『仕立て上げられた暴君(7)』

ジョーの用心深さは健の上を行っていた。
勿論過剰過ぎる事がある事も自覚している。
だが、科学忍者隊と言う役目に就いている以上、常に油断は禁物だ。
冷静に任務に掛からなければならない。
ジョーは彼らを先導する情報部員を後方から睨むように見ながら、健の後に続いた。
あんたは1人で行動しているのか、とさっきジョーはカマを掛けたのには、疑いの気持ちがあったからである。
情報部員なら2人1組で行動している筈だからだ。
仲間が眼の前で処刑されたと言う話は、同情を引く為かもしれない。
勿論、本当かもしれなかったが、ジョーは一応それを否定する処から入った。
何しろ一国の国王がギャラクターに国民を省みない『暴君』として仕立て上げられているのだ。
抜きつ抜かれつ狐の化かし合いを続けているような印象を受ける。
用心深過ぎる位で丁度良いのだ、とジョーは自分自身を納得させた。
科学忍者隊の5人は情報部員に続いて山脈の割れ目の中に入り込んだ。
情報部員を名乗った男は、ギャラクターの隊員服を着ていたが、そこで初めてマスクを剥ぎ取って見せた。
健の顔をきつくして青年にしたような二枚目の顔が現われた。
ジョーはそれを見て驚いた。
「ロジャース……」
「驚いただろ?テストドライバーとして雇われたが、こっちの才能が買われてな」
健達も驚いていたが、ジョーの驚きの方が上回っていた。
こうしてジョーの疑いは杞憂に終わったが、それは何か違和感を感じていたからだ。
その違和感の正体は相手がロジャースだったからなのだ。
「ジョーは相変わらず勘がいい」
ロジャースは笑った。
(待てよ…。ロジャースの面を被って俺達を騙そうとしているのかもしれねぇ…)
ジョーは少し警戒した。
警戒心がなかなか解けないのは彼の性分なのだろう。
「ロジャース。右の掌を見せろ」
ジョーが言った事に健は怪訝な顔を見せたが、ロジャースは笑ってそれを突き出した。
掌には、オリオン座の三ツ星のように、3つ黒子が並んでいたのである。
「本物だな。安心していいぜ、健」
ジョーは笑って、ロジャースの背中を叩いた。
ロジャースの身体的特徴を知っていて、試したのだ。
「ジョーはロジャースを疑っていたのか?」
人を疑う事を余りしない健が訊いた。
「ああ、こんな処に現われるなんて出来過ぎているからな。
 それも『エース』のように相棒を失うだなんてよ」
将来的には『エース』と組めば良いコンビになれるのではないか、とジョーは余計な事だと知りつつも考えた。
しかし、この時、20日間の特別休暇を終えたフランツは新しい相棒を断り、既にある情報を掴んで1人別の任務に入っていると言う事をジョーはまだ知らなかった。
「それよりも基地への潜入が先だ」
健に現実に引き戻された。
「そうね。折角此処までギャラクターにご案内して貰ったんだもの」
ジュンも頷いた。
甚平も竜も同じ気持ちだった。
ギャラクターは科学忍者隊を殺そうと目論んで、実際には自分達の基地の場所を知らせてしまったのだ。
ロジャースはギャラクターの隊員服の上から着ていた軍服を脱ぎ捨て、隊員服も脱いで投げ捨てた。
黒いレーシングスーツ姿になった。
ブラックバードを思わせる姿だったが、良く似合っていた。
この服装は動きやすくていい。
「国防長官はベルク・カッツェが変装している」
ロジャースが言った。
「解っている。我々は国防長官の官邸に潜入した。
 地下室に国防長官の白骨死体があったよ。
 身につけていた腕時計をマリーン王女に確認して貰った」
健が言った。
「クーデター軍のリーダーか…?」
ロジャースが呟いた。
「科学忍者隊がそっちから手を回すとは思わなかったな」
「我々だって、国防長官が怪しい事ぐらいはすぐに解ったからな」
ジョーが強い声音で言った。
「この基地に入った以上、破壊して脱出するしかねぇ」
「後は奪われた金銀財宝を何処に隠し持っているかだ」
ロジャースは言ったが、ジョーは首を振った。
「こんな場所に何時までも置いている筈がねぇ。
 他に持ち出しているに決まっているさ」
「そうだな。俺もそう思う…」
健が頷いた。
「この基地を叩き、偽者の国防長官の正体を国民の前に晒し、国王の軟禁を解く事。
 俺達の任務はそこまでだ」
「そうだな。それ以上は内政干渉に当たる。
 科学忍者隊が首を突っ込む事じゃねぇ。
 情報部員も同じだろ?」
「そうだな。俺の任務は既に終わっている。
 ギャラクターの陰謀を探る事だったんだからな」
「引き上げてもいいぜ。情報部員は任務が終わったら、速やかに引き上げるんだろ?」
「此処まで来てそうは行くまい」
「それもそうだ、ジョー。今、ロジャースを帰しては却って危険だぞ。
 俺達と行動を共にする方が安全だ」
「解った。じゃあ、先に進むとしようぜ。ロジャース、武器はそのマシンガンだけか?」
「後は拳銃を持っている」
「いざとなったら、俺が敵兵からマシンガンを奪い取ってやるから、それを使いな」
「解った」
健とジョーが先に立って走り始めた。
ロジャースを挟む形で、その後ろをジュン、甚平、竜が固めた。
山脈の間は段々狭まって行き、岩肌が途中から鉄の壁に変わった。
「いよいよ、基地の中らしいな」
立ち止まってジョーが呟いた。
「ああ。国防長官、いや、それに変装したカッツェはこの中に戻っているかもしれない」
健が呟いた。
「俺達が死んだと思っているかね?」
「いや、それはどうだろうか?此処に潜入している事も先刻ご承知かもしれないぜ」
健は冷静だった。
「罠が待ち受けている可能性があるな。
 プンプン臭うぜ」
「おいら、おならなんかしてないよ」
甚平がその場のピリピリとした空気を乱すような発言をした。
「何言ってんだ?」
ジョーは笑った。
「そんな事を言う時は大概おめぇは『やって』る」
そう言いながら、緊張が解れたのを感じた。
甚平の頭を撫でてから、ジョーはまた健と並んで走り始めた。
敵基地は山肌に精巧に隠されていた。
いざとなったらメカ鉄獣の準備ぐらいしてあるかもしれない。
竜はゴッドフェニックスに残しておくべきだったか…。
健は臍を噛んだ。
だが、もう仕方のない事だ。
「いざとなったら、俺がこの基地のヘリを奪って、G−5号をゴッドフェニックスのある地点まで連れて行く。
 それでいいだろ?」
ロジャースは健の考えを読んだかのようにそう言った。
「そうだ!ロジャース。それをすぐに実行してくれ」
健が叫んだ。
これには2つの利点がある。
竜をゴッドフェニックスに待機させておけば、いつでもメカ鉄獣やこの基地との戦闘に役立てる事が出来るし、ロジャースを『避難』させておけば安心でもある。
「竜、戻ってくれるか?!」
健の言葉の意味を理解した竜は「よっしゃ」と頷いた。
そこで竜とロジャースが彼らから離れた。
ロジャースは格納庫の位置を知っているからである。
「その道を真っ直ぐ行って、突き当たりを右に行ってくれ。
 そうすれば、司令室が見えてくる筈だ。
 そこが国防長官に化けたカッツェの居場所でもある」
ロジャースは別れる前にそう告げて、竜と共に彼らの前から姿を消した。
「よし、俺達はロジャースが言った司令室に乗り込むぞ。
 ギャラクターの罠である可能性も高い。全員気をつけろ!」
「ラジャー!」
科学忍者隊は心を1つにして走り始めた。




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