『仕立て上げられた暴君(9)』

それにしても広い司令室だ。
鳳凰型メカ鉄獣の格納庫を兼ねているとは言っても、無駄に広い。
これには何かある、とジョーは思った。
金銀財宝を集め、移動する中継地点も兼ねていたのか?
それともこれから科学忍者隊を陥れる為の罠が待っているのか……。
ジョーは警戒を緩めなかった。
敵兵が彼らを取り囲んでいたが、まだ黒幕とも言うべき国防長官の姿はない。
良く見ると鳳凰型メカ鉄獣の向こう側に何機かの輸送機がある。
(あれを使って財宝は別の基地に移送済みらしいな…。
 全く抜け目のねぇ奴らだ…!)
ジョーは内心で呟いた。
敵兵は彼らを取り囲んだだけで、襲っては来ない。
(妙だな…)
ジョーは頭を巡らせた。
その時視線の端に入って来た物があった。
「危ねぇっ!散れ!」
とジョーが叫んだのと、健が「全員下がれ!」と言ったのが同時だった。
上から巨大な鳥籠のような檻がドスンと地鳴りを立てて落ちて来たが、彼らの機転で空振りに終わった。
「ふふふ。さすがは科学忍者隊!
 相変わらず敏捷な鳥達だ…」
国防長官の登場だ。
「俺達には解っている。お前はベルク・カッツェだ!
 国防長官は官邸の地下で白骨死体になっていた。
 化けの皮を剥がしたらどうだ!」
健が腕を上げて国防長官を指差した。
「ふん、既に見破っておったか…」
国防長官の声色が、カッツェの忌々しそうな声に変わった。
そして、カッツェは紫のマントを翻した。
「クーデターが起こっているのを鎮静化して欲しいと科学忍者隊に依頼して来るのも見上げた根性だ。
 どうせ俺達を罠に掛けて、クーデター軍と衝突させようとでも考えたんだろうよ」
ジョーが憎々しげに呟いた。
「その通り。しかし、その口振りだと、どうやら君達は先にクーデター軍と接触したようだな」
「既に情報を得ていたからな。国王が洗脳されているらしい、と」
健が言った。
「だが、それは違っていた。洗脳されているのは国王ではなく、側近の方だった。
 国王が正気なのは良く解った」
「何?国王とも接触したのか?」
「そうだ」
「だが、それもどうかな?国王は弱って来ておる。
 我々が利用し易いように死なせない程度に軟禁しているからな」
「汚い手を使いやがって!」
健が叫んだ。
「今頃、国王は捕らえられて拷問に遭っている事だろう。
 もう用済みだからな」
「何だって?!」
『健!それは大丈夫だ!
 今、ロジャースがマリーン王女と連絡を取り、国王を助ける為にクーデター軍が立ち上がったぞいっ!
 ロジャースはそっちに合流した』
「解った!」
「へぇ、ロジャースもやるじゃねぇか?」
ジョーが嬉しそうに言った。
以前彼はロジャースの為に腹部に傷を負った事がある。
だから、ロジャースの実力を知らなかったのだ。
情報部員に採用される位なら、腕っ節は強い筈だ。
(何故俺はそれを見抜けなかった?
 無駄に怪我をしたのかもしれねぇな…)
ジョーは自分で自分を嘲笑った。
そして、新たに気を引き締めた。
カッツェがどう出て来るか解らなかったからである。
「ふん!クーデター軍に何が出来る?」
カッツェはそう言ったが、それなら何故科学忍者隊をクーデター軍の鎮圧に使おうとした?
あわよくば共倒れになってくれたらいい、と言う計算をしたのではないか?
だとすれば、クーデター軍はなかなか優秀だと言う事になる。
ジョーはそう思って、鼻で笑った。
「コンドルのジョー君は何か気に入らないようだな」
「当たりめぇだろう?おめぇの全てが気に喰わねぇのさ!
 俺を復讐に生きる男にしたのはてめぇだからな!」
「そうかそうか。その復讐に生きる人生も今日で終わる事だろう」
ははははは、と笑いながらカッツェがマントを翻そうとした時、ジョーはカッツェに疾風のように駆け抜けて跳び掛かっていた。
しかし、マントだけが宙に浮き、カッツェはそこにはいなかった。
「くそぅ。どう言う事だ?!逃げやがったな!」
「ジョー、何時の間にかギャラクターの隊員達が引いている。
 メカ鉄獣を発進させて、この司令室を爆破するかもしれんぞ!」
「確かに何だかきな臭ぇな」
「全員、急いで脱出だ!」
「ラジャー」
メカ鉄獣がゴゴゴゴゴ…と音を立てて飛び立とうとしていた。
ドーム型になっていた司令室の天井が開いて行った。
「しめた!あいつと一緒に脱出しようぜっ!
 全員俺に掴まれっ!」
ジョーはそう言うと、少し浮き上がったメカ鉄獣の腹の辺りに、エアガンのワイヤーを伸ばし、吸盤を取り付けた。
それを引いて、安全なのを確認する。
ジョーの身体が浮かび上がった。
彼の左手に健が掴まった。
その下にジュンが、そして甚平が掴まっている。
ジョーは3人を支えながらメカ鉄獣の揺れに耐えた。
司令室が大爆発を起こし始めたが、辛くも逃れる事が出来た。
地上に出た処で、健に合図をしてワイヤーを回収し、彼らはマントを使って、華麗に舞い降りた。
「竜、すぐにゴッドフェニックスを回してくれっ!」
『ラジャー』
ゴッドフェニックスは既に空中に在った。
だから彼らを待たせる事なくやって来た。
鳳凰型メカ鉄獣の攻撃を巧みに避けながら、竜は低空飛行に入った。
そのタイミングで4人はトップドームへと跳躍した。

「でかいのう。ゴッドフェニックスの10倍ぐらいありそうだわい。
 羽を広げたらどの位になるんかいのう…」
竜の口調はこんな時でも暢気に聴こえる。
「巨大な物はそれだけ動きが甘い筈だ。
 ちょこまか動き回ってやれ」
健が指示を出した。
「解った!」
竜は操縦桿を引いた。
やっと出番が来た、と思っている。
「このメカ鉄獣を倒したら、クーデター軍の応援に行かなければならねぇ。
 早いとこ倒しちまおうぜ」
ジョーが言ったが、健は難しい顔をした。
「これだけ巨大だとバードミサイルが幾らあっても効かないだろう。
 痛くも痒くもないかもしれない」
「それなら火の鳥だ。幸いロジャースは降りている」
ジョーの言葉に甚平の顔が一瞬歪んだ。
火の鳥は嫌なのだ。
そんな事は解っているが、そうは言っていられないのが科学忍者隊ではないか…。
「健っ!」
「それしかなさそうだな。だが、『火の鳥・影分身』で断続的に攻撃を仕掛けよう。
 竜、此処は山脈地帯で下にはギャラクターの基地だ。
 丁度いい。全員各自のメカへ急げ!」
「ラジャー!」
それぞれが自身のGメカへと移動した。
火の鳥はそれだけでも苦しいのに、Gメカに分かれての『火の鳥・影分身』はそれ以上の苦痛が伴う。
何より仲間の姿が見えないと言うのは大きい。
だが、みんなが頑張っている。
そう思って踏ん張るのだ。
また、火の鳥が解けた瞬間の着地地点にも注意しなければならない。
ジョーとジュンに関しては、マシンの問題で飛ぶ事が出来ないからだ。
『竜、いつもの通りだ。上昇してタイミングを計って降下しろ。
 火の鳥になるタイミングも任せる』
『ラジャー。おらに任せとけ!』
ブレスレットから健と竜の声が流れている。
ジョーはマリーン王女率いるクーデター軍とロジャースの事が気に掛かっていた。
早くそっちに加勢に行きたい。
思いっきり暴れてやるぞ、と決意を込めて、ジョーは来たる衝撃に耐える心の準備を終えた。




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