『仕立て上げられた暴君(10)』

『ようし、火の鳥になるぞいっ!』
竜の声が聴こえた。
第一の衝撃が来た。
火の鳥が完全化した瞬間に、健の『火の鳥・影分身』と言う声が頭の中に響いた。
ジョーは「ぐっ」と唸ってそれに耐えた。
G−2号機が火の鳥から分派したのが解った。
レーダーだけが頼りだ。
自分の思い通りのコースを辿っているのかを確認する。
それにも物凄い気力が必要だった。
一瞬でも気を抜けば意識を喪ってしまう。
そうなれば、着地の時に失敗を犯す事になるかもしれない。
まさに生命賭けの技だった。
敵の鳳凰型メカ鉄獣に当たった衝撃が全身を貫いた。
血を喀くかと思った程、臓腑が焼けるような感じを覚えた。
しかし、仲間達は皆、この衝撃に耐えている。
自分だけ無様な真似は出来ない。
その思いだけにジョーは突き動かされていた。
恐らくは全員がそうだ。
仲間意識とライバル意識。
その両方に支配されている事だろう。
地上に降りる寸前に火の鳥が解除された。
ジョーはステアリングを切って、山肌に当たりそうになったのを辛うじて避けた。
ジュンが驚く程近くにいて、にっこりと笑って見せた。
上空では美しい鳳凰のメカが無惨にも散り散りに爆破されていた。

「ようし、王宮に向かったロジャース達と合流しなければ!」
ジョーは早速ブレスレットに向かって言った。
『ゴッドフェニックスに合体だ!』
健の声が聴こえた。
ジョーは竜によって、オートクリッパーでゴッドフェニックスの先端部分に格納された。
コックピットに戻ると、健が腕を組んでいた。
「王宮にはまだギャラクターの兵士が警護兵として入り込んでいる筈だ。
 マリーン王女やロジャースが無事ならいいんだが…」
「ああ、だからこそ早く行ってやらなければならねぇ」
「竜、大至急王宮の近くに着陸地点を探せ」
「ラジャー!」
そうして、彼らは王宮の傍の森へとゴッドフェニックスを着陸させ、全員がトップドームに上がった。
「闘い慣れているだろうと思うが、心配だ…」
「ジョーは妙に心配するじゃんか」
「甚平っ!」
マリーン王女の名前が起因しているのでは、と甚平が勘繰り、それをジュンが窘めた。
「ロジャースは情報部員に採用されたぐれぇだから大丈夫だとは思うがよ…。
 こんな処で仕事以外の事に手を出して殉職されたんじゃたまらねぇ」
ジョーは拳を握り締めた。
「全くだ。任務外の事に首を突っ込んだ事は事実だ」
健も冷静に答えた。
「情報部員としては失格だな」
健はさすがにリーダーだ。
確かに彼の言う通りではある。
だが、ロジャースもいろいろと調査をしている内に、元王女に肩入れしたくなったのだろう。
相棒をギャラクターに殺されてしまった、と言う事実も彼を突き動かしている。
実際にあのフランツ、いや、『エース』だってそうだったじゃないか。
ジョーはそう言いたかった。
健ほど冷静にはなれなかった。
「彼らを助けるのに最早『内政干渉』だなんて言ってはいられねぇだろう。
 ギャラクターが関与していた事は明白なんだからよ」
「解っているよ、ジョー」
健は穏やかに青い瞳で真っ直ぐにジョーを見た。
「とにかく急ごう」
健が腕を振って、全員が王宮に向かって走り始めた。
今度は忍び込むのではない。
堂々と表から飛び込んで行くのだ。
既に王宮の門前では、クーデター軍とそれに混じったロジャースが戦闘を開始していた。
クーデター軍に犠牲が出ているのも見て取れた。
「武器が違い過ぎるんだ…」
ジョーが吐き捨てるように言った。
ロジャースが1人の負傷者を肩で支えながら、後方に下がって来る処だった。
「ロジャース、おめぇも無茶をしやがる」
ジョーが声を掛けると、
「君程じゃないよ」
と煤けた顔から答えが返って来た。
「科学忍者隊…。来てくれたのですね」
マリーン王女と夫のエヴァン侯爵が彼らに近づいて来た。
2人とも銃を取り、エヴァン侯爵は顔に掠り傷を負っている。
弾丸が顔を掠めたのだろう。
科学忍者隊の姿をして彼らに逢うのはこれが初めてだった。
「国防長官はやはりベルク・カッツェでした。
 その基地とメカ鉄獣は倒しましたが、残念ながら財宝は見つけられませんでした」
健が言った。
「仕方がありません。財宝よりも国民の皆さんです。
 そして、元通りの父を取り戻す事です」
「早くしなければ国王の近くにいる執事が、国王を殺します。
 ベルク・カッツェが執事に拷問をさせていると言っていました」
「何と言う事を…」
王女は両手で顔を覆った。
「早く助け出さなければ。国王は弱っておられます」
健はそこまで行って、怒りを爆発させた。
「俺達を邪魔する奴は、全員科学忍者隊が叩きのめす!
 覚悟しておけっ!!」
健の可愛らしい顔に凄みが加わった。
ジョーはその顔を久し振りに見た、と思った。
「ちぇ、強面は俺の役目なんだが…」
呟きながら、ジョーは軍服を着たギャラクターの隊員達に向かって走り出していた。
ギャラクターの隊員はもう軍服を着ている必要もなくなった為、次から次へと上衣を脱ぎ捨てて行った。
それが旗のように舞い上がった。
そして、その陰からマシンガン攻撃が始まった。
「くそぅ。王女と侯爵は下がっていて下さい」
ジョーはそう言うと、敵兵の中に身体毎飛び込んだ。
そうする事で敵は相討ちを恐れて、射撃が出来なくなる。
だが、ギャラクターにはそう甘くはない連中がいる事もジョーは知っていた。
仲間を犠牲にしてでも、手柄を得ようとする。
中にはそう言う人種もいる。
どうやらギャラクターには勲章制度があるらしく、勲章の数でチーフから隊長へと昇進して行くらしいのだ。
末端の隊員はやる気が見られない者が多いとジョーも見ているが、中には上を狙っている下克上精神を持った覇気のある隊員もいると言う事だ。
そう言った輩は仲間の屍を踏み付けてでも、攻撃して来る。
ジョーは気合を掛けながら、長い脚で敵を足払いした。
そのまま低姿勢から回転して、重いキックで何人もの急所にショックを与えた。
耳の後ろの急所にブーツの踵が次々と当たって行く。
続けざまにジョーは別手の敵の鳩尾にパンチを決めた。
その時、眼の端にロジャースの姿が入った。
先程の負傷者を誰かに預けて来たのだろう。
何時の間にかギャラクターのマシンガンを1丁奪い取っていた。
(意外とやるじゃねぇか…。情報部員も馬鹿にしたもんじゃねぇな)
ジョーは感心した。
ロジャースはそのマシンガンを惜しげもなく、ジョーの周囲に撃ち込んだ。
「おいおい…」
ジョーはバック転をして避けながら苦笑いをした。
「君がこんなのは楽に避けられる事を知っているからね。
 こっちとしてはやり易い」
ロジャースが笑って見せた。
「ふん」
と言っておき、ジョーはまた戦闘に専念した。
一刻も早くこの門から中の建物に入らなくては。
国王がどれだけの拷問を受けているか解らない。
あれだけ衰弱していたのだ。
このまま『暴君』の名を着せられたままで死なせたくはなかった。
ジョーは羽根手裏剣を身体を1回転させながら飛ばし捲くり、数多い敵兵を倒した。
「君も危ない事をするじゃないか」
ロジャースが肩を竦めていた。
「だが、あんたには掠ってもいねぇだろ?」
ジョーは低い声で言った。
「それより、国王だっ!」
ジョーのその言葉が終わった時、彼は既に王宮の門の向こう側へとジャンプしていた。
彼は中から門を開放し、自らがトップを切って敵兵を切り拓きながら中の建物へと向かって行った。




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