『巨大ブーメラン(4)』

巨大な2つのブーメランは中心部を破壊して停める事が出来たが、メカ鉄獣が急に高速で動き始めたのか、遠心力で健とジョーは壁に叩きつけられた。
「竜、何が起こった!?」
健がブレスレットに向かって話し掛けた。
『メカ鉄獣自体がブーメランになったんじゃ!
 高速で回転しとる!』
「なる程、そう言う事か…」
ジョーがニヤリと笑った。
「本当にどこまでもブーメランメカだったんだな…。
 健、あいつの手甲に気を取られていたが、良く見てみろ。
 奴の武器もブーメランだ。二刀流だぜ。
 負けるなよ。おめぇのブーメランと一騎打ちする気らしいぜ」
「くそう。負けるものか」
「手甲は羽根手裏剣では破れねぇ。
 腕を押さえつけてエアガンのバーナーで焼いてやるか」
「危険だぞ、ジョー」
「だが、どっちみちあいつは倒されなければならねぇ」
それはそうだ、と健は頷かざるを得なかった。
「おめぇはブーメランで闘って奴を引きつけておけ。
 俺は奴の右手から試みる」
リーダーは俺なんだが…。
健は少しそう思ったが、まあ、仕方がない。
ジョーの思いつきなのだから、そのようにさせてやろう。
健は目立つ行動を取った。
「バードランっ!」といきなり小手調べだとばかりにブーメランを投げたのである。
すると、敵のチーフは2本のブーメランを時間差で放って来た。
健は飛び退って避けたが、2本目のブーメランが利き腕を掠った。
「健!大丈夫か?」
「掠り傷だ。心配するな。
 ジョー、気をつけろ。あのブーメランには刃が付いている」
「おめぇのだってそうだろう?そんな事は想定済みさ」
ジョーは次の瞬間、健の横からヒュッと姿を消した。
何と敵のチーフの頭を越えてジャンプし、その後ろを取ったのだ。
右腕を力任せに引いて、自分の腕に絡ませた。
ジョーは膝で手首を叩き、片方のブーメランを取り落とさせる。
危険だった。
左手にはまだブーメランが残っているのだ。
準備してあったエアガンのバーナーが火を吹いた。
肘まである手甲を肘の方から縦にまっすぐに焼いて行く。
その間にも敵は暴れるから、余計な処にバーナーの火が行ったりしたが、鋼鉄で出来た手甲は順調に溶けて行った。
健がその間、左手のブーメランでチーフがジョーを攻撃出来ないように、牽制する事にした。
自分のブーメランで左手の手甲に当てると、少しヒビが入った。
なる程、これを繰り返せば…!
健はこの攻撃を繰り返す事にした。
ジョーに右手の手甲を、健には左手を破壊され、攻撃能力が一気に減った。
先程取り落としたブーメランは、ジョーが遠くに蹴り飛ばしておいたので、敵の手元には一双のブーメランしか残っていなかった。
ジョーはそのブーメランに向けて、エアガンのワイヤーを伸ばした。
絡め取って、それを自分の手元に引き寄せた。
これで健のブーメランとダブルになった。
敵は意味不明な言葉を吐いた。
万事休す、と思ったのだろう。
2人は容赦なく敵のチーフに臨んだ。
2人揃ってブーメランを投げたのだ。
健が投げた物は後ろ側から首を直撃した。
ジョーが放った敵のブーメランは腹部の急所をしこたま打った。
これで敵のチーフは完全に崩れ落ちた。
「ジョー、ブーメラン遣いもなかなかじゃないか?」
健がニヤリとした。
「俺にはこいつは派手過ぎて似合わねぇ。
 いつもの武器で充分さ」
そう言うと、ジョーは戻って来たブーメランをパシッと受け取り、それを太腿を使ってへし折った。

「さあ、チーフが出て来たと言う事は司令室はこの近くだぞ」
健が鼓舞するかのように言った。
「そうだな…。ジュン達の方はどうなっているだろうか?」
ジョーの言葉に、健はブレスレットに向かって、戦況を訊いた。
「まだ機関室までは辿り着けていないみたいだな。
 向こうにはチーフ級の隊員がいない事が救いだ」
健が呟いた。
「やはり司令室がこっちに間違いないと言う証拠だな」
ジョーは俄然闘志が沸いて来た。
もうすぐこのメカ鉄獣を倒す事が出来る。
アイワイ市を破壊したメカを木っ端微塵にしてやる。
彼の意識は、そこに集中していた。
「健、怪我は本当に掠り傷なのか?」
「実はそうでもないんだが、大丈夫さ」
「危ねぇっ!」
ジョーが健を壁に押しやってマントで守った。
先程倒した筈のチーフが執念で起き上がり、最初にジョーが蹴り飛ばしたブーメランを投げて寄越したのである。
チーフはブーメランを投げると満足気に笑って、そのまま仰向けに倒れた。
ジョーの左肩にそのブーメランが刺さっていた。
「ジョー、お前って奴は…」
健が済まなそうな顔をしながら、そっとそのブーメランを抜いた。
刺したままの方が出血は起きにくいが、動く毎に傷口を広げる事になる。
じっとしていられるのならそのままにしておけば良いが、そうは行かなかった。
「ジョー、お前まで手負いにしてしまった…」
「構うこたぁねぇ。リーダーが大丈夫なら心配はねぇよ」
「馬鹿野郎!」
健が怒鳴った。
「リーダーだろうがサブリーダーだろうが関係ない。
 お前はいざと言う時には自分が死を選んででも俺を生き残らせようと考えている。
 そいつは間違いだ。今、此処でハッキリ言っておくから覚えていろ」
健は珍しく激高していた。
「とにかく2人とも手負いだ。ジュンと甚平に連絡して、早い処片付けようぜ」
傷はジョーの方が重かった。
掠めただけの健と、ブーメランが刺さったジョーとでは傷の具合も出血の状況も違う。
ボタボタと音を立てて床を血で濡らしているジョーを、健は心配した。
「心配するな。左肩だ。まだまだ闘える」
「ジョー…」
「行こうぜ。こんな恐ろしい化け物はさっさと片付けちまおう」
2人と、そして別行動のジュンと甚平は既に所々に爆弾を仕掛けている。
健の指示通り、時限爆弾ではなく、遠隔コントロールで全てが同時に爆発する。
ゴッドフェニックスに退避してから、ボタンを押せばいい。
同時に爆発が起こる事で、ブーメランメカは粉微塵になる筈だ。
とにかく今は司令室を目指す事が最優先事項だった。
「血止めをしている暇がないぞ、ジョー」
「解っている。気にするな。行こうぜ健」
ジョーは右手で傷を押さえて、少しでも失血を少なくしようとしていた。
その手が真っ赤に染まっている。
しかし、今は闘う時だ。
司令室を目前に傷を受けた2人。
果たして無事に司令室にも爆弾を仕掛ける事が可能なのか?
今まではそれを果たして来た彼らだった。
どんな逆境にも挫けずにやって来た。
今回も絶対に乗り越える!
2人の心は1つになっていた。
司令室が近い事はチーフが出て来た事と敵兵が多い事で解る。
ジョーは羽根手裏剣での攻撃で出来得るだけ体力を温存した。
失血で多少頭がボーっとし始めていたが、そんな事で狙いが狂うような彼ではなかった。
右腕は無事なのだ。
例え指1本になっても闘える。
それが彼の信条だった。
そのように訓練はして来たつもりだ。
1人で訓練室に篭って…。
健とジョーは走りながら進んだが、やがて大きな扉の前に出た。
「どうやらこれが司令室らしいな…」
健が呟いた。
「ジョー、行けるか?」
「当たりめぇだろ?俺様を誰だと思っている?」
「その言葉が出るようなら大丈夫だな。行くぜ」
健が複雑な表情でジョーを見詰めてから、ドアに体当たりをして中に転がり込んだ。
健は右腕の二の腕に、ジョーは左肩にそれぞれ負傷している。
最大の危機とも言える中、2人はまた闘いの火蓋を切った。




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