『フォーミュラカー型メカ』

科学忍者隊は南部博士の緊急召集によって早朝基地へと集められた。
「博士、こんな早くに何かいのう?」
欠伸をしながら竜が問う。
甚平は何度も船を漕ぎ掛けてはジュンに窘められている。
「諸君。科学忍者隊に早朝も夜中も無い事は解っているだろう」
南部の低い冷静な声が聞こえて来た。
「これを見たまえ」
博士がスクリーンに示したのは、建物の大きさからしてもかなり大きく、一見フォーミュラカーの化け物に見えた。
「2時間前、F−1レースが開催される事で有名なモノコ王国にこの鉄獣メカが現われ、街を攻撃した。
 国連軍の諜報部員の報告によると、恐らく狙いはこの国にあるマントル計画の基地だと言う」
「くそぅ!博士、こいつの大きさはどの程度なんですか?」
ジョーが腕組みを解いて訊いた。
「うむ。建物の大きさから推定して、20mはあるだろう」
「相当な破壊力を持つタイヤを履いていますね」
「現在、この鉄獣は形(なり)を潜めているが、近くに潜伏している事は間違いあるまい。
 諸君にはこの鉄獣の潜伏先を探し出し、次の攻撃が始まる前に叩いて貰いたいのだ。
 ジョー。鉄獣を君の眼で見て、弱点を探してくれたまえ」
「ラジャー!」
「ギャザー、ゴッドフェニックス発進せよ!」
こうして5人は早速出動した。

ゴッドフェニックスの中でジョーはレーダー席をジュンに任せ、写真の分析を図る。
「どうだ?ジョー…」
「連続写真だけでは何とも言えねぇ。せめてビデオでもあればよぉ」
ジョーは一連の写真から眼を逸らさないまま答えた。
「ん?」
1枚の写真を手に取る。
「こいつは…?」
眼の焦点が一箇所に集中した。
ジョーは写真を見て腕を組んだ。
引っ掛かるものがある。
「竜、この写真を1枚5秒ずつでスクリーンに連写してくれ!」
「ほいよ!」
前方スクリーンに一連の写真が5秒ずつ投影されて行った。
ジョーの眉間に皺が寄せられた。
「どうしたジョー?気になる事があるのか?」
健が訝しがる。
実際には訝しい思いと期待感とがない交ぜになった複雑な感情だった。
「今は何とも言えねぇ!」
「健、モノコまで後2000mよ!」
ジュンがレーダーを見つめたまま言った。
「健、俺が偵察に行く。ゴッドフェニックスで待機していてくれ」
「許さん!1人では危険だ!敵のサイズを考えたらG−2号は赤子同然だぞ!」
「いや、おめぇ達と陸上を行く方がもっと危険だぜ。
 俺の読みが当たっているかどうか確認次第必ず戻る。
 おめぇ達の助けが必要ならすぐに連絡する」
「解った。必ず連絡しろよ」
「竜。俺がG−2号から送る画像を捕捉しておいてくれ」
ジョーはそれだけ言うと、G−2号機が格納されている機首部分へと向かった。

「竜。海底にゴッドフェニックスを隠せ。ジョーからの電波は充分に受け取れる筈だ」
健の指示でゴッドフェニックスは海中に潜った。
ジョーはある事を疑っていた。
サーキット仲間の運転の癖が鉄獣メカの動きに酷似していたのだ。
(あのカーブの仕方、片輪走行、あの動きはあいつしか考えられねぇ…。なぜ奴が?)
ジョーが思い浮かべているのはセオと言う男だった。
3ヶ月程前から失踪していると人伝てに聞いていた。
ジョーは再び暴れ始めていた巨大なフォーミュラカー型メカ鉄獣に向けてアクセルを踏んで飛び込んで行った。
(サイズがでかい分、どこか動きに緩慢な部分がある筈だ)
ステアリングを切りながら敵のミサイルを交わして行く。
ゴッドフェニックスでは息詰る思いで健達がスクリーンに映るジョーの『目線』での鉄獣メカを見ていた。
「すっげぇや!ジョーの兄貴、いつもこんなスピードの中で走りまくってたんだ!
 すっごいスピード感だぜ…。映画でも観てるみたいだよ」
「甚平。関心している場合ではないわ。早くメカ鉄獣の弱点を探り出さなければ…」
ジュンが注意する。
全員が眼を皿のようにして画面に喰い入る勢いでそれを見ていた。
また南部博士が待機している基地にもその映像は中継されていた。
『こいつ、どうやら何台もの車が合体して1台の特大フォーミュラカーになるように出来てるらしいぜ!
 つまりこいつらを分裂させると厄介な事になるって訳だ』
ジョーからの一報が入る。
緊迫感溢れる声だ。
彼はまだカーチェイスの最中(さなか)にある。
素早い動きでG−2号機は敵の攻撃を交わし、敵の下部に入り込む事に成功した。
『下だ!下の防御が薄いぜ!俺が中に入り込む。どうしても確認してぇ事があるんだ』
「ジョー!押し潰されるぞ!応援が行くまで待て!」
『チャンスは1度切りしかねぇ。奴がこっちに攻撃を仕掛けて来るその瞬間しかな』
ジョーはフォーミュラカー型メカ鉄獣の上を飛び越えて、ステアリングを切った。
『こいつの動きは俺のサーキット仲間に似ている。3ヶ月前から消息を経っている奴だ。
 奴が本気でやっているのか、ギャラクターに操られているだけなのか、確認しておきたい』
「ジョー!」
『解ってる。私情だって事はな』
ジョーは時を計ってG−2号からひらりとジャンプして、敵がミサイル攻撃をする時に僅かに開く発射口から危険な潜入を始めた。
『ジョー!俺達も行く。それまで持ち堪(こた)えていてくれ!』
ジョーが乗り捨てた形のG−2号機はそのまま敵の下側を通り抜け、前方へと走り抜けて上手く停まるようにジョーが計算してあったようだ。
健が悲痛な声を絞り出し、「竜!ゴッドフェニックスを海面まで上昇させろ!」と命じた。

ジョーは心臓部であると思われる方向に向かって、風の如く走り抜けて行った。
案の定ギャラクターの雑魚兵達がマシンガンで襲って来る。
「雑魚は黙ってろ!」
1度に何十本もの羽根手裏剣を放ち、正確に敵の喉笛を破って行く。
彼が通り抜けた後には雑魚兵達が折り重なって行く。
「き…貴様…ベルク・カッツェ!」
ジョーは心臓部に辿り着いた時、呻くように言った。
「ははははは、見事な腕前だな、コンドルのジョー君」
紫の君がジョーがうんざりする程に嫌いな甲高い声でせせら笑った。
そしてその横に居るのは、ジョーの見立て通りの男だった。
「セオ!やはりお前だったのか?!」
ジョーにセオと呼ばれた男は目線が定かではない。
「カッツェ!さてはこの男を洗脳したな?」
「それ位の事はギャラクターには朝飯前の事だ。
 優秀なレーサーが欲しくてな。本当に狙っていたのはジョーとか言う切れ者なんだがね。
 なかなか尻尾を掴ませない」
カッツェは狡猾そうにジョーを上から下まで舐めるように眺め回した。
「そう言えばその男、お前と眼つきや身体付きが似ているようだな」
「カッツェ様大変です。科学忍者隊が3人、侵入しました!」
「何だと!ええいっ!早く片付けてしまえ!」
「ははっ!」
カッツェが部下とやり取りをしている間に、ジョーはセオに駆け寄った。
「この野郎!しっかりしやがれっ!!」
荒々しくその頬を左右に何度も引っぱたく。
その痛みに我を取り戻したセオは、「お…俺は何をしていたんだ?一体あんたは…?」
「科学忍者隊だ!今助けてやる。お前は誘拐されたのか?」
「そうだ。クロロホルムを嗅がされて知らぬ内に奴らに連れ去られていた。
 催眠に掛かっていたのだろうが、お前のドライビングテクニックを存分に発揮させる場を与えると言われて有頂天になっていたのは事実だ…」
「解った!俺に付いて来い!」
ジョーは自らの正体を晒す訳には行かなかったので、黙って進路を示した。
「ジョー!」
その時、健、ジュン、甚平が飛び込んで来た。
「俺達が各所に時限爆弾を仕掛けておいた。すぐに脱出するぞ!」
「解った!」
ジョーは脱出には足手纏いになるだろうセオを左肩に背負って、走り出した。
(ジョー…?)
セオは聞き覚えのある声と、その彼が呼ばれた名前が気に掛かっていたが、それを口に出す訳には行かない、と悟っていた。
ギャラクターの狙いは、最初はジョーだったのだと言う事は先程のカッツェの言葉で解った。
つまりは自分は『スペア』だったと言う訳だ。
その自分が何とも悔しく、騙された事が悔やんでも悔やみ切れない。
スペアとして誘拐され、更には催眠を掛けられてしまったとは、我ながら情けない、とセオは自分自身を嗤っていた。
自分は一体何人の人間を死に追いやってしまったのか……?
ギャラクターは彼らの秘密を知っているセオを中心に集中砲火を浴びせて来た。
自然そのセオを抱え込んでいるジョーが危険に晒されていた。
ジョーはセオを守りながらも、エアガンや羽根手裏剣で危険を回避しながら退却を進めていた。
「ジョーを援護しろっ!」
健の指示も飛んだ。
しかし、ジョーの左肩口が銃弾で撃ち抜かれてしまった。
セオを狙った弾丸(たま)が、ずれたのだろう。
「ぐ…ぅ!」
一瞬だが、ジョーの動きが止まった。
「俺の事は構うな!お前達だけで脱出しろ」
セオがジョーの背中で言った。
「何言ってやがる!そうは行かねぇ…」
ジョーは何事も無かったように再び走り出した。
エアガンは腰にしまい、いつの間にか抜いた羽根手裏剣を唇に咥え直した。
「ジョー、もう少しよ!」
ジュンの声がした。
「おうよ!」
ジョーは走った。
後ろから押し寄せる雑魚隊員にジョーの羽根手裏剣と健のブーメラン、ジュンのヨーヨー爆弾、甚平のアメリカンクラッカーが同時に雨あられと襲い掛かった。
脱出口にはゴッドフェニックスが待っていた。
全員無事にドームに飛び移った事を確認すると、竜は急いでドームを閉めて、その場を高速飛行で離れた。
「ジョー、大丈夫?手当てをするわ」
ジュンが心配そうに覗き込む。
「有難てぇが、バードスタイルだったお陰で大した事はねぇぜ」
ジョーの元気そうな声に全員がホッと一息ついていた。




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