『バクテリア殺人兵器(3)』

ジョーが飛び込んだ中には、水が入らない仕様になっていた。
それはそうだ。ギャラクターの隊員までやられてしまう。
基地はダムから離れた地下に出来ていたのだ。
彼らはこれから汚染水を流す準備をしていたに違いない。
ジョーは特殊ガスマスクを外して、邪魔だが左腰に下げた。
それを待たずにマシンガンが咆哮する。
ジョーはジャンプして天井のパイプに脚を掛け、一旦それを避け、羽根手裏剣をピシュシュシュと音を立てて投げつけた。
敵がバタバタと倒れて行く。
その混乱の中、彼は飛び降りて、敵兵を長い脚で回し蹴りにして行く。
ジョーは南部博士に連絡を取った。
「K地区のダムにはギャラクターの基地があります。
 これから汚染水を流す作戦だったに違いありません」
『解った。健が行ったW地区のダムにも基地があったそうだ。
 他の3人の結果が解り次第、応援に回す』
「ラジャー」
ジョーが戦闘中である事は南部博士にも伝わった筈だ。
話をしている最中にも、彼の気合や格闘音が聴こえていた。
博士はその短い通信だけで終えた。
ジョーの、そして科学忍者隊の無事を祈った。
ジョーは「うおりゃあ〜!」と威勢の良い気合を掛けて、敵兵の鳩尾に膝蹴りを噛まし、返す刀でそのブーツの踵を利用して、別の隊員の首に横から奇襲攻撃を掛けた。
踵でその首を払い除けるかのように足蹴にした。
敵兵は溜まらず脳震盪を起こして床に倒れ込んだ。
ジョーのその痩躯のどこにそんな膂力が隠されているのか、と訝しくなる程、彼には力がある。
同じような体型の健よりも力がある事は、竜を支えた『イブクロン』戦の時にも窺い知る事が出来る。
ジョーはそのまま更にバレエダンサーのようにぐるりと回転し、長い脚を1周させた。
その間に何人もの敵が倒れて行く。
羽根手裏剣を同時に操り、正確に敵を仕留めている事も特筆に価する。
素晴らしい身体能力。
そうとしか表現のしようがない。
そのバネのような肉体は伸び伸びと闘う。
ジョーは休む事を知らない働き蜂(働き蜂は雌だが)のように、ひたすら動き続けた。
エアガンを腰から抜くと、その三日月型のキットのワイヤーを伸ばした。
タタタタタンっと気持ちがいいように、敵の顎を打ち砕いて行く。
彼の動きは演舞を見ているかのようにリズミカルだった。
動きに無駄がないと言う事がどれだけ大切な事か、彼を見ていると良く解る。
長いリーチを利用して、敵兵に錯覚を起こさせ、時間差でパンチを喰らわせて行く。
次の瞬間には別の敵を捉えて、足蹴にしている。
そして、羽根手裏剣が宙を舞う。
ジョーは1人で生き生きと闘った。
やがて、辺りにいた隊員達は全員伸(の)してしまった。
「さて、どっちに進むか…?」
ジョーは呟きながら、周囲を見回した。
最初に敵兵が現われた方角に眼をやり、彼はそちら側に進んだ。
こう言った勘にも彼は優れている。
機械音が聴こえて来た。
何かモーターのような物だ。
(これは危ねぇっ!)
彼は直感した。
もう準備は万端なのだ。
後は実行に移すだけになっている。
いや、既に作業は始められている!
ジョーは機械音がする部屋へ、ドアに体当たりして飛び込んだ。
そして、いきなりペンシル型爆弾を使って、部屋の四隅を爆破した。
これが効率の良いやり方だった。
そして、敵が爆発に巻き込まれている間に、ジョーはモーター音を止めるコックを探した。
こいつだ!
船の舵を取るような丸いハンドルが部屋の中心部にあった。
ジョーはそれを時計回りに締めた。
まだそれ程作業は進んでいなかったようで、幸いにして汚染水の流出は寸での処で喰い止める事が出来た。
だが、作業を再開しようと群がる輩がいる。
ジョーはそれを退治し、この基地をダムに影響がない程度に爆破しなければならなかった。
その程度が難しい。
ジュンが居たのなら、計算が立つのだが…。
ジョーはそれ程爆弾には詳しくなかった。
とにかく、今はこの敵兵を薙ぎ払わなければならない。
彼は敵兵の輪の中に突進した。
マシンガンなど恐れはしない。
マントで防いでは、ジョーは敵の中に入り込んだ。
同士討ちを誘い込むかのように仕向けながら、ジョーは敵兵の中で自由に闘った。
敵兵の中に入り込んだ時は、羽根手裏剣は効率の良い武器だった。
そして自らの鍛え上げられた肉体もまた、有利な武器になった。
ギャラクターの隊員達も鍛えられている筈だが、科学忍者隊には遠く及ばない。
身体能力に元々差があるのだ。
それに科学忍者隊には若さもある。
ジョーは敵兵がまた舵取りの輪を左へ回そうとしているのを見て、咄嗟にエアガンで撃った。
エアガンで撃っても敵は死にはしない。
ショックを受けて、暫く気を失うだけだ。
ジョーはその間に汚染物質を流し出すこの機械を爆破する事にした。
ペンシル型爆弾をその周囲を回り込みながら、羽根手裏剣を放つ要領で、タタタタタっと5本叩き込んだ。
ペンシル型爆弾は間を置かずして、爆発した。
ジョーはマントで身を守りながら床に伏せた。
特殊ガスマスクを慌てて付けた。
万が一汚染水が流れ出て来ないとは限らない。
案の定、少しだが汚染水が溢れ出て来て、それに触れた敵兵が骨になった。
ジョーはそのおぞましい様をじっと見ていた。
彼は、汚染物質の流出は一旦停めたが、これ以上基地を破壊するのは危険かもしれないと、現状を南部博士に報告をした。
『うむ。私が今開発をしている浄化装置を持ち込むまで、待って貰うしかあるまい。
 爆弾は使わず、エアガンで破壊出来る物はそうしてくれたまえ』
「ラジャー」
ジョーは装置に近づいた。
エアガンを周囲をぐるりと回って撃ち込んで行く。
装置は一部が崩れ落ちて壊れたが、爆発はしなかった。
しかし、汚染水はまた少し漏れ出た。
ジョーはそれをエアガンのバーナーで焼いて蒸発させた。
今の処、有効な方法はこれしかなさそうだ。
だが、蒸発させた後には、何か緑色の粉のような物が残った。
これは例の『藻』の正体かもしれない。
念の為、ジョーはそれを慎重に持っていた容器に採取した。
バードスタイルなら触れても大丈夫だと博士は言っていた。
「くそぅ。浄化装置が来るまで、手を拱いて見ていなければならねぇのか?」
ジョーは舌打ちをして呟いた。
だが、此処は敵基地。
油断はならない。
指揮官がいる筈だ。
必ずこの装置の近くに……。
ジョーはそいつを倒す事にした。
ベルク・カッツェはいなくても、それに代わる隊長が配備されている筈だった。
こっちから行ってやらなくても出て来るかもしれないが、それを待っている程ジョーは悠長な性格ではなかった。
「上手く装置を破壊してくれたではないか?
 汚染物質を殆ど流出させずに破壊するとは、見事なものだ」
ジョーが部屋を出て行こうとした時、床下からセリのような物に乗って上がって来た者がいた。
ヒトラーのような軍服姿に制帽、そして、鞭を持っていた。
片眼には黒い眼帯を着けている。
片眼が不自由なのか、それとも眼帯に何か武器が仕込まれているのかもしれない。
どちらにせよ、片眼が塞がれている奴で闘い慣れている者は、見えない方が異常に強い事がある事を、ジョーは知っていた。
これは用心して掛からねば…、と彼は自身に言い聞かせた。
こう言った敵は却って厄介なのだ。
相手が両眼が見えていると判断して闘うのが正解だとジョーは思った。
「汚染物質はまだこのダムの地下に大量に眠っている筈だ。
 此処を停めたからって、またダムの水に混ぜ込む事はおめぇ達には簡単な事なんだろうぜ」
「良く解ったな、小僧。ませて見えるが、見た処まだ10代だろう?」
「悪かったな。実際の歳より老成して見えるらしいぜ。俺は18だ」
「そんなに若い生命を散らしてしまうのは、勿体無い事だが、生憎カッツェ様の命令でな」
敵の隊長が不気味に笑った。
「解っているさ。カッツェが狡猾だって事はよ。
 身に沁みて解ってる。
 俺はあいつに両親を殺されたんだからな。
 直接には手を下しちゃあいねぇが、命令したのは奴だって事ぁ解ってる」
「ほう…。それで科学忍者隊に入った訳か。復讐の為に」
敵の隊長が感心したような声を上げた。
今までの隊長と少し毛色が違う。
命令だから仕方なくジョーを殺そうとしている感じが窺えた。
「違う。科学忍者隊に組み込まれたのは偶然と言ってもいい。
 俺は1人でも、ギャラクターに立ち向かっただろうぜ」
「惜しい。実に惜しい。こんな若者を殺さなければならないとは…」
「さて、どうかな?俺が死ぬと決め付けている処が気に喰わねぇぜ」
ジョーが不敵にもニヤリと笑った。




inserted by FC2 system