『巨大ブーメラン(3)』

ジョーが空けた穴の中に2人ずつ分かれて飛び込むと、すぐに警備兵からマシンガンの洗礼を受けた。
特殊超バードミサイルで風穴を空けられ、ブーメランが回転しなくなったのだ。
多数の敵兵が出張って来ているのは当然予測が付いていた。
それを予期して動かぬ科学忍者隊の訳がない。
健もジョーも突入した途端に戦闘体勢に入っていた。
マシンガンはマントで防いでおき、すぐに敵の戦力を奪いに掛かった。
この2人に掛かれば敵は一溜まりもない。
磐石なコンビだ。
ジュンと甚平は機関室を叩くように健から指示を受けて行動している。
こちらは司令室を見つける手筈となっていた。
勿論、逆になる事も有り得る。
その時は臨機応変に行動するのが彼らのセオリーだ。
ジョーはジャンプをして、敵兵の背中から両膝で蹴りを入れた。
これは痛い。
やられた敵は暫くは動けない筈だ。
担架がいるかもしれない。
だが、仲間の助けは期待出来ないだろう。
このメカ鉄獣が爆発する時に共に藻屑となるのは眼に見えている。
気の毒には思うが、ギャラクターが末端の隊員を大切にしていない事は解っているので、科学忍者隊としては仕方がない事だった。
『殺さない』事を前提としているが、バードミサイルや火の鳥、爆弾などを使って、間接的には敵兵を死に至らしめている。
その事を重く受け止める事も多々ある彼らである。
無益な闘いは早く終わって欲しい。
今のまま先が見えない闘いをいつまで続ければ良いのか?
復讐を急ぐジョーなどはいつもカリカリとしている事が増えていた。
「くそぅ。修理兵もいるせいか、なかなか敵さんも減らねぇな」
「ジョーがぼやくとは珍しいな」
「ぼやいているつもりはねぇ。早くカッツェにお眼に掛かりたいだけさ」
まだ闘いながら会話をする余裕がある2人だった。
ジョーはエアガンで敵を的確に撃ちながら、前に進む事だけを考えていた。
自分には『後退』は似合わない。
常にそう思っている。
だから、先程一旦撤退した時も健に負けないぐらい悔しかったのだ。
『一番悔しいのは健なんだよ』
と言っておきながら、自分も敗北感を強く味わっていたのだった。
「破壊されたアイワイ市の人々の為にも、此処で決着を着ける」
健が言った。
「言わなくても解ってるぜ」
ジョーは健と同じ思いでいた。
南部博士が心血を注いだ街だからこそ、ギャラクターを許す事は出来なかった。
どれだけの年月と費用を掛けた事か…。
それを思うと胸が痛くなる。
また1からやり直さなければならないのだ。
それに人命が失われている。
街は作り直せても生命は作り直せない。
胸が痛いのはそのせいだろう、とジョーは思った。
また自分のような子がこの世に誕生した。
ギャラクターに親を殺された子供達…。
ギャラクターに兄弟姉妹を殺された子供達…。
ギャラクターに子を殺された両親達…。
到底ギャラクターの奴らを許せる筈がない。
ジョーは唇を噛み締めた。
「うぉぉ〜っ!」
ジョーは叫びながら走った。
羽根手裏剣が飛び散り、彼は勢い良くぐるりと回転した。
その周りには彼の長い脚で蹴り飛ばされた敵兵が倒れて行く。
漏れなく手の甲には羽根手裏剣が突き刺さっており、マシンガンは取り落とされていた。
あちこちで暴発が起きている。
それを避けられない健とジョーではなかった。
ジョーは側転をしながら敵兵を足蹴にして倒し、そのまま前の通路へと進んだ。
マシンガンの弾雨が2人を追い掛けて来た。
だが、2人はマントでそれを交わし、構わずに走った。
ブーメランの中心の距離が20メートルしかない。 ブーメランは互い違いに動くようになっているので、それでもぶつからないように出来ているのだ。
2つのブーメランは直径40メートルはあった。
メカ鉄獣自体の大きさはブーメラン部分を入れても120メートル程か。
そんなに大きな部類ではない。
司令室にはすぐに辿り着くだろう、と言う予感があった。
特殊超バードミサイルによって、このメカ鉄獣の最大の武器であり、防御でもあった電磁波は破られている。
今、再生に必死だろうが、難しいだろう。
この間にメカ鉄獣を爆破してしまうのが得策だった。
「このメカ鉄獣はそれ程大きくはねぇ。
 爆弾をあちこちに仕掛ければ一溜まりもねぇだろう」
「ああ、超バードミサイルを使い切っているからそれは有難いな」
健も頷いた。
「時限爆弾ではなく、遠隔操作爆弾を使おう。
 一気に爆発させるんだ。
 ジュンにも知らせるぞ」
「ああ」
ジョーは健が連絡を取っている間、敵兵を一気に引き受けた。
健は話しながら闘う事も可能な男だが、ジョーはそう言った配慮を黙っていても自然に行なっていた。
エアガンの三日月型キットを飛ばして、敵兵の顎をタタタタタンっと小気味良い音を立てて打ち砕いて行く。
当面は意識を失ってしまう程の衝撃だ。
そこには人体の急所がある。
次の瞬間には別の兵士の鳩尾にしこたまパンチを繰り入れている。
ジョーは闘っている最中に次の敵を見切っているので、行動に無駄がないのだ。
無駄な動きが一切ない処か、彼は全身を武器にして、全ての五感を研ぎ澄まさせる。
その感覚は闘いの中で生まれたとしか言いようがない。
それにこれは彼の生まれ持った『才能』でもあるのだろう。
まるで闘う為に生まれて来たかのような彼の肉体。
その動きを見ていると、余りの速さに度肝を抜かれる。
総合格闘技の選手であっても、こうは行かないのではないだろうか。
その能力はバードスタイルになっていなくても、如何なく十二分に発揮される。
これはジョーだけではなく、特殊な訓練を受けて来た科学忍者隊全員に言える事であった。
鋼のようでいて柔軟な肉体で、ジョーは敵兵と対していた。
「ジョー、行くぞ」
「おうっ」
健とジョーは息を合わせて走り始めた。
両雄が足取りもピッタリに、綺麗なフォームで走っている姿はエンドレスで見ていても飽きない。
だが、2人の歩みはすぐに止まった。
敵兵の溜まり部屋があったらしく、わらわらと敵が現われ始めたのだ。
その中にはチーフ格の隊員もいた。
色違いの隊服を着ているので、すぐに解る。
「健、チーフがいるぜ。気をつけろよ」
「解っている…」
健は短く答えた。
チーフ格の隊員は特別な戦闘能力を持っている事が多い。
それを早く見極めなければならない。
特殊な武器を装用している事も考えられる。
どうしてもこちらも慎重にならざるを得ない。
勲章をいくつも取っている連中が這い上がって行く。
普段相手にしているような、雑魚兵とは一味違うのだ。
だが、科学忍者隊はそんな事には屈しない。
これまでも数多くのチーフ、隊長を倒して来たのである。
油断は禁物だが、彼らは『魂』で負けてはいない。
アイワイ市の市民の代わりにこの敵を倒してやる、と言う闘志に燃えていた。
ジョーが最初に腕試しとばかりに羽根手裏剣を放った。
百発百中の羽根手裏剣だが、チーフは手甲を嵌めており、鉄で出来ているらしい。
羽根手裏剣は確かに当たったが、無惨にも先端が折れて床に落下した。
「奴の腕に嵌められた手甲は鋼鉄で出来ているようだぜ」
ジョーが呟いた。
その場所にはブーメランも通用しないだろう。
腕で防御をされてはお終いだ。
「どてっ腹にカウンターパンチをお見舞いしてやる」
「ジョー、気をつけろ。あの手甲は防御だけじゃなく攻撃用でもあるぞ」
健が注意を喚起するように言った。
「ああ、解っているつもりだが」
ジョーは事も無げに答えた。




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