『仕立て上げられた暴君(11)』

ジョーを先頭に王宮へと雪崩れ込んだ。
健がすぐに追い着いて来た。
ジュン、甚平、竜も続いている。
ロジャースも少し遅れて来た。
クーデター軍よりも早く王宮に入りたい。
それは彼らに被害を出したくないからに他ならなかった。
だから、科学忍者隊は急いだ。
敵兵の数が増えて来た。
ジョーは羽根手裏剣をピシュシュシュっと飛ばし、エアガンの三日月型キットで敵の顎を襲う。
「健、ジョー、此処は私達に任せて先に行って!」
ジュンの通る声が聴こえた。
「頼んだぞ!」
健が答え、ジョーの肩を叩いた。
「俺も行くぞ」
ロジャースが着いて来た。
「死ぬかもしれねぇぞ。俺達はおめぇに構ってはいられねぇかもしれねぇ。
 無駄死にはさせたくねぇっ」
ジョーは直球で言ってみたが、ロジャースが言う事を聞かないだろうと言う事は解っていた。
「それでも行くさ」
「勝手にしな!」
ジョーは健と共に王宮の建物に突入した。
ギャラクターのマシンガンを奪い取っているロジャースもそれに続いた。
王宮の建物内には多くのギャラクター隊員がいた。
「先日は外から潜入したが、此処までギャラクターに支配されているとは恐れ入ったな」
ジョーが呟いた。
「国王が心配だ。とにかく急ごう」
健が言わなくても解っている。
ジョーは逸る心を抑えながら、冷静になるように努めた。
敵兵を薙ぎ倒しつつ、国王の部屋のある5階に向かおうとした。
羽根手裏剣とブーメランが飛び交い、敵兵の多くはそれだけで倒れて行った。
ロジャースも容赦なくマシンガンで戦闘に貢献した。
弾丸を撃ち尽くすと、また敵のマシンガンを奪っていて、なかなかの活躍振りを見せていた。
ジョーは長い脚を有効に使って、広いロビーの中で自由自在に闘った。
早く5階へ行かなければ。
そう思いながら闘っていた時に、健が不意に言った。
「ジョー、国王は拷問されているらしい。
 自室にいるとは限らないぞ」
健の言葉は尤もだった。
「確かにそうだな。そう言った事をしようとするなら…」
「地下室だ!」
2人同時に地下室だと叫んでいた。
「王女によると、この建物は地下2階だと言う話だ」
ロジャースが言った。
「国王の部屋は念の為、俺が見て来る。……何、心配は要らない」
事も無げに言うロジャースに、健とジョーは顔を見合わせた。
ロジャースは自信たっぷりだ。
(大丈夫なのか?)
ジョーは値踏みでもするかのようにロジャースを見つめていたが、以前よりも体格が良くなっている。
どうやら本気でトレーナーを付けて筋トレをしているようだ。
ジョーは健の顔を見て頷いた。
健も同じ事を考えたようだ。
ジョーを見て頷きを交わし、ロジャースに声を掛けた。
「では、俺達は地下に行く。くれぐれも気をつけてくれ」
「死ぬなよ、ロジャース」
「解っている。相方と心中する訳には行かない。
 あいつの死を無駄にする事になるからな」
ロジャースの瞳は強い光を湛えていた。
(これなら大丈夫だろう…)
ジョーは健ともう1度眼で会話をして、マントを翻した。

地下には豪華な照明が施されていたが、基本的には王宮に仕える者達の為に用意されていた場所だったようだ。
階上に比べると薄暗く、何となく重たい空気が流れている。
中には虐めや嫌がらせもあっただろう。
国王やその一族の我侭に疲れ果てた者もいた事だろう。
何かそう言ったもやもやとした陰湿な空気が流れている気がした。
「どす黒い何かが蠢いているような嫌な雰囲気だな…」
ジョーが呟いたのも無理はなかった。
「しっ!」
健が何かの音に気付いた。
ジョーも耳を澄ます。
針が落ちる音でも聴き分けるように訓練された彼らの事だ。
すぐにその音がどこから聴こえているのか理解した。
「ジョー、拷問の音だ」
「あれは鞭だぜ。それに別の場所からくぐもった複数の人間の声がする」
「急ごう」
「ラジャー」
2人は瞬速で音がする方向に走った。
途中、王宮に仕える者達が1箇所に纏められて檻に閉じ込められているのを発見した。
全員が猿轡をされている。
ジョーが聴き分けたくぐもった声の正体は彼らの声だった。
「すぐに助けます。でも、今はこの中にいてくれた方が安心です。
 暫くの間我慢して下さい。国王を救うのが急務です」
健はそう言い、檻の近くにいた1人の男の後手に縛られたロープをブーメランで切った。
そうして、駆け出した。
ジョーはそれが本当の王宮の人間かと疑って掛かっていたが、怪しい動きはなさそうだ。
健がロープを切った男が猿轡を自分で外し、仲間のロープを解き始めていた。
ジョーはそれを見届けておいて急いで健に続いた。

「此処だな、ジョー」
気配を消して近づいたドアの前で、健が囁いた。
「ああ。早くしねぇと。健、下がっていろ。
 ドアの鍵をこいつで撃ち抜く」
ジョーはエアガンを取り出した。
こんな事は苦もない事だ。
健が身構えたのを見て、ジョーはエアガンの引き金を1度だけ絞った。
ガキーン!と音がした。
ジョーは素早くドアのノブを捻って、扉を引いた。
健がそこからさっと中へと入った。
まさに狂わされた執事が国王を鞭で拷問していた。
拷問と言うよりは、これは死なせる事が目的の死の拷問だ。
ギャラクターは不要となった国王を殺し、恐らくはこの執事も狂い死にさせるつもりだったのだろう。
「眼を覚ませ!」
ジョーは執事の鳩尾に向かって鉄拳を1発ぶち込んだ。
それだけで事は終わった。
健は椅子に縛り付けられた国王の戒めを解いている。
「国王陛下。大丈夫ですか?」
国王はそれに答えられない程衰弱していた。
「これは行かん」
「健、この執事も洗脳されているだけだぜ。どうするよ?」
そこにロジャースがやって来た。
「やっぱりこっちだったか…。しかし、酷いな」
「国王陛下は意識を辛うじて保っているが、弱っておられる」
健が痛ましそうに言った。
「俺が担ぎましょう。あなた方はギャラクターの残党との闘いがまだあるでしょう」
ロジャースはそう言ってから、執事に喝を入れた。
執事はハッと眼を醒ました。
「わ…私は何をしていたんだ?」
どうやら元に戻っているらしい。
だが、何かの材料があれば、また洗脳状態に陥る可能性がある。
「覚えてねぇ方があんたの為だぜ」
ジョーはそう言って、立つのに手を貸した。
「国王陛下……」
執事は涙を流した。
国王は彼が正気を取り戻した事を知り、黙って頷いた。
彼がした仕打ちについては、自分の心に仕舞っておくつもりだろう、とジョーは思った。
「よし、脱出だ。さっきの檻の中の人達も助け出さなければならない」
ロジャースと執事が両側から国王を支えた。
健とジョーが前を行きながら、警戒しつつ上へと上がる事にした。
途中で健は王宮に仕える人々が閉じ込められていた檻の鍵をブーメランで破った。
「俺達に着いて来て下さい。国王陛下はご無事でした」
「おお、国王陛下」
「国王様!」
口々に叫んでいる。
国王の人望は今でも高かった。
ギャラクターに利用される前は、こんな悪政を敷くような国王ではなかったのである。
人柄が変わったのではない。
側近を洗脳されて、軟禁されていた事は彼らも薄々知っていた。
国王を支えている1人が執事である事に気付いた彼らは、口々に非難をした。
「この方は洗脳されていただけなのです。責めないでやって下さい」
健が叫んだ。
ジョーはその横で、宮仕えの人間達を無言で睨み付けた。
「そうじゃ…。私の事なら大丈夫じゃ」
国王が口を開いた。
弱っているが、それだけはハッキリと答えた。
「皆さん、我々に着いて来て下さい。
 まだ1階の大広間や外にギャラクターがいる可能性があります」
健の声に全員が頷いた。




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