『カモフラージュ(6)』

烏みたいなブラックバードは残り4人いる。
2人はまずそれを倒さなければならない。
健は竜に言い含めている。
ジュン達を助けたら、自分達に構わずにまずは採掘場から持ち出されたウランを何処に運んだのか、気を失っている隊員から訊き出し、国連軍に連絡する事。
そして、機関室を爆破する任務を言いつけた。
健は聡明な男だ。
一瞬の間にそれだけの指示を行なっている。
ジョーは感心せざるを得なかった。
これだからリーダーとして立てる意味があると言うものだ。
ジョーは自分の位置づけをサブリーダーで充分だと思っていたし、リーダーの仕事をし易いようにさせるのが自分の役目だと思っていた。
最初の頃は健に全て任せっきりだったジョーも、健が父親を失った荒れていた時期から、サブリーダーとして成長して行ったのである。
この際は出来るだけブラックバードを早く倒し、司令室を破壊する事が第一の使命だった。
だが、死火山『コサンタイシ山』を噴火させるような事があってはならない。
それについては充分な注意が必要だった。
爆弾の量など計算して調節しなければならない。
それは今、南部博士が基地で計算している筈だ。
残り4人の烏を倒すのには、努力が必要だった。
ブラックバード隊はなかなかの精鋭部隊である。
健もジョーもこの連中を倒す為には全力以上の力を発揮する必要があった。
「ジョー、竜巻ファイターだ」
「おう」
ジョーの高い肩に健が身軽に飛び乗った。
2人で竜巻ファイターをしようと言うのである。
「科学忍法竜巻ファイター!」
甚平がいないので、健が叫んだ。
2人は充分に反動を付けて回転し、大きな竜巻を作り出した。
背が高い2人だから、2人でも強力な竜巻が作り出せた。
ブラックバードは溜まらず飛ばされて行った。
2人はフォーメーションを解いて、着地した。
「ジョー、大丈夫か?」
下のジョーにはかなりの負担が掛かった筈だ。
「でぇ丈夫さ」
ジョーは少し肩で呼吸(いき)をしていたが、すぐにそれは収まった。
ブラックバード隊は起き上がって来たが、どこかよろよろとしていた。
「一気に片付けるぜ、ジョー」
「解っているさ」
2人はブラックバード隊に飛び掛かった。
それぞれの武器が舞う。
ブラックバード隊が全滅するのには、もうそれ程時間を要さなかった。
「ジュン、そっちはどうなっている?」
『今、ウランの運び先を訊き出したわ。
 でも、敵の基地みたいだから、私達も行かなければならないわね』
「解った。こっちは俺とジョーで片付けよう。
 先にその基地へ向かってくれ。
 国連軍の要請は?」
『勿論したわ。でも、闘いには巻き込めないわね』
「解っている。奪われたウランを取り戻すのに必要なだけだ。
 俺達もこっちを片付けたらすぐに行く。
 気をつけてくれ」
『ラジャー』
ブレスレットからジュン、甚平、竜の声がした。
そこに南部博士から爆弾の量の計算が出たと連絡が入った。
『かなり微調整が必要だから、本当はジュンに残っていて貰うと有難かったんだが…』
「まだ近くにいます。呼び戻しましょうか?」
健が訊いた。
『そうだな。そうしてくれるか?』
「解りました。ジョー、代わりに行ってくれるか?」
「解ったよ!」
ジョーはマントを翻して走り始めた。
健はジュンに連絡を取った。
もうブラックバード隊を全滅させているので、ジョーがいなくても大丈夫だろう。
健はそう判断したのだ。

ジョーは甚平と竜と合流した。
「ウランを運んでいるのはどこだって!?」
「テフテフ川の上流だってさ。
 そこはこのY国のバゲダガ村の近くの国境を越えて、イミダス川と合流した辺りらしいよ。  距離にして50kmはあるんだって」
甚平が答えた。
「長い川だな」
「今日は転戦が続くのう」
「仕方があるまい。ゴッドフェニックスで行くぜ」
ジョーはサブリーダーとして命令した。
健に状況を説明して、ゴッドフェニックスは3人で飛び立った。
健とジュンのGメカを残していないから、2人が追って来る事は出来まい。
しかし、超バードミサイルが使えるなどの利点もある。
それに、爆弾の量を微調整しながらの基地爆破作業には手間取る筈だ。
こちらが片付いている頃に、向こうも片付くかどうか、と言った処だった。
ゴッドフェニックスで川を下に見ながら、進んで行くと、やがて大きな研究所のような建物が見えて来た。
「あれが基地か?工場を併設した研究所のように見せてカモフラージュしているんだな」
ジョーが呟いた。
「今回はカモフラージュが多いね」
「甚平。まだ俺達の生命を狙っている可能性は高い。
 竜もそうだが、決して油断はするなよ」
「うん」
「解っとる」
2人が同時に答えた。
健とジュンが抜けているのだ。
ジョーには責任感がひしひしと押し寄せた。
この2人を死なせるような事があってはならない。
ジョーはその為には自分の身を投げ出す事すら厭わないだろう。
基地から銃撃が始まった。
「竜、近くの山脈地帯に着陸だ」
ジョーが指示を出した。
人々の生活を脅(おびや)かし、そのついでに科学忍者隊の生命も奪おうとした今回の策略。
間違いなく、ベルク・カッツェ、若しくは総裁Xの考えに違いない。
様々な場所にカモフラージュが用意されていた。
「全く頭がこんがらがるよね」
甚平などはそんな風に嘆いている程だ。
「いいか、おめぇ達は眼の前にある事実だけを見ていればいい。
 それ以外の事は忘れろ。
 今、必要な事だけを考えればいい」
ジョーは考えるのは健や自分だけでいいと言ったのだ。
全体的な敵の戦略を感知して指揮をするのは、リーダーの健だ。
今はその健がいないから、自分が指揮を執っているだけの事。
ジョーは自分の分をちゃんと知っている。
健が駆けつけて来るのであれば、健の言う事に従うまでだ。
勿論、彼が言う事に納得が出来なければ口を挟む事はあるが、大抵は健の言っている事に間違いはない。
着陸したゴッドフェニックスからは、ジョーと甚平だけが降りた。
2人しかいないのは痛いが、今回は国連軍と協力して奪われたウランを奪回しなければならない。
竜はゴッドフェニックスに残らせて、連絡を取らせたり、場合によってはゴッドフェニックスにもウランを積み込まなければならないケースも有り得る。
ジョーはそう判断して、竜を残した。
ある程度基地を掻き回して、ウランを回収する事が出来たら、ゴッドフェニックスに戻ってバードミサイルで基地を爆破してやればいい。
ジョーはそう考えていた。
もしこの基地にメカ鉄獣がいたなら、その時はその時だ。
ジョーは一瞬の内にそれだけの判断をした。
そして、これが健であっても、同様の判断をしたに違いないと言う確信が何故か彼にはあった。
「甚平。覚悟をして掛かれよ。場合によっては分かれて闘う事になるかもしれねぇ」
「解ってるよ、ジョーの兄貴。意外と心配性だね。
 おいらだって結構やるんだぜ」
「そんな事は知っているさ」
ジョーは甚平の頭を撫でると、「行くぞっ!」と声を掛けて走り始めた。




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