『仕立て上げられた暴君(12)/終章』

健とジョー、そしてロジャースは国王と執事、そして王宮で働く人々を引き連れて、脱出を図った。
ギャラクターの残党はまだまだいる。
2人は身を挺して彼らを救わなければならなかった。
ロジャースは国王の身体を抱えており、彼らの援護をする余裕がなかった。
それどころか国王がいる事で今はロジャースも『守る』対象となっている。
しかし、そんな事はこの2人には何の問題もなかった。
守るべき者がいると言う事でそれだけハンデは背負う事になるが、リーダーとサブリーダーのコンビなら磐石だと言ってもいい。
ジョーは一行の後方に回った。
健が前を守っている。
走り進むに従って、後方からも敵が襲って来るのは当然の流れだ。
ジョーはそれに備えた。
闘い慣れた天性の勘が、自然にそう言った行動を取らせる。
やがて、クーデター軍とジュン、甚平、竜の3人が見えて来た。
ロジャースと執事はクーデター軍に国王を預けつつ、3人の科学忍者隊に助けられて王宮の敷地の外へと逃げた。
健とジョーはその間も闘い続けている。
羽根手裏剣が華麗に舞い、体技が見事に決まって行く。
ジョーは低い気合のみを発して、敵兵の元へと飛び込んで行った。
面白いように技が決まる。
敵は数が多いだけ、逆に不利でもあった。
科学忍者隊に包囲網の中に入って来られては、逆に同士討ちの憂き目に遭う事になり、思いっ切りマシンガンを撃ち放つ訳には行かないのだ。
その点、少数精鋭の科学忍者隊の方に分があった。
ジョーは敵兵の中で、存分に闘った。
四肢を無駄なく使い、武器を効率良く使いこなす。
その闘い振りはいつ見ても演舞のようにピシっと決まっている。
ジョーが敵の鳩尾に深くパンチを入れた時、健の声が聴こえた。
「科学忍法竜巻ファイターだ!」
その声に科学忍者隊が集合した。
人々が充分避難した事を確認した上で健は号令を掛けたのだ。
ジョーが竜と肩を組む。
ジョーの上にジュン、竜の上に健が乗る。
身長差からして順当な処だ。
その更に上に甚平が身軽に飛び乗る。
ジョーの側は、185cm+160cm=345cm。
竜の側は、170cm+180cm=350cm。
5cm程度の差は身体能力に優れた甚平には問題あるまい。
この組み方は訓練を何度も積み重ねて来た。
しかし3メートルを超える高さに乗って回るのは最初の内は怖かった事だろう。
甚平が叫んだ。
「科学忍法竜巻ファイター!」
5人が力を合わせてぐるぐると回り、大きく激しい竜巻が起こった。
ギャラクターの隊員達が巻き込まれ、吹き飛ばされて行った。

「ありがとうございます。父を助けて戴いて。
 洗脳されていると思っていましたから、一時はどうなる事かと思いました。
 これでニチナン国も立ち直る事が出来ます」
今回はギャラクターが王宮を根城にしていたので、多少の修復は必要だろう。
だが、まずは国を立て直す事から始める、と元王女は言う。
「マリーン。この国は女帝を許さない国だったが、憲法を改正しよう。
 そして、一旦は降嫁させてしまったが、いずれはお前とエヴァン侯爵でこの国を治めて貰いたい」
国王が言った。
「国王陛下には休息が必要です。南部博士が病院を手配しています。
 一旦は国外でゆっくりされた方がいいのではないでしょうか?」
健は博士の言葉をそのまま国王に伝えた。
「しかし、この国を離れる訳には行かん。
 休息ならこの王宮で取る事にする。
 医官もおるのじゃ。大丈夫じゃよ」
国王は柔和な眼をして、健に答えた。
この人柄の良い国王に、『暴君』の汚名が着せられていたとは…。
ジョーは何とも言えない気持ちに襲われた。
「科学忍者隊。あなた方にも南部博士にも何と礼を言ったら良いのやら」
国王はまだロジャースと執事の肩を借りて漸く立っていると言った状態だった。
「我々の事はいいのです。これが任務なのですから。
 国王陛下は休息される事が今の重要な役目です」
健が言った。
「そうですよ。憲法を改正する気持ちがあるのなら、暫く休息を取りながらマリーン王女とエヴァン侯爵に国政を任せてみてはどうです?」
ジョーも言葉遣いに気を付けながら言った。
「それもそうだの」
国王は微笑みながら王女夫妻の顔を交互に見やった。
「あの…。ISOから派遣されたと言う5人の若者達にも宜しくお伝え下さい」
王女が言ったが、その眼が笑っていた。
彼女は明らかにあの時の5人が眼の前にいる事を確信していた。
王女は5人の手を1人1人感謝の思いを込めて握り締めた。
そうして科学忍者隊は帰途に着き、南部博士に一部始終を報告した上で解散となった。

それから数日後、マリーン夫妻が王籍に戻ったと言う話を聴いた。
「国王陛下はご自分の仰ったようにされたんだなぁ」
『スナックジュン』で健が呟いた。
その情報はジョーが自国語の新聞から得たものである。
ニチナン国と彼の故郷は友好関係にあったのだ。
ジョーは母国の新聞を丁寧に畳んだ。
「良かったじゃねぇか。これでニチナン国も安泰だろうぜ。
 内乱も収まったし、まあ、財宝を奪われちまったので1からやり直しだろうがな」
豊かな国だったニチナン国も、今回の事件でその財産の殆どをギャラクターに持って行かれてしまった。
「あのマリーン王女なら大丈夫って気がしないか?」
健がジョーの肩を叩いた。
その行動の意味がジョーには解らなかった。
健達は知っていたのである。
ジョーがマリーン王女の名前から少しだけ感傷的になっていた事を。
彼はその事を億尾にも出さなかったつもりだが、長い付き合いの彼らにはお見通しだったのだ。
「そりゃあ大丈夫だろう。クーデター軍を指揮するぐれぇの女丈夫だぜ」
ジョーは呟いた。
呟きながら、他の事に思いを巡らせていた。
サーキットで若い生命を散らせた同じ18歳の少女、マリーン。
若さが持つキラキラとした美しさがあった。
マリーンの長くて艶やかな金髪が眼の前を横切ったような気がした。
そうだ。今から彼女の墓参りに行こう。
ジョーはそう決めて、財布から小銭を掻き集め始めた。




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