『巨大ブーメラン(5)/終章』

司令室に踏み込んだ2人を待っていたのは、いきなりのマシンガン攻撃だった。
それ位の事は読めている。
2人は左右に散って、見事にマシンガンの弾丸から逃れた。
だが、次に襲って来たものは、ちょっと趣向が違っていた。
電気鞭だ。
程度の差こそあれ、負傷している2人がこれをまともに受けたらどうなる事か。
バードスーツはある程度の電気ショックには耐えられるようになっているが、気を失ってしまう事は必至だった。
そうなればギャラクターの餌食になる事は眼に見えている。
ジョーは油断なく、電気鞭の基点を探した。
電気鞭は2本ある。
自由に動く蔦のように、不気味に蠢いている。
丁度左右の対角上にその基点がある事に気付いた時、健が「ジョー、俺に任せろ」と言った。
「バードラン!」
健がブーメランでその電気鞭を切り落とした。
床に落ちた電気鞭が床からバチバチと電気を放電して来たので、2人は天井にジャンプしてパイプに掴まり、難を逃れた。
ギャラクターの隊員達が電気を体内に受けて、バタバタと倒れていた。
そこに敵の隊長が登場していた。
特殊なゴム靴を履いており、自分だけは電気鞭の影響から逃れられるようにしてある狡猾さだ。
健とジョーは天井から舞い降りた。
チーフはブーメランを武器としていたが、この隊長は見た処、鞭を手にしているだけで、他には武器は持っていない。
恐らくはこの鞭も電気鞭だろう。
ジョーは天井から舞い降りる時にそれを看破した。
「健!電気鞭を持っていやがるぜっ!」
「あれに当たったら危険だな…」
出来るだけ床に脚を着かない方がいい。
2人は頷き合って、再度天井へとジャンプした。
パイプに脚を引っ掻け、2人は逆さにぶら下がった。
ジョーの肩から血がポタポタと落ちるのがハッキリと敵に解った。
「両方とも手負いか…」
敵の隊長が舌なめずりをした。
「よし、出血している方から片付けてやる。
 この鞭は伸縮自在だ。
 そこまで届かないとでも思ったか?
 ハハハハハハっ!」
勝ち誇ったようなその眼は、まるで酒気を帯びているかのように赤く染まっている。
「健、俺に構わず奴の右腕をへし折ってしまえ。
 ブーメランで出来るだろう?」
「出来るが、奴には隙が無い。
 タイミングを逃すと、お前が攻撃を受ける事になるぞ」
「解っている…。だが、このままではいられねぇ」
ジョーの下には血溜まりが出来始めていた。
「失血が酷い…。これじゃ意識を失いかねねぇ。
 早くしてくれ。俺が援護をする」
「解った」
健は腰からブーメランを、ジョーはエアガンを抜いた。
「俺はワイヤーで奴の自由を奪う。
 その間に頼んだぜ。
 恐らくはそれ程長い時間奴の動きを止める事は出来ねぇ」
ジョーはそう言うと、エアガンのワイヤーを発射し、敵の身体をぐるぐると雁字搦めにしようとした。
隊長はそれを電気鞭で迎え撃った。
ジョーの身体に一瞬ビリビリと電気が走ったが、彼は歯を喰い縛って耐え抜き、無事に隊長の動きを止めた。
「今だ!」と叫んだ健は、ブーメランを飛ばしていた。
一巡目は隊長の右の二の腕をしこたま打ち、二巡目で持っていた電気鞭を取り落とさせた。
その間にジョーはワイヤーを巻き取り、エアガンで鳩尾を狙った。
逆さ吊りになっているものの、その狙いは正確だった。
敵の隊長はどう、と音を立てて床に転がり、自分の電気鞭で感電して気絶した。
電気鞭はやがて放電を止めた。
「もう降りてもいいだろう」
健が言い、2人は再び床へと舞い降りた。
「爆弾を仕掛けよう。出来るだけ手早くだ」
「おう」
ジョーは短く答えた。
逆さ吊りになっていた事で、出血が増えていたのだ。
全身の血液が上半身に集まる。
仕方のない事だった。
意識は辛うじて保っていた。
それが彼の意志の強さだった。
2人は手分けして、効率良く爆弾を仕掛けて回った。
「くそぅ。カッツェはいねぇのか?」
ジョーが歯軋りでもしそうな顔で言った。
「恐らくはもう逃げたか、元々別の基地から指示を出していたか、どちらかだろう」
健は冷静に答え、ブレスレットを口元に引き寄せた。

ゴッドフェニックスに集合した科学忍者隊は、コックピットから爆弾の遠隔スイッチを押し、メカ鉄獣の爆破に成功した。
ジュンがジョーの傷の手当をした。
「ブーメランが貫通したのね。酷い傷だわ。
 健は大丈夫?」
健の手当は甚平がしていた。
本当なら真っ先に健の手当をしてやりたい処だろう、とジョーは思った。
「俺はいいから、健を看てやれ」
「何言ってんの。ジョーの方が重傷なのよ」
ジュンはプイっと横を向いた。
「これでは健にブーメランを引き抜かれた時、相当な衝撃があった筈よ」
ジョーはあの時、全く声を発しなかった。
健はジュンの言葉を聴いて、ジョーの豪胆さに改めて感心した。
「兄貴も酷いね。こんな傷なのに、容赦なくブーメランを抜いた訳?」
甚平が健の腕に包帯を巻きながら言った。
こちらは止血を必要とする程の事はない。
「甚平。健を責めるな。あんな物が刺さっていたら闘うのに邪魔だろうが。
 それに動けば傷が広がるだけだ。
 健の選択に間違いはねぇよ」
ジョーは吐き捨てるように言った。
甚平はシュンとした。
「ごめんよ、兄貴」
「馬鹿だなぁ。気にする事なんかない。
 それより今回は俺の不覚でジョーに傷を負わせてしまった」
「それこそ気にする事ぁねぇぜ」
ジョーが呟いた。
「任務の時には誰が傷を受けても不思議じゃねぇ。
 それを一々リーダーのおめぇが気にしていたら、任務に差し障りがあるって事だ」
ジョーはそれっきり眼を閉じた。
瞼が重くなったからだが、意識を失った訳ではない。
「潜行するぞいっ」
竜の声が聴こえた。

基地に到着すると、手負いの2人にはすぐに治療が施された。
ジョーの方は手術になったので、時間が掛かったが、すぐに麻酔から醒め、司令室に全員が集合した。
「ジョー、痛みはないかね?」
「局所麻酔の方がまだ効いていますので、大丈夫です。
 それより博士こそ、大丈夫ですか?
 眼に隈が出来ていますよ」
ジョーに言われて、博士は鼻眼鏡を上げ、眼をこすった。
一睡もしていないのだろう。
アイワイ市を完膚なきまでに破壊された事で、一から出直しとなったのである。
「諸君の働きでギャラクターの野望は費えた。
 ご苦労だった…」
博士は疲れを感じさせない声でそう言った。
「でも、犠牲が多過ぎました。人々の生命も、街も……」
健が心の痛みに耐え兼ねないと言った様子で呟いた。
「うむ。今回の事は重く受け止めている。
 ギャラクターはどこまでもマントル計画の邪魔をするつもりだ。
 国連軍の警備を付ける事にするが、それだけでは足りん。
 自己防衛能力を街自体に作るしかあるまい」
「つまり、街全体にバリアーみたいな物を張るってぇ事ですか?」
ジョーが訊いた。
「まあ、そのような物だ」
博士はそれだけ答えて、書類のファイルを手に立ち上がった。
「諸君はゆっくり休みたまえ。
 ジョーは明日の朝まで病室に居る事。
 今夜は発熱があるかもしれないから、覚悟をしておきなさい」
「解りました」
「本当に大人しくしているかみんなで監視してないと、ジョーの兄貴は危ないよね」
「甚平っ!」
余計な事を言うなとばかりに、ジョーは甚平の頭に軽くこつんと拳を落とした。




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