『カモフラージュ(2)』

『地割れがしてるわ!私達を呑み込もうと言う作戦かもしれない!』
ジュンの切羽詰まった声が響いて来た。
彼女はヨーヨーで、竜はエアガンのワイヤーを伸ばして、レーザービーム砲の鉄塔にそれを絡ませて脱出しようとしたようだが、ビーム砲毎地割れの中に崩れ落ちて行く。
甚平は竜の脚に掴まっている。
「健!やはり罠だっ!」
「このままでは3人とも…!」
ジョーは自分の足元もぐらついているのを感じていた。
「健、此処も危険だ。一旦引き下がろう!」
「仕方ないな。3人の無事を祈るしかあるまい…」
「健、そんな事を言っている暇はねぇぞ!」
ジョーは健の腕を強引に引っ張り、すり鉢状の上の部分まで上がった。
レーザービーム砲は明らかに囮で、ジュン達3人は地面の下へと吸い込まれて行ってしまった。
「科学忍者隊を拉致する為にカモフラージュされた、ただのビーム砲だったんだ!
 近くに来る物を叩き伏せ、俺達を誘き出す為の……」
健が膝を着いて、地面の土を握り締めた。
「健、後悔している場合じゃねぇ。
 博士に連絡してレッドインパルスの調査の状況を訊け。
 俺は地下に基地なんかねぇ、と余計な事を言っちまったようだ。
 俺は3人を探す。健は調査の状況によってはそっちへ飛べ」
「馬鹿言うな。科学忍者隊は5人揃ってこそ、力を発揮出来る。
 それにお前が言っていた通り、此処には基地はない。
 我々を捕らえる為だけに作られたお飾りさ」
健が言い終わらない内に、クレーンで持ち上げられた物がある。
四角い檻だ。
ジュン、甚平、竜の3人が閉じ込められている。
檻の外には何かバリアーが張り巡らされているのが目視出来た。
「以前蜘蛛の巣鉄獣スモッグファイバーをやった時の武器が、G−4号機に設置されたままの筈だ。
 あれならバリアーを破れるかもしれねぇ。
 俺はG−4号機に乗って戻って来るから、おめぇは早く博士に連絡しろっ!」
健はジョーに言われるまで、自分が何としてでも仲間達を救う事しか考えていなかった。
だが、言われてみれば、ジョーが言う通りだ。
冷静になれ!と自分の両頬を叩いて、健はブレスレットで通信した。
その間に彼の横からジョーの姿が消えた。
「博士、レーザービーム砲は罠でした。
 今、ジュンと甚平、竜が囚われています。
 ジョーが救出に当たっていますが、レッドインパルスの調査の方はどうなっていますか?」
『うむ、難航しているようだが、どうやら死火山を噴火させようとしている動きがあると、情報部からの情報も入っている』
「では、まだ俺達は動きようがないんですね?」
『今の処はそう言う事になる。早く3人を救出して、ゴッドフェニックスで待機するのだ』
「ラジャー」
健は答えながら、ホッとしていた。
仲間達を置いて行くのは後ろ髪を引かれる思いだ。
それをせずに済んだ。
近い将来、その思いを体験する事になろうとは、この時は誰も思ってなどいない。
『健、今、すぐに行く!そっちはどうだ?』
狭いG−4号機の中で、長い手足を持て余しているだろうジョーの姿が想像出来た。
「まだ調査結果は出ていないが、死火山を噴火させようとする動きがあるらしい。
 今回の事は俺達をこっちに引きつけておいて、あわよくば全員拉致する事が目的だったんだ。
 その間に作戦を進めようとしたんだろう。
 カッツェのやりそうな事だ」
『3人は?』
「まだぶら下げられたままだ。俺達の出方を見ている。
 誰もいないと見せ掛けてはいるが、必ず敵兵はいる筈だ」
『解った!』
ジョーの声がした時、既にG−4号機が飛んで来るのが見えていた。
ジョーは長い手足で単純な操縦方法のG−4号を操縦する事に窮屈さを感じていた。
だが、この際仕方がない。
ただ、武器の使い方が解らなかった。
ブレスレットで甚平に連絡を取った。
「甚平、『蜘蛛の巣鉄獣スモッグファイバー』のバリアを破った時の武器のボタンはどれだ?」
だが、空電がするだけで、連絡は取れない。
『ジョー、あのバリアが通信を封じているようだ』
健の声がした。
「仕方がねぇ。闇雲にやってやるしかねぇか。」
『ジョー、やり方によっては危険だぞ』
「なぁに、一番新しいボタンを押してみるまでよ」
ジョーはニヤリと笑いながら、そのボタンを押した。
彼の勘はピカイチだ。
ジョーの言った通り、一発でその丸い刃の形をした武器が出た。
「おっと、調節が難しいな…」
そう言いながらも、まずは彼は檻の周囲にあるバリアを取り払い始めた。
空電が消えてブレスレットが通信出来るようになった。
『ジョーの兄貴、おいらのメカを勝手に使ったな?』
甚平の元気な声が聴こえた。
憎まれ口を叩いているが、嬉しそうだった。
「仕方がねぇだろ?俺だって好き好んでこんなに狭いメカに乗っている訳じゃねぇ」
ジョーはバリアを完全に取り払って、檻を吊っているワイヤーを切った。
檻が地面へとどすんと落ちる。
荒々しいようだが、これで脱出出来ない科学忍者隊ではない。
全員が無事に脱出して、ジョーがG−4号機の口から出した手のような触手に掴まって、すり鉢状の地形の外へと出た。
「ジョー、良くやってくれた」
健もホッとした表情を見せた。
見ている間ハラハラしていたに違いない。
「有難う、ジョー」
ジュンが礼を言った。
「いいって事よ」
ジョーはサラリと流した。
そこへ南部博士からの通信が入って来た。
『ギャラクターはY国のバゲダガ村に潜んでいる。
 あそこには巨大な死火山、『コサンタイシ山』がある事は皆、知っているだろう」
「『コサンタイシ山』を爆発させたら、相当な距離まで被害が出ますね…」
健が呟いた。
それが本当の狙いだったのだ。
『まだ狙いは他にもあるかもしれんが、今解っているのはそれだけだ。
 取り敢えずはY国に向かってくれたまえ』
「ラジャー」
科学忍者隊はホッとしている暇など無かった。
甚平はG−4号機に乗り、他の4人はゴッドフェニックスまで走った。

「竜、Y国まではどの位だ?」
「20分もあれば行けるわい」
「計器飛行に切り替えて、地図を出してくれ」
「ラジャー」
健の指示でスクリーンには、Y国の地図が大写しにされる。
「バゲダガ村は此処。コサンタイシ山が此処だ。
 確かに距離としては500メートル。
 何か画策するにはいい場所だな」
健が言った。
「村の人達がどうなっているのか気になる処だな」
ジョーも呟いた。
「バードスタイルを解いて、村に潜入しよう。
 竜、近くの山林にゴッドフェニックスを隠すんだ」
「解った!」
ゴッドフェニックスは着陸し、彼らはトップドームから跳躍すると、バードスタイルを解いた。
「さて、これからどうする?」
ジョーが健を見た。 「まずは村の中心部に行ってみよう。
 旅行者が道に迷った振りをしてな」
「荷物も持たずにか?不自然だろう?」
ジョーが言う事は尤もだった。
「遭難した事にすればいいんじゃない?
 荷物は川に流されてしまったって。
 確かこの近くにテフテフ川があったでしょ?」
ジュンの言った通りだった。
「よし、そうしよう」
健が力強く頷いた。




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