュンに窘められた。
「甚平、やめなさい」
他の4人もマリーンがサーキットで事故死した事は新聞を見て知っている。
その時のジョーの様子が鮮明に思い出される。
フランツから連絡を受けたジョーはショックを隠し切れなかった。
まだ淡い恋に発展するかしないか、と言った段階だったが、ジョーはマリーンを喪って初めてその自分の気持ちに気付いたのだ。
科学忍者隊としての任務があるから、恋愛事には背中を向けて生きて来た彼なのに……。
「ジュン、俺に気遣う必要はねぇ。
 俺が王女に肩入れする筈がねぇだろ?
 これは本来ならニチナン国の問題だ。
 だが、そこにギャラクターが絡んでいるとなれば話は別だろ?」
ジョーは2人の会話を聴いていたのだ。
「そうね。ごめんなさい」
「別に…いいって事よ」
ジョーは逸れきり腕を組んで黙り込んだ。
これから訪れる危機がどのような物か想像をしていたのである。
しかし、考えても仕方がない事に気付いた。
科学忍者隊はどんな危機にも対応出来るように訓練されている筈だ。
肉体的にも精神的にも……。
ジョーは健と顔を見合わせて頷き合った。
もう行くしかないのだ。
どんな事があろうとも……。

国防長官指定の場所は、文字通り山奥にあり、ゴッドフェニックスは地上に×印が付けられている地点に下りるように指示があった。
「竜、着陸時には充分注意しろ。
 いきなり集中砲火を浴びる事も有り得る」
「ラジャー」
しかし、ゴッドフェニックスは無事に着陸した。
科学忍者隊はトップドームから降りる事になった。
全員が華麗に跳躍する。
ジョーは最後に1人だけ1回転して降りる張り切り振りだった。
着地して彼はニヤリと笑った。
どんな事をして来ても屈しないと言う決意の表われだった。
国防長官はジープに乗って現われた。
今の処、友好的な様子を見せていた。
「科学忍者隊の皆さん。ようこそお見え下さいました」
勿論カッツェとは姿・形、そして声色を変えている。
器用なものだ、とジョーは今更ながら感心した。
周囲の者が奇異に思わないと言う事は、完璧に国防長官に化けているのか、それともそれまでの取り巻きも淘汰されて、周囲を全てギャラクターが固めているのかもしれない。
国防長官が官邸の地下で白骨死体となって発見された以上、その可能性は高かった。
「健、見ろ。部下の連中の軍服は、ギャラクターの隊員服に重ね着しているだけだぜ」
足がギャラクター独特のスタイルだった。
「ああ、解っている。周りを取り囲んでいるのは、全てギャラクターの手の者だ」
健もその位はお見通しだった。
甚平がそれを聴いて少し怯んだが、またジュンに窘められていた。
「とにかく、行ってみよう」
健が言い、国防長官の方に歩み寄る。
他の4人もそれに続いた。
「まずは私の官邸へご案内します。詳しい話はそこで。
 どうぞヘリコプターを用意しましたので、お乗り下さい」
国防長官は謙って何度もお辞儀を繰り返した。
(けっ、気持ちが悪りぃ!)
ジョーは胸糞が悪くなったが、黙って健に続いてヘリコプターに搭乗した。
このヘリが官邸に行くとは限らない。
地獄が待っているのかも知れなかった。
国防長官が別のヘリコプターに乗り込んだのが気になった。
此処に乗っているのは、操縦士と科学忍者隊の5人だけだ。
操縦士1人の生命など、何とも思っていないカッツェだった。
操縦士がそっと含み声で呟いた。
「科学忍者隊の皆さん。私はISO情報部員です。
 これからギャラクターの基地にある人工マグマにこのヘリを突っ込ませるよう、指示を受けています」
「何ですって!?」
健も声が大きくならないように注意しながら訊いた。
情報部員がギャラクターの内部に入り込んでいたのは納得が行く。
南部博士の元に情報を流していたのは彼なのだろう。
「情報部員は2人1組で行動すると聴いているが?」
ジョーは疑い深い。
思わずその事を言った。
「仲間は基地に潜入した段階で正体がばれて処刑された。
 俺の眼の前でな……」
この人もフランツのようにそんな別れを経験していたのだ。
「悪い事を訊いたな…」
ジョーは低い声で言った。
「それが私達の役目なのだ。仕方がない。
 それよりもこれからどうするかだ」
情報部員は冷静に言った。
「私はカッツェの言いなりにはならない。
 火口の僅か手前で君達は此処から飛び降りてくれ。
 後は君達で何とかやってくれ」
「貴方はどうするつもりですか?」
健が喰い下がった。
「カッツェに科学忍者隊が死んだと思わせる為には、このヘリを火口に飛び込ませるしかあるまい」
「そんな事をしたら貴方は死にますよ!?」
健が悲鳴のような声を上げた。
「そんな事は解っている。
 だが、そうするしか道はない」
「あんたも俺達と一緒に飛び降りれはいいんだ。
 俺があんたを支えてやれば、無事に着地出来る。
 仲間を喪ったからって、あんたまで死ぬ事ぁねぇっ!」
ジョーが名前も知らぬ情報部員に喰って掛かった。
「どうして死ぬ事を前提にして考える?
 生きられる道があるのなら、活路を開く事を考えろ!」
ジョーは殴りたい気持ちを抑えた。
しかし、その言葉は情報部員の胸に堪えたようだった。
「ギリギリまで待ってから飛び降りれば大丈夫だ。
 ヘリが勝手に火口に墜落してくれる」
健もそう言った。
「俺とG−2号とで貴方を支えて降りますから。
 マントがあるので、自由自在に降りる場所を選べます。
 心配せずに我々に任せて下さい」
健の言葉についに情報部員は頷いた。
「解りました。やってみましょう」
そうしてやがてカッツェの指示だと言う人工の火口が見えて来た。
「この辺りで事故と見せ掛けて墜落するように言われている」
情報部員は含み声で言った後、急にマイクに向かって声を上げた。
「国防長官!ヘリが突然操縦不能に陥りました!
 もう不時着するしかないようです!」
「しかし、君!そこは火口が近いぞ」
声色を変えたカッツェが惚けている、と全員が思った。
ヘリはそのまま真っ逆様に墜落した。
墜落寸前に、ヘリから密やかに離れる6つの影があった事は、国防長官に化けたカッツェにも見えなかった筈だ。

情報部員も無事に地上へ降りられてホッとした様子だった。
1度は死を覚悟したのだ。
「あそこの山脈の割れ目が基地の入口です。
 案内しましょう!」
情報部員が走り出したので、全員それに続いた。
しかし、ジョーは考えていた。
まだ、この情報部員も完全に信頼しても良いかは解らない、と言う事を…。
協力者に見せ掛けて科学忍者隊を油断させるのが目的かもしれない。
ジョーは自分のその習性を哀しいと思った事はない。
(用心深いだけさ…)
1人呟いて、健達に続くのであった。




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