『巨大ブーメラン(2)』

「バードミサイル対策の電磁波って、何か破る方法でも見つかったんですか?」
基地に戻ると開口一番健が博士に詰め寄った。
科学忍者隊は何も出来ずに帰還した事で、誰もが敗北感を背負っていた。
「諸君は敗退した訳ではない。
 あの電磁波を破る為にゴッドフェニックスに戻って来て貰わねばならなかったのだ」
博士は飽くまでも冷静だが、ジョーはイライラしていた。
「こうしている間にもアイワイ市の人々は…」
「国連軍が避難をさせている」
「そう言う問題じゃありません。新しい生活を奪われたんですよ」
ジョーは博士の前だから、これでも抑えている。
しかし、本当は怒りが沸々と沸いていたのだ。
(ギャラクターの奴らめ。絶対に許せねぇっ!)
健も同様だった。
「マントル計画を次から次へと…」
と拳を握り締める。
「諸君、来たまえ」
博士が案内したのは、ゴッドフェニックスの格納庫が見えるガラス窓の前だった。
「今、特殊装備のバードミサイルを急ぎ製作中だ。
 それが完成次第、諸君にはすぐに出動して貰う」
「それでは、あの電磁波の正体が解ったと言うのですか?」
「うむ。竜から転送して来たビデオを見てピンと来たのだ」
「何の事だか解らないのですが…」
「解らなくても良い。とにかくあの電磁波を破る事が出来るバードミサイルだ。
 2発しか作れないから、失敗は許されないぞ」
「それはジョーに任せておけば大丈夫でしょう」
健がジョーの腕に全幅の信頼を寄せている事が改めて解って、彼は少し嬉しかった。
だが、違う事を言った。
「国連軍がどこまで時間稼ぎをしてくれるか…。
 早くしねぇとメカ鉄獣が引き上げちまう」
「監視は付けている」
「戦闘機で尾行するって言うんですか?すぐに叩き落されますよ」
ジョーは意外と心配性なのかもしれない。
「レッドインパルスには生き残りのメンバーが2人いる事を忘れたのかね?」
「あ…」
健の口から小さな驚きの声が漏れた。
そうだった。メガザイナーで正体がバレそうになった時、密かに助けてくれたのだった。
「今、攻撃にも加わって貰っている。
 だから、諸君はバードミサイルの完成を待て。
 解ったな、命令だ」
「解りました、博士」
健が素直に答えた。
博士は忙しそうに部屋を出て行った。
残された5人は作業の様子を暫く眺めていた。

次にブレスレットで司令室に呼び出されたのは、それから1時間程経ってからの事だった。
「メカ鉄獣が移動を始めた」
「つまりアイワイ市は…」
健がその後の言葉を濁したのは、気持ち的に解る気がする。
「……全滅した」
博士も言いにくそうに答えた。
自分が大きく関わって作った街なのだ。
「くそぅ。やっぱり国連軍では人々を避難させるのがやっとだったか…」
ジョーが右手の拳で左掌を叩いた。
「レッドインパルスには敢えて、途中から攻撃を控えて貰った。
 人々の避難が完了したからだ。
 今、彼らが引き上げて行く二双ブーメランのメカを追っている」
「空を飛んでいる内がチャンスです」
「特殊加工した超バードミサイルの装備は後5分で終わる。
 諸君はゴッドフェニックスで待機していてくれたまえ」
「ラジャー」
全員がバードスタイルになって、格納庫へと走り始めた。
手馴れた様子で乗り込み、コックピットに集合した。
まだ5分は経っていない。
待つ時間が長く感じられた。
「俺はやってやるぜ。
 博士が心血を注いだマントル計画の象徴だったアイワイ市を木っ端微塵にしやがって!」
「ジョー、俺達もその気持ちは同じだ。
 敵のブーメランの回転を停めたら、俺とジョー、ジュン、甚平で敵のメカ鉄獣の中に飛び込む。
 中から破壊するしかあるまい」
「だがよ、待っていたら基地まで案内してくれる可能性もねぇか?」
「そこなんだが……、他のマントル計画都市を襲う可能性もあるからな」
健は皆まで言わなかった。
「解ったよ。基地は諦めよう。
 おまけに付いて来てくれればそれはその時に考えればいいってこった」
「そう言う事だ。まずは超バードミサイルを敵の回転軸2箇所に確実に撃ち込んでくれ」
「やってやるさ。俺様の腕を舐めるなよ」
その言葉は健に向けられたものではない。
敵のメカ鉄獣に向けたものだった。
『諸君。特殊超バードミサイルの装備が終わった。
 すぐに出動してくれたまえ。
 今、レッドインパルスはH海沖を追跡中だ』
「ラジャー、ゴッドフェニックス出動します!」
健が勢いづいて答えた。

ゴッドフェニックスは急ぎH海域へと到達した。
やはり別のマントル計画都市を狙っているようだ。
このまま行くとエスエー市へと到達するルートだ。
『こちらレッドインパルス。敵は引き渡す。成功を祈る』
正木の声がした。
「了解。ゴッドフェニックスは直ちに敵のメカ鉄獣への攻撃に入る」
健が凜とした声で答えた。
「今はブーメランが回転していないから、1本の棒のような形状をしているな」
ジョーが顎に手を当てた。
「飛行する時には邪魔なのかもしれんな」
健も答えた。
「あのブーメランが回転する時は、攻撃に転じた時だけって事か。
 有難ぇ。やり易いじゃねぇか」
「でも解らんぞ。ゴッドフェニックスの接近に気付いているかもしれない」
「それもそうだな」
ジョーは気を引き締めた。
赤いボタンの前に立ち、中腰になる。
「敵が動き出さねぇ内に上に回り込んでくれ」
ジョーは竜にそう言ったが、もう遅かったようだ。
「敵はもうこちらに気付いているわっ!」
ジュンが悲鳴を上げるように叫んだ。
「ブーメランが回転し始めた!」
お化けでも見るかのような顔をして、甚平が言った。
「任せておけ。俺に集中させてくれ。
 あの回転の中心を狙うのにはいくら俺でも骨が折れる」
「だが、ジョーなら大丈夫だ」
健はそう言ったきり、ジョーに集中出来る環境を作る為に黙り込んだ。
緊張の時間が過ぎた。
ジョーは慎重に2発の特殊超バードミサイルを撃った。
全員が手に汗を握っていた。
ゴッドフェニックスも、敵のメカ鉄獣も動いている。
そんな中で狙いを定めるのは容易な事ではない。
敵の動きを見越しながら撃たなければならないのだ。
任務の中で参加した国際射撃大会で優勝した経験のあるジョーだからこそ、こなせる離れ業であった。
時間差で撃たれた特殊超バードミサイルは、見事にブーメランの回転の中心部に命中した。
「ジョー、やったな」
健が肩を叩いて来た。
「喜んでいるばかりじゃねぇ。
 奴らの中に入り込まねぇと!」
「ああ、みんないいか!?行くぞ!」
竜を除いた4人がトップドームへと上がった。
ジョーが穴を空けた2つの穴から、二手に分かれて侵入する事になった。
健とジョー、ジュンと甚平。
それぞれに分かれて、2箇所に舞い降りた。
20メートルは距離がある。
4人はそれぞれに頷きを交わして、穴の中へとシュッと入って行った。




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