『カモフラージュ(4)』

「俺とジュンと甚平、ジョーと竜に分かれて調査に入ろう」
健が言った。
「調査ってったって、実戦になるぜ。解ってるんだろうな?」
ジョーが腕を組んだ。
「当然さ」
健はニヤリと笑った。
「俺達はこの場所を探る。ジョーと竜は此処とは別に採掘場がないか探してくれ」
「解ったよ…。このドリルを突き刺しているのが採掘場とは思えねぇからな」
「此処はマグマを噴き出そうとする為の作業場だろう。
 だが、メインはこれをカモフラージュにしてウランを採掘する事にあるとは思わないか?」
健の言葉は尤もだった。
「ようし、そっちは俺と竜に任せろ」
ジョーは竜を伴って風のように消えた。
「竜、二手に分かれよう。何かあったらすぐに知らせろ」
「解った!」
竜は身体に似合わず素早い動きでジョーの前から姿を消した。
彼は西方向へ、ジョーは東方向へと周辺を探り始めた。
ジョーは慎重に、だがマントを翻し素早く進んで行く。
彼は夜目が利く。
余程小さな物でなければ見逃さない筈だ。
それに採掘場程の規模なら、投光器を使っている筈だった。
思った通り、前方に光が見え隠れしていた。
「竜、怪しい光を発見したぜ。そっちはどうだ?」
『いんや、今の処何もないぞい』
「解った。そのまま調査を続けてくれ」
『ラジャー』
竜の声は弾んでいなかった。
彼はジョー程夜目が利かない。
少し恐怖感を感じているのかもしれない。
暫くしてジョーが投光器の光だと確信した時に竜から連絡が入った。
『おらからも微かに光が見えるぞい。多分ジョーがいる場所じゃなかろうかのう?』
「解った。それを追って来い。俺は今から核心に迫る処だ」
『気をつけるんだぞい』
「言われなくても解っとるわい」
ジョーは冗談で返す余裕があった。
これからはそうは行かないだろう。
光が眩くなると共に、穴を掘る重機の音と、何かを積み出すトラックの走行音が響いて来た。
(これは間違いなく、採掘場だぜ…)
ジョーは健に連絡をした。
「採掘場を発見。竜も追って来る筈だ」
彼の声に答える健の周辺は既に修羅場だったようだ。
『解った。気をつけて掛かってくれ』
と短い返信があった。
ジョーは通信を終えると、慎重に足場を選んで、近くの小さな岩へと上がってみた。
様子が良く見える。
間違いない。
ウランの採掘をし、どこかへと運び出しているギャラクターの隊員達だ。
一気に作業を中断させるのは脅かすのが一番いい。
ジョーはエアガンのキットを交換して、照明弾を撃ち込んだ。
投光器の眩い光の中に照明弾を撃ち込んだのは、彼らを脅かす意味があったに過ぎない。
「何者だっ!?」
辺りは騒ぎとなった。
そこにジョーは竜の到着を待たずに1人で乗り込んだ。
「科学忍者隊G−2号、コンドルのジョーのおでましさ」
滅多に名乗りを切った事がないジョーが言った。
「俺が来たからには、これ以上の作業は続けさせられない。
 おめぇ達は此処で気絶して貰うのさ。
 殺しはしない。心配するな」
ジョーはそう言うと、その肢体を充分に生かして戦闘を開始した。
敵は投光器の光を消した。
ジョーの眼晦ましをしたつもりだろうが、視界が暗くなったのは、一瞬の事で、彼はまた視力を取り戻した。
ところがギャラクターの隊員達は違った。
周りが見えずに、勝手に同士討ちを始めたりしている。
ジョーにとっては願ってもない展開で、その間に敵兵を翻弄しながら、ウランを採掘する為の重機に踵から取り出した爆弾を取り付けた。
爆弾が発する光で、既にジョーに倒された者と、同士討ちで倒れた者が結構な数に上る事が解った。
「馬鹿だな。同士討ちすると解っていても、おめぇらはやらなければならねぇのか…」
ジョーは少しだけ憐みの言葉を述べてから、物資を運ぶトラックのタイヤにエアガンを撃ち込んだ。
これでトラックは動けまい。
取り敢えず敵の動きは封じた。
「ジョー!」
そこへ竜ははあはあと荒い呼吸(いき)をしながら現われた。
「まだ雑魚がいるぞ。気をつけろ」
「解った!」
竜は力技で闘って行く。
全身を使って闘うのはジョーと同じだが、竜の場合、自分の体重を武器としている感じだ。
ジョーはその闘い振りを眺めながら、自分も戦闘を再開した。
敵兵は作業を続けられなくなった腹いせに、ジョーをマシンガンで狙って来た。
マントでそれを防いでおいて、ジョーは敵兵の集団に向かって走り込んだ。
身を低くして、足払いをかます。
「うわぁ〜」
と倒れた処に、羽根手裏剣をお見舞いしておいて、ジョーは既に別の敵へと感心を移している。
跳躍して敵兵に重い膝蹴りでダメージを与える。
そして着地すると、別の隊員の鳩尾にパンチを喰い込ませている。
新しい敵を見切る能力に優れているので、ジョーは科学忍者隊の切り込み隊長的な役割を果たしていた。
健は闘いの渦の中心にいて、自分自身も闘いながら全員の闘い振りを見渡せる場所を選んで配置に着くのである。
ジョーはある一定の時間に倒せる敵の数が圧倒的に多かった。
敵と対している間に、次のターゲットを決めている。
これが彼が切り込み隊長としての役割を果たしている理由である。
健はジョーの戦闘能力を自分と同等の能力を持つ者として信頼していたし、評価もしていた。
ジョーにとってこんな闘い振りは日常茶飯事である。
違うのはいつもより暗い事だ。
敵によって投光器が消された為だが、ジョーにはそんな物は必要なかった。
必要とあれば、また照明弾を発射するのみだ。
もう1発在庫を残している。
しかし、それは必要としないだろう。
竜の為に必要かもしれないが、今の処は様子を見ている限り大丈夫そうだ。
必要なら竜の方から言って来るに違いない。
その時、竜が言った。
「ジョー、ちょっとどうしても見たい物があるんじゃ。
 上空に向かって照明弾を発射してくれ」
珍しい事もあるものだ、とジョーは思ったが、「解った」と短く答えて、上空に向かって照明弾を発射した。
そこに浮き彫りになった物は、先程投光器が点っていた時にはなかった檻のような物だった。
日中、ジュン、甚平、竜が入れられた檻と同じ物だろう。
「奴ら、どうしても俺達を生け捕りにしたいらしいな…」
ジョーが不敵に笑った。
「それが奴らの本当の狙いじゃて」
竜が言った。
「もしかしたら健達も危ねぇかもしれねぇ…」
ジョーは健にブレスレットで連絡を取った。
しかし、空電しか入って来なかった。
「どうやらやられたらしいな…」
ジョーが呟いた。
「俺達も捕らえられて様子を見るって手もあるが、どうだ、竜?」
「捕らえられるのは、どうにも嫌だけんども、仕方がないのう。
 5人揃うには罠に掛かって、敵の懐に飛び込むのが一番かもしれんからな」
「おめぇが珍しい事を言うから、雨が降って来たぜ」
ジョーは笑った。
本当にしとしとと雨が降って来た。
「飛んで火にいる夏の虫になってやるか?」
ジョーの言葉に、竜は黙って頷いた。




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