『仕立て上げられた暴君(8)』

4人はロジャースが言った司令室に急ぎ向かった。
罠かも知れない事は重々承知している。
だが、行かなければならない。
ベルク・カッツェの野望を打ち砕かなければ。
奪われた金銀財宝も出来る限りは取り戻してやりたい。
だが、この基地にはもう殆ど残ってはいないだろう。
それは先程ジョーが指摘した。
抜け目のないギャラクターの事、こんな場所にいつまでも財宝を置いておく程馬鹿じゃない。
とうの昔にとっくに運び出しているに決まっている。
早くこの基地を破壊し、あるのならメカ鉄獣を倒した上で、もう1度王宮に、今度は正面から乗り込み、執事の軟禁から国王を救う。
今回の任務にはまだそこまでの筋書きが残っている。
司令室に近づいて行くと、案の定、敵兵の登場だった。
科学忍者隊は四方に散った。
健の「バードランっ!」と言う張り上げた声を聴きながら、ジョーは気合だけを発して、敵兵と闘っていた。
跳躍して敵兵の中に踊り込む。
敵兵がジョーの拳で顎を砕かれて、悲鳴を上げる事も出来ずに吹っ飛んだ。
ジュンの「たあっ!」と言う勇ましい声が聴こえた。
(やってるな…)と思いつつ、ジョーも決して手足は止める事はなかった。
華麗に身体を回転させて、その腕と脚を魅力的な使い方をして敵兵を薙ぎ倒して行く。
まるでアイススケートの選手のように綺麗に回転するのだ。
回転が終わっても、ジョーはボーっとしていたりはしない。
敵兵に的確なポイントで重いパンチを入れている。
ジョーは『急所』と言う物をしっかり抑えていた。
人体には頭部、胴体、腕部、脚部にそれぞれ急所が存在し、そこを痛めつけると動けなくなる。
科学忍者隊もそう言った事を座学で教え込まれた。
軍隊式格闘術と言うものだ。
武道を学ぶ者はそれを知っている事が多い。
人海戦術で来るギャラクターを華麗に倒して行く科学忍者隊はただ強いだけではなく、効率の良い攻撃の仕方を身を以って知っていたのである。
逆に護身の時には、その『急所』への攻撃から身を守ればいい。
どうやらギャラクターの中にも急所の存在を知っている者はいるようだが、末端の隊員までにはその教育は行き届いていないらしい。
チーフ級になると、そう言った事を知り尽くした隊員が出て来る。
この事は科学忍者隊にとっては幸いした。
敵との乱闘に時間を取られずに、最低限の時間を割けば済むからである。
ジョーは羽根手裏剣を繰り出し、4人の敵兵の手の甲に見事当てて、マシンガンを取り落とさせた。
落ちたマシンガンが勝手に咆哮して、仲間達を傷つけた。
次の瞬間には、ジョーはエアガンを抜いて、敵兵に三日月型キットをお見舞いしていた。
立て続けに敵の顎に当たって行く。
顎の先端を強く打たれると脳震盪を起こす。
ギャラクターも例外ではない。
バタバタと面白いように倒れて行き、ジョーの前の道を空けてくれる。
ズンズンと構わずに前へと進む。
そして、次の新たな敵と遭遇する。
そうして科学忍者隊は少しずつ司令室へと近づいていた。
乳様突起と言う耳の後ろにある隆起した骨を強く打つと運動機能が麻痺する。
ジョーはそこを狙って、手刀を与えて行く。
ギャラクターの隊員はなぜかマスクに牙と長髪を着けている。
耳はその長髪に隠されているが、ジョーは正確にその場所へと攻撃を仕掛けた。
敵兵が崩れ落ちて行く。
急所攻撃で効率良く敵を倒した。
体術だけではなく、羽根手裏剣とエアガンと言う彼にとっては自分の手足同様の武器がある。
これは何よりも心強かった。
健のブーメランが彼の思い通りになるように、ジョーにとってはこの2つが自分の分身そのものだった。
羽根手裏剣もエアガンも身体の一部なのだった。
いや、身体全体が彼の武器なのだ。
全身で敵へとぶち当たって行く。
そして決して怯まない。
エアガンをくるくると回して腰のホルダーに戻し、ジョーは身体1つで敵兵の渦の中に飛び込んで行った。
勇ましい姿だ。
彼が通り抜ければ、そこには必ず敵兵が倒れて道が出来ている。
まだ終わった訳ではない。
長い脚で敵兵の脛を払って倒しておき、その上を踏んで歩いた。
竜のような戦法だが、ジョーの重さではそれ程堪えないだろうと思っては行けない。
彼は『急所』を狙って踏んでいたのだ。
鳩尾をやられると横隔膜の動きが一瞬止まる。
すると敵は呼吸困難に陥るのだ。
死にはしないが、戦力を激減させる事になる。
ジョーだけではなく、科学忍者隊はそう言った事も考えて敵に攻撃を仕掛けている。
やがて、全員がロジャースが言った司令室の前に集合した。

「随分頑丈な扉だ。ICカードを読み込まないと入れないのか」
健が扉の横にある装置を見て言った。
「それならおいらが1枚奪い取っておいたよ」
甚平がICカードを取り出した。
「まあ、甚平ったらやるじゃない」
ジュンが誇らしげに言った。
「甚平、でかしたな」
健も言った。
「まずはそいつでこの扉が開くかどうか試してから褒めてやりな」
ジョーは黙ってそれを受け取り、ICカード読み取り機を通してみた。
『ERROR』
ピピっと音が鳴り、その文字が点滅した。
ジョーはもう1度やったが、駄目だった。
「ジョー、それ以上繰り返さない方がいい」
健が腕を組んで言った。
「司令室に入れる隊員は選ばれているんだろう」
「どうやら甚平がこいつを掠め取った奴は下っ端だったらしいな」
「ちぇっ!」
ジョーの言葉に甚平は悔しそうに舌打ちした。
「ジョー、エアガンのバーナーで焼き切れるか?」
「どの位の厚さがあるか解らねぇが、やってみよう」
「敵兵が来たら俺達に任せておけ」
「ああ、解ってるよ。3人も雁首を並べているんだ。信頼してるさ」
ジョーはニヤリと笑って、作業を開始した。
「向こう側でも敵が作業に気付くかもしれねぇ。
 気をつけねぇと危ねぇぜ、健」
バーナーで大きな丸を描き始めた。
手応えはあった。
「健、行けそうだぜ」
ジョーは円の4分の1程を描いてから呟いた。
「よし、頼むぞ」
健はそう言うと、現われた敵兵に向かって行った。
ジュンと甚平も闘っている。
彼らに時間稼ぎをして貰うしかなかった。
ジョーは額から汗を掻きながら、バーナーを少しずつ動かして行った。
やがて円は切り取れた。
「健、終わったぜ。突っ込むぞ」
「解った!」
健は敵兵を蹴散らしておいて、ジョーの後ろに来た。
「行くぜっ!」
ジョーは切り取った円を飛び蹴りで見事に破った。
そうして、科学忍者隊は司令室に飛び込んだ。

中には壮大なメカ鉄獣があった。
ゴッドフェニックスの10倍は優にありそうだった。
見事な羽と尻尾を持った鳳凰の形をしている。
これもニチナン国の金銀財宝を経費として使って建造したに違いない。
健はブレスレットに向かって話し掛けた。
「竜、ギャラクターの司令室にはメカ鉄獣がいた!
 無事にゴッドフェニックスに着いたか!?」
『ああ、大丈夫じゃわい。
 ちと苦労したが、ロジャースのお陰で今辿り着いた処じゃて』
「解った!すぐに出られるように準備しておいてくれ。
 タイミングを計って声を掛ける」
『ラジャー』
これだけの巨大なメカ鉄獣がいる司令室だ。
司令室自体が基地その物であるかのように巨大だった。
「ひぇぇ〜。これが司令室〜!?」
甚平が悲鳴のような声を上げたのも無理もなかった。
気が遠くなりそうだ。
敵兵はまたわらわらと現われて来る。
メカ鉄獣はいつ飛び出すか解らない。
そして、国防長官に扮したベルク・カッツェは一体このだだっ広い司令室の何処にいるのか?
科学忍者隊は油断のない目配りで、司令室内を観察した。




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