『カモフラージュ(3)』

科学忍者隊は全員がバードスタイルを解いて、平服姿になった。
1〜5番のマークを付けたTシャツを見た人々は何かのチームだと思うだろう。
「あんた方、旅の人かの?見た処荷物もないようじゃが」
村の長老らしき老人が人懐こく声を掛けて来た。
「実はそうなんです。川下りをしていて、船も荷物も流されてしまいました」
健が一抹の後ろめたさを感じながら答えた。
「あのテフテフ川は穏やかなんじゃがな。
 それに君達は濡れていない。
 まあ、いい。ちょっとわしの家に寄りなさい」
長老は何かを感じ取ったらしい。
ギャラクターかもしれないし、逆に村の窮状を訴えるつもりかもしれない。
5人は油断せずに老人に従った。
老人は中に何人かいた村人も呼び寄せ、大きなテーブルに彼らを座らせた。
そして声を潜めて話し始めた。
「あんたらはもしかして国際科学技術庁の工作員か?」
「え?」
健は一瞬戸惑ったが、黙って頷いた。
「漸く来てくれたか…」
長老は安堵の溜息をついた。
「裏の部屋で信号を出していたのだが、なかなかキャッチされなかったようでの」
(なる程、レッドインパルスはその信号をキャッチしたんだな…)
ジョーは思った。
「で?ギャラクターがこの村に潜伏していると言うのは本当ですか?」
健が訊いた。
「本当じゃとも。村の教会や公民館と言った大きめの建物は全て占拠されておる」
「で、ギャラクターの要求は?」
「水と食料、燃料の供給じゃ」
「それだけですか?」
「今の処はの。だが、これから何をしでかすか解らない。
 この村には外に出ればどこからでも見えると思うが、死火山のコサンタイシ山が聳え立っている。
 奴らはそこで何かしでかしているのじゃ」
「つまり死火山を爆発させようと目論んでいるんですね?」
健の代わりにジョーが訊いた。
「その通りじゃ。以前爆発したのは、150年前だと聴いておるが、その時は遠くの街にまで被害が出て、火山灰は海まで降ったと言う話じゃ。
 多くの人が犠牲になった。そんな事は絶対にさせらせない」
「解りました…。ちょっと話し合う時間を下さい」
健はそう言って、4人を呼び、テーブルから離れた。
「どう思う?」
「あの年寄りは嘘を言ってねぇ。カッツェの変装でもなさそうだ。
 だが、死火山を爆発させる目的は何だ?
 俺達を脅迫でもする気なんじゃねぇのか?」
「そうかもしれないわね…。だとしたらこの村の人達には申し訳ないわ」
ジュンも湿った声で答えた。
「今は準備段階じゃなかろうかのう?
 今の内に計画を叩いてしまえば、問題は起きないんじゃねぇの?」
竜が相変わらず惚けた口調で言った。
彼が言うと何でも暢気な感じに聴こえるが、彼と甚平は科学忍者隊のムードメーカーと言っても良かった。
「そうだったらいいんだがな。もう準備段階は過ぎて、爆発させるだけになっているかもしれねぇ。
 或いはこの作戦自体もカモフラージュで、情報だけ流させたって可能性もある」
「ジョーの兄貴が言ってる事は解らないよ。どっちなのさ」
「俺は可能性をいくつか挙げただけだぜ。
 どっちにしろ、さっきのビーム砲と言い、俺達を誘き出す餌にしか思えねぇって事だけは確かさ」
「ジョーの言う事には一理あると思う。
 ギャラクターのさっきの動きを見れば、死火山の爆発作戦もカモフラージュである可能性は否定出来ない」
健が腕を組んだ。
「結局は私達の生命が目的って訳?
 多くの人を犠牲にしておいて」
「ジュン、大きな声を出すな。
 あの人達にそんな事が解ったら、却って傷つけるだけだ」
健が注意した。
「そうね。ちょっと興奮してしまったわ。ごめんなさい」
「ジュンにしては珍しいな」
ジョーが眼だけを動かして彼女を見た。
「とにかくどうするよ?夜中を待って、奴らの行動を探るか?」
「それがいいだろう。本当にコサンタイシ山で作業をしているかどうかも見極めたい処だな。
 一旦ゴッドフェニックスに引き上げよう」
健は話を終わらせて、長老に近づいた。
「陽が暮れない内にこの村を出ます」
「え?だってあんた達、国際科学技術庁の工作員なんじゃ?」
長老は驚いて見せた。
此処に泊めるぐらいの覚悟はあったのだろう。
「余所者が此処に混じっていると怪しまれるでしょう。
 夜になったら忍び込もうと思います」
健は答えた。
長老は安堵したように頷いた。
「しかし、あんたらそれまで潜伏する場所はあるのかね?」
「その事はご心配には及びません」
健はそう言って、長老に背を向けた。

ゴッドフェニックスに戻って、作戦を練る事にした。
「日中は全く姿を見せなかったけど、教会や公民館とやらに篭っているのかな?」
甚平が、自分だったらそんな事には耐えられないと言った顔をした。
「村人を装って見回り班として数名は出ているかもしれないな」
健がそれに答えた。
「だが、殆どは甚平が言った通り、建物の中に篭っているんだろうぜ。
 奴らが活動するのは夜だ。
 人々は異常な程、声も立てねぇように静かに暮らしていた。
 あれはギャラクターの奴らの睡眠を妨げない為だとは思わねぇか?」
「なる程、そう言う考え方も出来るな」
健は頷いた。
「とにかく夜まで仮眠を取ろう」
「おらは腹が減ったんじゃが…」
竜がお腹をグーッと鳴らした。
「おいらも…」
甚平も細いのに大食漢だ。
「それもそうだな。健、今の内に腹拵えをしておいた方が良さそうだな」
「隣町のレストランに行こう」
健が決めた。
「おめぇ、金持ってるのかよ?」
此処にいる中で金を持っていそうなのは、ジョーとジュン、竜ぐらいな物だった。
甚平も少々は小遣いを持っているだろう。
健は頭を掻いた。
「まあいい。後で請求するからな」
ジョーはしれっとして言い放った。
健は少し青くなり、店の中で一番安い物を注文しようと決めた。

食事を済ませると夜の帳が降りて来た。
ゴッドフェニックスで少しだけ仮眠を取り、全員がバードスタイルで村へと再潜入した。
「やはり、ギャラクターの奴らが動き始めたな」
健の言う通り、コサンタイシ山の麓で重機で何やら掘り起こしている。
これでは昼間、人々が眠そうな顔をしていたのも頷けた。
音が煩くて睡眠を妨げられていたのだ。
地下に向かって、ドリルのような物が突き進んでいた。
暗がりの中だが、投光器が点けられている。
そして、周囲には護衛の兵士達が、マシンガンを構えて、放射状に重機を守っていた。
「本当にコサンタイシ山を噴火させるつもりなのか?
 俺達を誘き出す為のカモフラージュ以外に何の目的があって?」
ジョーが呟いた。
その時、南部博士からの通信が入った。
『レッドインパルスからの情報が入った。
 コサンタイシ山の地下にはウランが眠っている』
「なる程!奴らは俺達を誘き出すのと同時に地下資源を奪い取ると言う一石二鳥を狙っているのですね?」
健は得心が行ったと言う顔で博士に答えた。
『どうやらそう言う事になるらしい。充分注意して掛かるように。
 レッドインパルスの応援は要るかね?
 まだ諸君の近くにいる筈だが…』
「いいえ。それだけの事が解れば充分です。
 この件は俺達で片付けます」
健が決意を込めた瞳で言った。
勿論、ジョー達仲間にも異存はない。
「さすがは健だぜ。そう来なくちゃな」
ジョーは健の肩を叩いた。




inserted by FC2 system