『走行実験(後編)』

ジョーはコンドルマシンを発動した。
こちらからは攻撃を仕掛けない事になっている。
相手の出方によっては攻撃せざるを得ないだろうが、一応は『走行テスト』だ。
ジョーは、『超硬プラスチック』の有用性を確かめる為にも、テストはテストとして行なうつもりでいた。
ロジャースを装った敵は間違いなく、ギャラクターだろう。
でなければ、南部博士の研究を盗みたい誰かだ。
博士は温厚な紳士だが、敵対している研究者も多いと言う。
それは相手が勝手に南部博士の天才肌とも言うべきその才能を憎み、妬んでいるからだ。
ジョーはその事を良く知っていた。
博士の運転手兼護衛を務める時、襲って来るのがギャラクターだけではない事を、彼は解っていたからだ。
ジョーはガトリング砲を露出したまま走った。
ハンドルは取られやすくなるが、彼の腕はその程度の事で運転が甘くなるようなものではなかった。
敵が攻撃して来る気配がした。
最初は予想通り、レーザービーム砲だった。
ジョーは突っ込むかのようにロジャースが乗る筈だった車の方向へと走った。
レーザービーム砲が、剥き出しになったガトリング砲の部分を襲って来た。
全身に痺れが来た。
しかし、G−2号機はびくともしていなかった。
「機器に異常はなし。ガトリング砲はこのままの状態で発射出来るものと思われます」
ジョーはブレスレットで南部博士に告げた。
『よし、方向転換してビーム砲を受けたまま標的にガトリング砲を発射してみてくれたまえ』
博士の声がして、いきなり黒と白の輪からなる標的がコースの外に現われた。
ジョーは言われた通りに急転回して、ガトリング砲を発射した。
手応えがあった。
標的は見事に穴だらけになった。
銃とは違うが、それでも、標的の中心付近に弾の跡が集中していた。
『ジョー、まずは成功だ。それよりロジャースの偽者をどうする気だ?』
博士はやはり気を揉んでいた。
「相手の出方を待っています。狙いが何なのか?
 敵がギャラクターなのか、それとも博士に私怨を持つ者なのか、まだ計り知れません。
 それに目的も…。
 極端な話、G−2号機を奪うつもりで居る可能性だってあります」
ジョーのこの言葉は、実は的を射ていたのだが、この時はジョー自身も可能性として言っただけだったし、博士もその事に信憑性があるとは考えなかった。
「ギャラクターならその可能性が否定出来ません。
 後者なら、博士の『超硬プラスチック』の技術を盗もうとしているのかもしれません」
『………………………………………』
「どちらにせよ、敵の狙いを見定める事です。
 少し俺に時間を下さい」
ジョーは落ち着いていた。
南部博士は熟慮の上、ジョーに全てを任せる事に決めた。
『健達を呼ぶかね?』
「いいえ、必要ないと思います。
 敵がギャラクターだった場合、少しばかり施設の損傷が出るかもしれませんが……」
『君に怪我がなければそれでいい』
「それと人的被害もこれ以上出したくありません。
 ロジャースの容態が解ったら知らせて下さい」
『ああ、それなら心配は要らん。頭の傷だから、出血が多かっただけだ。
 数針縫うだけで済んだ。念の為に検査入院をさせるつもりだが』
「解りました。お、今度はバルカン砲で来るようですよ」
ジョーは決して屈する男ではない。
自らの身体にバルカン砲を受けた事がある彼だが、G−2号機が自分を守ってくれると信じていた。
そして、その機体には損傷を与えまい、と思っていた。
「行くぜ、G−2号!」
ジョーはステアリングを切って、タイヤを軋ませた。
キキキキキキっ!
と言う音の中で、G−2号機は意表を突く急速転回をした。
ロジャースの偽者もそこそこの運転能力を有しているようだったが、これには着いて来れなかった。
ロジャースだったら、簡単に追って来た事だろう、とジョーは思った。
ジョーは転回しておいて、ピタリとG−2号機を停めた。
先程のようにガトリング砲を開いたままだった。
敵はその一瞬を逃さずに、バルカン砲攻撃を仕掛けて来た。
だが、実はこれはジョーが誘いを掛けたものだったのだ。
火炎放射器のテストも同様にして行なった。
レーザービーム砲とバルカン砲、そして火炎放射器に対応出来れば、もうテストは成功と言っていい。
ジョーは此処で初めて反撃に出た。
アクセルを踏んで車をスタートさせ、ジョーは敵のいる運転席の後部座席、それも反対側からガトリング砲を撃ち込んだ。
これは脅しだった。
悪意に気付いているぞ、と言う意志表示だったのだ。
敵はジョーが攻撃して来た事で、それに気づいた。
それからコース内でカーチェイスが始まった。
だが、敵の腕ではジョーには敵わない。
「俺は気が短けぇんだよ!もう容赦はしねぇぜ」
ジョーはニヤリと笑って、敵の車に横から擦り寄って幅寄せを喰らわせた。
運転席の男が必死になっているのが見えた。
確かにロジャースに似せてはいるが、そう言った時の表情が微妙に違っている、とジョーは思った。
ジョーはエアガンを取り出し、コックピットを開いた。
G−2号機の右側を走っている敵の車の運転席をしっかと狙い、敵の心臓にエアガンを命中させた。
後は事故を起こさないように、G−2号機で上手く停めてやれば良かった。
ロジャースの為に用意された黒塗りの車は、コース外の壁に、G−2号機で抑え付けられるような形で停まった。
敵は死んではいない。
エアガンは人を殺す道具ではなかった。
ジョーはG−2号機を一旦引いて、敵の車の左側を空けた。
それからヒラリとコックピットから舞い降りて、左ハンドルの車のドアの鍵をエアガンで撃ち抜いた。
南部博士らISOの職員も監視席から出て来た。
ジョーが敵を運転席から引き摺り出している処だった。
そして、ジョーはその仮面を剥がした。
「博士、知っている顔ですか?」
「いや…」
博士は周りの職員の顔を見回したが、知っていると言う者はいなかった。
「だとすれば、やっぱりギャラクターか?」
ジョーは敵の背中に喝を入れた。
意識を取り戻した敵は、一瞬何が起こったのか解らなかったようだが、ロジャースの振りを続けようとした。
「一体何をするんだ?」
その顔の前に、ジョーは先程剥がした仮面をぶら下げてやった。
「ロジャースは病院で手当を受けている。
 ギャラクターめ。G−2号機を破壊するか奪う計画だったのか?」
「バレちゃあしょうがないな…」
敵は案外素直に白状した。
「G−2号機がなければ、ゴッドフェニックスが力を発揮出来ねぇと踏んだのか?
 それは残念だったな。そんな事はねぇのさ」
ジョーが言った事はハッタリだった。
「カッツェにそう伝えておけ」
ジョーはそう言うと、その男を軽く投げ飛ばした。
敵は再び気を失った。
「博士、この男の身柄はどうします?」
「警察に引き渡してもいいんだが、恐らくはどこかの段階で脱出する事だろう」
「仮にもギャラクターですからね」
ジョーも頷いた。
「では、夜中に街中の目立つ電柱にでも縛り付けておきますか?」
ジョーは笑った。
そろそろ陽が落ちて来ている。
「それまで俺がG−2号機で預かります。
 それからロジャースの見舞いに行きたいんですが、もう行っても大丈夫ですかね?」
「問題はないと聴いている」
南部博士はそれを容認した。
「しかし、ジョーも無茶な事をするものだ……」
「でも、実験は成功だったのでは?」
「うむ。ジョーのお陰で、敵の野望を撃ち砕きながらも、テストにも成功する事が出来た」
南部博士が相好を崩した。
「ロジャースにケーキでも買って行きなさい」
博士は紙幣をジョーに握らせると、ISOの職員と共に引き上げて行った。
ジョーはその後、男を後手に縛り付けてG−2号機のナビゲートシートに座らせた。
どうせすぐには意識を回復出来まい。
彼が丁寧に車に乗せる前に鳩尾にパンチを入れておいたからだ。
ジョーはそのまま敵の男に毛布を掛け、ISO付属病院の駐車場へと向かった。
ロジャースは元気にベッドをギャッジアップして起きていた。
「ジョー、迷惑を掛けて悪かったな」
頭に包帯が巻かれているが、それ程重傷ではなかったようだ。
「何の事だ?」
ジョーは自分が科学忍者隊G−2号である事は飽くまでも隠しているつもりだった。
細かい事に気の付く彼は、看護師に事前に食事に制限があるかどうか訊いていた。
「博士に言われてケーキを買って来た。
 俺は苦手だから、おめぇ、喰え」
ジョーはぶっきら棒にそう言って、サイドテーブルの上にケーキの箱を置いた。
「全部は無理だよ」と言うロジャースを尻目に、ジョーは踵を返した。
「その内、健達も来るだろうから、一緒に喰えよ」
そのままジョーは病室を出た。
本当にぶっきら棒だが、そこがジョーらしい、とロジャースは思った。
「テスト成功おめでとう」
ロジャースは去り行くジョーの背中にそっと声を掛けた。




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