『カモフラージュ(5)』

ジョーは飛び出して敵兵と闘い始めた。
明らかに地面の色が違う場所に気付いて、竜に目配せをする。
敢えて2人はその場所に足を踏み入れた。
その時、凄い勢いで足元が崩れ落ち、魚獲れ網に引っ掛かった。
そのまま2人は絡め取られて、空(くう)に吊られた檻へと押し込まれた。
こうして、科学忍者隊は全員が捕虜となった。
ジョーはエアガンのバーナーで魚獲り網を切り離した。
しかし、檻からの脱出は不可能だった。
「何かバリアーが仕掛けられているんだったな…」
「どうするよ、ジョー」
竜は途方に暮れている。
この純朴な男は、ゴッドフェニックスに待機させておいた方が良かったのかも知れない。
いざとなったら助けになった筈だ。
だが、それは戦略のミスだ。
今更言っても仕方のない事だった。
「これからどこかに運ばれる筈だ。健達と合流出来れば好都合じゃねぇか」
ジョーは不敵に笑った。
「へへへ、鳥が魚獲り網に引っ掛かるとは見ものだな」
敵の兵士が嘲笑っている。
竜は悔しげに罵っていたが、ジョーは「ほっとけ」と意に介さなかった。
元々が意図的にわざと引っ掛かった罠だったからである。
檻はレールのような物にぶら下げられて、基地の中へと運ばれて行った。
恐らくは健達もそうだったのだろう。
ジョーは健達と出くわす事を祈った。
別室に連れて行かれたら面倒だ。
すぐに隙を見て敵を倒し、健達を探すしかない。
レールにぶら下げられた檻は、まるでメリーゴーランドのように揺れた。
「おら、何だか気持ち悪くなって来たわ…」
竜は暢気な事を言っている。
「こんな時にそんな事を言っている場合かよ!?
 てめぇの三半規管はどうなってやがる?
 ちゃんと鍛えてねぇんじゃねぇのか?
 良くそれで竜巻ファイターが出来るな!?」
ジョーはその言葉で閃いた。
「健達と同じ部屋に入れられたら、この檻を回転させて竜巻を起こしてやる。
 上手く脱出出来ると思うぜ」
「ええっ?」
竜は驚愕の声を挙げたが、代替意見が出なかった。
「それで行くしかないかいのう?」
語尾が小さくなったが、一応承諾の意味だ。
眼の前に大きな扉が見えて来た。
「さて、健達はいるか?」
ジョーは焦れたように呟いた。
部屋の中に檻ごと連れ込まれると、壁に鎖で磔になっている3人が見えた。
「やっぱりな…」
とジョーは呟いた。
「竜、覚悟をしろよ」
「解っとる!」
2人は檻を高速で回転させて竜巻を起こした。
檻をぶら下げていたワイヤーはいとも簡単に切れ、2人は床に落ちそうになったが、ジョーは辛うじて綺麗に着地した。
竜は尻餅を着いていたが、怪我はないようだった。
「竜、怪我がなければ健達の救出へ急ぐぜ」
しかし、そう簡単に行く筈がなかった。
健達は囮だ。
ジョーと竜の前にはブラックバード隊が現われた。
竜はブラックバードと対峙した事があっただろうか?とジョーは思った。
せめて健だけでも…。
味方に着けておきたい。
「竜、エアガンで健の戒めを外してやれ!すぐにだ!」
「他の2人は?」
「取り込み中だ。今は健だけでいい」
「解った!」
ジョーは既にブラックバードの1人と対等の闘いを始めていた。
強い。 ジョーの素早さを持ってしても、同じスピードで着いて来る。
肉を斬らせて骨を断つ、と言った状況に来ているかもしれない。
最近のブラックバードは手の甲と膝に回転する刃(やいば)をつけている。
これが厄介だった。
ジョーはエアガンで片脚の刃を壊した。
しかし、敵は俊敏だ。
いつ切られてもおかしくはない。
「竜、早くしやがれ!」
ジョーは孤軍奮闘していた。
ブラックバードに囲まれてしまっている。
見るからに10人はいた。
万事休すか。
ジョーは一旦諦め掛けた。
諦めないジョーが……。
しかし、まだ打開出来る何かがある筈だ、と希望は捨てていない。
長い脚で敵の足を払い、床に横っ飛びになりながら、壊した反対側の刃も羽根手裏剣で停めた。
羽根手裏剣の切先を回転する刃の動きを封じる為に使ったのだ。
まだ敵は10人のままだ。
1人の両膝の回転刃を壊したに過ぎない。
ジョーは敵の手の甲にある刃を気にしながら闘わなければならなかった。
こいつらのパンチを受けたら、致命傷になりかねねぇ…。
ジョーにはさすがに焦りがあった。
「ジョー!」
その時、健の声がした。
竜が助け出したのだろう。
「済まない。不覚を取ってしまった…」
「そんな詫びは後でいいっ!」
ジョーは嬉しさをそんな言葉で隠して、勢いづいた。
羽根手裏剣を数本飛ばした。
彼が両足を故障させた男の両手に羽根手裏剣が刺さった。
ジョーは今がチャンス、とばかりにその男に鳩尾に膝蹴りを入れ、エアガンの銃把で後頭部を殴りつけた。
これで当分は起きて来れまい。
まず1人は片付けた。
健はブーメランで敵と闘っている。
「おい、竜はどうした!?」
ジョーは訊いた。
「戻って来るように言ったんだが…」
「俺の指示でジュンと甚平を救っている」
「あいつでも戦力になると思ったんだがな」
ジョーは不貞腐れたような声を出した。
「いや、ブラックバードに対応した事がない。
 此処は竜には悪いが足手纏いだと判断した」
健は小声でジョーに囁いた。
ジョーは頷いた。
リーダーとして冷静な判断をしているのは健の方だ。
「そうか。俺の判断ミスだったな…」
「俺を先に救い出すように指示したのは、確実な判断だったさ」
健は慰めるようにそう言って、「バードラン」と叫んだ。
ジョーも闘いに戻った。
まずは敵の回転刃を破壊する事が第一だった。
「烏みてぇな姿をしやがって!
 変な武器を付けて、それで俺達を倒せると思ったら大間違いさ!」
ジョーは啖呵を切って、気合を発しながらブラックバード隊の連中へと突撃した。
死を覚悟した特攻隊のような勢いだ。
ジョーは敵の中に入る事によって、同士討ちを恐れる気持ちを利用したのだ。
間合いに入られたブラックバードは戸惑った。
ジョーは膝の刃に向け、羽根手裏剣を噛ます要領で放った。
3人の敵の膝の回転刃が停まった。
そこへジョーは空いている胴へ向け、重い回し蹴りを繰り返した。
3人連続でジョーに急所をやられて倒れ込んだ。
3回回転するだけで、3人を倒したジョーは、これで4人を片付けた事になる。
その間に健も2人を倒しており、残るは4人となった。
「ジョー、張り切っているじゃないか」
健が明るい声を掛けた。
「いろいろな方法でカモフラージュしながら、実益を得て、俺達の生命も亡き者にしようとしていたなど、虫が良過ぎるぜ」
ジョーはそれを赦す男じゃなかった。
健は改めてその事を思い遣った。




inserted by FC2 system