『巨大ブーメラン(1)』

その日は珍しくブレスレットで呼び出される事もなく、平穏無事に終わろうとしていた。
しかし、ブレスレットは鳴った。
博士を別荘まで送った帰り道だった。
もうとうに陽は落ちて真っ暗闇である。
南部博士は基地ではなく別荘にいる。
そこから指揮を取るしかないだろう。
別荘にも司令室はあるし、ある程度の機器は揃っている。
『科学忍者隊の諸君!こちら南部。
 ゴッドフェニックスに合体し、MXT−24地点に至急集合せよ!』
「G−2号、ラジャー」
やれやれ、とジョーは思った。
博士も休む暇がない。
それに夕食を摂り損ねた。
集合地点をレーダーで確認して、ジョーはあの別荘から出るくねくねとした道で変身を遂げた。
此処は博士の私有地。
誰も入って来る事はない。
従って変身する処を見られる心配はなかった。
指定された地点へ急ぐ事にした。

ゴッドフェニックスに合体して、コックピットまで上がった。
ジョーが一番負担が掛かる上がり方をする事になっていた。
G−2号機はゴッドフェニックスの先端部分、ノーズコーンに収められるので仕方がなかった。
しかし、彼の身体能力なら造作もない事だった。
最後に健が合体して来て、5人が揃った。
健は此処に来るまでに事件の概要を聴いているようだった。
「南部博士は今、基地に移動中だ」
「1人でか?」
「お前が此処にいるんだから、仕方がないな」
「別荘から指揮を取ればいいのによ」
「まあ、とにかく聴け。アイワイ市にギャラクターのメカ鉄獣が現われた。
 マントル計画の指定都市だ」
「先日完成したばかりの無公害都市じゃねぇか?」
ジョーは片眉を吊り上げた。
「そうだ。ギャラクターの活動目的の1つにはマントル計画を潰す事が挙げられているからな。
 現地時間は正午。昼休みや食卓を囲む平和な時間に襲って来たと言う訳だ」
健は相当いきり立っている。
南部博士のライフワークとも言うべきマントル計画を邪魔されているのだ。
健でなくてもその気持ちは解る。
「メカ鉄獣はまだその地域にいるの?」
ジュンが訊いた。
「いる。まだ街を破壊し尽くしてないからな」
「ちくしょう!」
ジョーは思わず叫んだ。
「博士が心血を注いで作った街をまた破壊しに来やがって!許せねぇっ!」
「みんなとにかく落ち着いて」
ジュンが静かに言った。
リーダーとサブリーダーが両方いきり立っているようでは、任務は遂行出来ない。
「そうだな。すまん」
健はすぐに自覚を取り戻した。
ジョーもその言葉で頭を冷やされた思いだった。
「メカ鉄獣の武器は何だ?」
ジョーは唯一話を把握しているらしい健に訊いた。
「メカ鉄獣自体が巨大なブーメラン状になっているらしい。
 その鋭い切先でビルを破壊しまくっている。
 丁度昼間で高層ビル街には一番人が多い時間帯だ」
「くそぅ。わざとその時間を狙ったって訳か」
「竜、まだ到着しないのか?」
「もう少しじゃ。これでも最大出力で飛んでいるっ!」
竜も額に汗しながら、必死に操縦していた。
ゴッドフェニックスの中を走りたい位、各自の気持ちは逸っていた。
「レーダーに巨大な丸い物体を発見!距離1000。
 ブーメランが回っているんだろうぜ。
 ちまちまと移動してやがる」
ジョーが言った。
「回転している物を止めるとなったら、超バードミサイルでど真ん中に撃ち込んでやればいいんだが…。
 ちょっと待てよ……」
ジョーはレーダーをいじっていた。
「何だ、ジョー」
「動きが妙に不規則だ。それに電磁波が出ている。
 直接の破壊行為はその電磁波で行なわれているようだぜ」
「ブーメランの刃じゃないって事か…」
健が腕を組んだ。
「竜、計器飛行に切り替え、スクリーンに出来るだけ敵のメカ鉄獣を拡大投影してくれ」
「ラジャー」
竜は健の指示通りにした。
全員が覗き込む。
「確かに電磁波らしきものが目視出来るな」
健が呟く。
「でもさぁ。ジョーの兄貴が言っていた様にど真ん中を超バードミサイルで撃てば?」
甚平はまだ余裕を持っている様子だった。
「いや、違う。1点を基点に回っている訳ではねぇんだ。
 ブーメランは太いパイプのような物で2つ繋がっているような形状になっていて、2箇所を基点にしている」
ジョーの説明に全員が眼を凝らした。
健だけはすぐに理解していたようだった。
「超バードミサイルは2発しかねぇ。
 狙いを外さねぇ自信はあるが、これは賭けだぜ、健……」
「そうだな。問題は回転を止める事しか出来ないだろう、と言う事だ」
健もジョーのブルーグレイの瞳を見た。
「そう言う事だ。超バードミサイルを使い切ってまで回転を停める必要があるかって事だな」
ジョーは強い瞳で健を見返した。
2人は言葉とは別にその瞳で会話をしている。
(超バードミサイルを使い切っちまえば、残りの切り札は火の鳥しかねぇぜ)
(それしかないだろう。回転を停めれば、俺達が潜入する事だって出来るかもしれないぜ)
(解った。それもいいだろうぜ)
2人は頷き合った。
ジュンはそれを頼もしげに見ていた。
ジョーは健が父親を失って暴走した辺りから、サブリーダーとして成長した。
今は健に任せっ放しと言う事もない。
「これは賭けだが、超バードミサイルをメカ鉄獣に撃ち込もう。
 そして、俺とジョー、ジュン、甚平が鉄獣の中に潜入する」
健が決断をした。
「ジョー、狙いを外すな」
「当たりめぇだ。誰に言ってるんだよ?」
ジョーは不敵にニヤリと笑って、赤いボタンに前に立った。
「準備はいつでもOKさ。竜、操縦をしっかり頼むぜ」
「解っとるわい!」
「来たな」
健が呟くように言った時、巨大な繋がった2つのブーメランがこちらに向かって飛んで来た。
物凄い勢いだ。
「くそぅ。これじゃあ、動きを見切れねぇっ!」
ジョーが叫んだ。
「竜、離れろっ!」
健が言ったが、時既に遅く、ゴッドフェニックスの垂直尾翼を掠られた。
垂直尾翼は健のG−1号機が兼ねている。
「くそう、このままじゃやられるぞ!
 竜、急速上昇!」
竜は健の指示に従い、90度の角度で上昇した。
ジュンと甚平が床に転がった。
ある高度でブーメラン型メカがゴッドフェニックスへの攻撃を止めて、街へと戻って行った。
「あ!また街を攻撃するに違いないぜ!」
甚平が叫んだ。
「俺に時間をくれ…。竜、敵メカを拡大してスクリーンに映し出してくれ」
ジョーはそう言って、メカ鉄獣の回転の様子を詳しく観察した。
「どうやら上からでも狙えるようだぜ。
 問題はブーメラン全体を覆っている電磁波だ」
ジョーがそう言った時、サブスクリーンに南部博士の姿が映った。
『その電磁波は恐らくバードミサイル対策だ。
 今撃っても無駄になると覚悟したまえ』
「では、どうするのですか?」
健が悔しさを滲ませた。
『ゴッドフェニックスは一旦基地へ帰還せよ。
 国連軍が出張って来る』
「国連軍じゃ殉職者が増えるだけですよ」
ジョーが睨むようにサブスクリーンを見た。
博士はそれには答えず、
『竜、敵のメカ鉄獣のビデオは撮ってあるかね?』
「そりゃあ当然撮ってあるわさ」
『では、それをすぐに基地へと持ち帰ってくれたまえ。以上』
博士はスクリーンから姿を消してしまった。
それと同時に国連軍の空軍と陸軍が押し寄せて来るのが見えた。
「仕方があるまい。帰還せよ」
「えっ?健、本気かよ?」
竜が驚いて見せた。
「本気だ。帰還せよと言ったのが解らないかっ!」
語尾がきつくなった。
「一番悔しいのは健なんだよ」
ジョーが低い声で呟いた。




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