『走行実験(前編)』

「え?ロジャースと一緒にテストドライバーの仕事を?」
ジョーは呼び出された司令室の中で顔を上げた。
眉間に深い皺を寄せている。
「ロジャースの『代わりに』ではなく、『一緒に』ですか?」
ジョーは当然の疑問を南部博士にぶつけた。
「G−2号機の改良テストだ。ロジャースには攻撃方をやって貰う」
「闘わせようって言うんですか?」
「G−2号機はガトリング砲の搭載で、本体の前方が2つに分かれる。
 そこは敵に取っても恰好の攻撃目標になる」
「それは解っていますが…。
 コンドルマシーンに圧倒されて何も出来ないのが今までのギャラクターでしたが…」
「G−2号機全体を超硬プラスチックで覆ってみた」
「変身に使われる流動プラスチックには影響がないんですか?」
言ってから愚問だとジョーは思った。
博士がそんなへまをする筈がない。
しかし、博士は怒らなかった。
「ジョー、私の不慮で君に怪我をして欲しくはないのでね」
博士は穏やかにそう言った。
まさかこの事が後の事件に繋がるとはこの時、誰も思ってはいなかった。
ギャラクターはGメカの開発に興味を持っている。
G−2号機の強化が始まった事は、ISO内のスパイから既に情報を得ていた。
南部博士は勿論の事、ジョーもロジャースもその事を知らずに、ISOの特別操車場へと入った。
そこはサーキットのようになっている。
ロジャースには慣れた処だが、ジョーにはそうではなかった。
ジョーはバードスタイルになっていた。
「G−2号、まずは1〜2周馴らして来なさい」
「解りました」
その間に博士は攻撃用の車について、ロジャースに説明をしていた。
「本当にいいんですか?そんな事をして?!」
健の眼をきつくしたような金髪のロジャースは驚いた表情をした。
もう真っ赤なレーシングカーに乗らなくなって、随分と経つ。
博士のテストドライバーとして、彼は天職を得たように思っていた。
スタントドライバーとしてやって来た腕も役に立つ。
ロジャースは博士に言われて車の整備を始めた。
博士はいつも座る屋根付きの監視席へと移動した。
そこには既に数人のISO職員がいる。
全てのデータがそこに収まるようになっていた。
ロジャースが後方に違和感を感じたのはそんな時だった。
一瞬の事だった。
彼は棍棒で頭を打ち付けられ、血を流して倒れた。
それを通路まで引き摺って行った男が、ロジャースその物の姿になって出て来るまでに、それ程時間は要さなかった。
彼の任務はG−2号機を奪う事にある。
もしそれが出来なければ破壊しても良い事になっていた。
そして、あわよくばG−2号も殺してしまえ、と言うのがベルク・カッツェの命令だ。
ゴッドフェニックスは1台でもGメカが欠けると機能出来ないと言う欠点がある。
当然その事が狙いだ。
攻撃車には火炎放射器や、レーザービーム砲、バルカン砲などが装備されていた。
盗聴器を仕掛けておいたので、先程の南部博士とロジャースの会話は筒抜けだった。
ロジャースが入れ替わった事など知りもしない博士は、「そろそろ実験を始めよう」と言った。
ジョーはコースを2周して戻って来た。
サーキットとして使っても悪くない。
なかなか快適なコースだった。
だが、これからする事はG−2号機の改良性能テストだ。
ロジャースと握手を交わした。
その時にジョーは違和感に気付いた。
これはロジャースじゃない。
ロジャースの手はこんなに柔らかくはなかった。
ゴツゴツと骨ばった手をしている。
ジョーは相手の眼を見た。
するとロジャースは眼を逸らした。
(間違いねぇ。こいつは偽者だ。博士に言ってテスト走行を中止するか、それとも…?)
ジョーは逡巡した。
とにかく博士に事情だけは告げる事にした。
「ちょっと博士と打ち合わせに」
ロジャースの偽者にそう断り、ジョーは監視席にいる博士の元に歩み寄って、そっと耳打ちした。
「何だと?ロジャースが偽者だと?」
「どうやらどこかの段階で入れ替わったようです。
 ロジャースに大事がないといいのですが…。
 実験はこのまま続けましょう。
 敵の狙いが何か、知りたい」
ジョーは力強い瞳で博士を見つめた。
「危険な事が起こるかもしれんぞ」
「その時は博士達は此処から逃げて下さい。
 巻き込まれる可能性があります」
「ジョー、何を言っている!?」
「職員に言って、構内を隈なく探して下さい。
 ロジャースの身に何か起こっているかもしれません。
 傷を負っていなければ良いのですが……」
「解った。それは手配しておく」
「では、疑われる可能性がありますので、俺はこれで戻ります。
 頃合いを見て、実験開始の合図を送って下さい」
ジョーが平然としている事に、博士は舌を巻いた。
こう言う男だと長い付き合いで知ってはいるが、何事も恐れる事をしない。
自分の勘に自信を持ち、何が起こっても対処出来ると言う咄嗟の反射神経と自分の頭の回転を信じているのだと言う事は解っていた。
その自信が大怪我に繋がらなければいいが、と言うのが、いつもの博士の心配事の1つである。
ジョーが科学忍者隊として健と並び立つ優秀なメンバーである事は解っていたが、それでも、健と比べれば冷静さに欠けるのでは、と言う考えが博士にはある。
ジョーには復讐心しかない。
その事が自分の生命を縮めているのではないか、と博士は心配しているのだ。
ジョーはG−2号機に戻って、コックピットに乗り込んだ。
ロジャースに化けた、恐らくはギャラクターの一員であると思われる人物も、攻撃用の車に乗り込んだ。
博士は無線機でジョーに告げた。
「わざわざ罠に掛かってやるようなものだぞ」
『解っています。此処で止めるより、敵の正体を突き止めた方がいいでしょう』
その時、博士に職員が耳打ちをした。
「ロジャースが頭から血を流して通路に倒れていたそうだ。
 別の場所で殴られて引き摺られた跡であると言う事だ。
 既に救急車は手配してある」
『やっぱり…。解りました、博士。
 そろそろ号令を掛けて下さい。
 怪しまれます』
ジョーはそれで通信を切って来た。
彼の意志の強さを感じさせる。
南部博士は溜息を吐いてから、実験の開始を告げた。
まずはジョーが周回し始めた。
それを追う形で、攻撃用の車が着いて行く。
大型車だ。
G−2号機よりも大きい、黒塗りの車だった。
テスト車なので、外装に凝る必要はなかった。
早速敵がレーザービーム砲で攻撃を仕掛けようとしているのが解った。
ジョーは急旋回して向かい合わせになり、ガトリング砲の準備をした。
『超硬プラスチック』がどこまで効果があるのか解らない。
ジョーは受けて立つ事にした。
まずはわざと当たってやろう。
コンドルマシンの発射口を開いた状態で。
「さあ、来い。ロジャースの偽者め!」
ジョーはコックピットで叫んでいた。
ロジャースの傷の具合が気になっていた。
頭は出血の多い場所だ。
傷は小さくても意外に多く出血が起こる。
「頭蓋骨が陥没したり、脳挫傷でも起こしていなければ大丈夫だと思うが…」
ジョーは思わず呟いた。
今は敵に集中する事だった。
実験の一環として、敢えて敵のレーザービーム砲を受けた。
ジョーなら避けられる処だったが、それでは実験にならない。
「博士、敢えてレーザービーム砲を受けてみます。
 実験は通常通りに進めて下さい」
ジョーはそう通信すると来たるべき衝撃に備えた。




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