『鬼の霍乱』

「おい健。鬼の霍乱か?」
健の飛行場の事務所兼自宅としている建物にジョーが訪ねて来ていた。
健は前日から風邪を引いて寝込んでいる。
「喰い物を作って来てやったぜ。
 科学忍者隊のリーダーにいつまでも寝込んでいられては困るからな。
 ジュンを寄越そうと思ったんだが、あいつじゃ気の利いた食事は用意出来ねぇからな。
 甚平も店の方があって来られないみたいだし、それで俺が来たって訳だ」
ジョーはデスクに紙袋を置いた。
「スープなら喉を通りやすいだろ?作って来たから電子レンジを貸しな」
「ジョー…、済まないな」
半身を起こし掛けた健をジョーが肩を押さえて止めた。
普段は上半身裸で寝ている事が多い健もさすがにパジャマを着ていた。
「いいって事よ。熱のある奴はじっとしてろ」
スープの他にリゾットも作ってタッパーに入れて来た。
「スープを飲んで大丈夫そうならこのリゾットも喰うがいいさ」
ジョーが作ったスープには、ふやかしたパンが入っていた。
イタリア料理だ。
彼は小さい頃からある程度の調理法を教え込まれていたのだろう。
両親がギャラクターの大幹部とあれば、任務で家を空ける事も多かったと思われる。
「お前、ちゃんと生活能力があるんだな…」
健が眼を瞠っている。
「当たりめぇじゃねぇか。1人で暮らしてるのに、これ位出来なきゃしょうがねぇだろう?」
「俺には出来ないんだが…」
「解ってらぁ。だから俺が来たんじゃねぇか?
 こっちのタッパーはリゾットを作った時に残った出汁で作った雑炊だ。
 和食の作り方は良く解らねぇんで、テレサ婆さんに訊いて来たぜ」
テレサ婆さんとは南部博士の別荘に居る賄いのお婆さんだ。
2人とも小さい頃から世話になっている。
特に先に引き取られたジョーの事を死んだ孫に似ていると言って可愛がってくれていた。
「お前が逢いに行ってくれたら、テレサ婆さんも喜んだだろう?」
「まあな。おめぇの風邪の事も心配してたぜ。
 リゾットより雑炊の方が風邪で弱った身体には入りやすいだろう、と思って訊きに行ったのさ。
 よし、準備が出来たぜ。今、そっちに運ぶからよ」
「大丈夫だ。起きるよ、ジョー」
健はベッドから半身を下ろした。
足を付くと、まだふら付きがある。
「まだ駄目だな。そこに座っている事は出来るか?」
「いや、ベッドで物を喰うのは嫌いなんだ」
「しょうがねぇなぁ…。手を貸してやるぜ」
ジョーは健に肩を貸した。

何も食べずにただ寝込んでいたので、ジョーのスープは温かく胃に沁みた。
身体に力が漲って来るような感じがした。
「旨いな…」
健が呟く。
「そうか?病人食だから、少し味は控えめにしてみたんだがな。
 その様子だと雑炊も喰えそうだな。温めておくぜ。
 リゾットは冷蔵庫に入れておくから今夜にでも喰え。
 果物も買ってあるから喰うといいぜ」
「有難う、ジョー」
健の言葉にジョーは少し照れ臭そうにそっぽを向いた。
「別に…。サブリーダーとしてリーダーの体調管理の手助けに来ただけさ」
そう言い乍らも、彼は健がスープと雑炊を食べ終えるのを見届け、ベッドに戻るのを手伝うまで、帰らずにそこにいてくれた。
最後に保冷枕を交換すると、
「明日はレースがあるんだ。竜でも寄越すから無理すんなよ」
ジョーは後ろ手に手を振って、出て行くのだった。




inserted by FC2 system