『バクテリア殺人兵器(5)』

「こちらG−2号。博士、K地区の件は片付きました。
 予定通りD地区に向かいます」
『そうしてくれたまえ。竜が駆けつけたが、苦戦しているようだ』
「ラジャー」
ジョーは位置確認をして、G−2号機を駆った。
竜がD地区に行ったと言う事は、健のW地区にはジュンが応援に行ったのだろう。
恐らくは爆弾の知識が必要になったに違いない。
甚平と竜の歳の離れたお友達コンビは、ジョーからすると少し頼りなく感じる。
実際にはそんな事はない筈だが、ジョーの見る目は意外と厳しい。
甚平はその機敏さと奇抜なアイディアで敵を出し抜く事があるが、普段待機が多い竜は戦場に慣れていない、とジョーは思っていた。
健もそれは考えている事だろう。
博士も同様だ。
だから、一仕事を終えたジョーをD地区に派遣する事にしたのだろう。
「こちらG−2号。G−4号、G−5号応答せよ」
ジョーはブレスレットを口元に当てた。
『こちらG−4号、どうぞ』
声変わりし掛かっている甚平の声が流れた。
「今から応援に行く。待っていろ。戦況はどうなっている?」
『汚染物質の装置は停めたんだけど、爆弾は使うな、と言う博士の指示でさ。
 まだそれ以上は進んでいないんだ。
 それに敵がとにかく多くて……』
言っている間にも、2人が闘っている様子が窺えた。
「解った!すぐに行く」
『ジョーの兄貴、助かるぜ』
甚平の声が跳ね上がったように聴こえた。
ジョーはアクセルを踏み込んだ。
D地区までは後僅かだった。
先程のK地区から北西に120km。
G−2号機ならすぐに到着出来る距離だ。
今頃、地球上の全てのダム・湖などの場所で水質検査も行なわれている。
ギャラクターが地球規模でこの作戦を行なっているとなったら厄介だ。
南部博士は除染装置を完成させたと言っていた。
それが今の希望だった。
地球上の水が使えなくなってしまっては、人類にとっては死活問題だ。
ギャラクターはそれを実行して、降伏を迫ろうとしたに違いない。
ジョーは「汚ねぇ手を使いやがる!」と独り言を言った。
やがてD地区のダムが見えて来た。
また例の特殊ガスマスクを着けて、ジョーは先程の侵入方法と同じ方法を選んだ。
激しい水の抵抗に遭ったが、それに耐え忍んで踏ん張っている内に、水流と逆行して中に入る事が出来た。
小さい身体の甚平にはさぞかし大変だった事だろう。
他の侵入方法を試みたのかもしれねぇな、とジョーは思った。
中に入ると通路があった。
地下に行く階段を見つけ、ジョーは迷わずに駆け下りて行く。
先程のセオリーからして、基地は地下にあると思われる。
「こちらG−2号。中に潜入したぜ!」
『ジョーの兄貴!バードスクランブルを発信するからそこに来て!」
「解った!」
通信を切った瞬間に、甚平からのバードスクランブルが入った。
ジョーは機敏に動き出した。

甚平と竜はすぐに発見出来た。
汚染物質の流出装置の周辺でまだ戦闘を繰り返していた。
「俺に任せておけ!マスクを着けておくんだ!」
コックは閉めてある事が解った。
ジョーはエアガンを取り出して、装置の周辺をぐるりと回った。
小さな破裂音が続いて、少し汚染水が流出して来た。
それをジョーはバーナーで焼いて蒸発させた。
「此処に残った緑色の粉には気をつけろ。
 既にK地区で採取してあるが、こいつも汚染物質の残骸、若しくは元になる物だ」
「ラジャー」
甚平と竜が異口同音に答えた。
「早く雑魚共を片付けろ。この基地にも隊長クラスの手強い相手がいる筈だ!」
「ジョー、もしかしてあれじゃないかのう?」
竜が指を差した場所には、これまた妙な男が立っていた。
「ようこそ科学忍者隊の諸君。全員ではないようだが」
振り返ったジョーは、そこに異形の者を見た。
落武者のような姿をしており、周囲に変なオーラを発していた。
バチバチと時々放電しているように見える。
バリアか、それとも直接触ると感電でもするような物なのか?
ジョーはそのどちらも可能性があると思った。
乱れた長い髪は、髷をバッサリと切られたような風に見える。
そして、古びた甲冑を着込んでいる。
袴は股(もも)立ちを取っており、まさに臨戦態勢だ。
甲冑は古びているが、着物は新品のようで綺麗だった。
何ともアンバランスな感じがした。
昔、訓練中にイメージ映像として見せられた忍者映画の中に、こんな落武者がいたような気がする。
気になるのはオーラのようなその放電だ。
ジョーは試しに羽根手裏剣を放ってみた。
羽根手裏剣はそのオーラに当たるとジジッと音を立てて燃え尽きた。
「やっぱりな…」
ジョーは呟いた。
そして、ガスマスクを外した。
ジョーに倣って他の2人もマスクを外し、攻撃態勢に入った。
アメリカンクラッカーで攻撃を仕掛けようとしている甚平を、ジョーは止めた。
「無駄だ。こいつに武器をやられちまう」
「じゃあ、どうすればいいの?」
甚平は困惑した。
竜も珍しくエアガンを抜いていたが、そのまま固まっていた。
「待て、様子を見るんだ。こいつが攻撃を仕掛けて来る時に、このオーラだかバリアだか知らねぇが、そいつがどうなるかって事をよ」
ジョーが言っている事は何よりも的確な指示だった。
戦闘慣れしている彼だからこそ言える台詞だ。
「ジョーの兄貴、あれ見てよ!」
甚平が指を差した。
敵の隊長は刀を抜いていた。
言われなくてもジョーは気付いている。
「一旦攻撃させてみようぜ。あいつで攻撃する時にどうなるか見ておけ」
ジョーは自分が囮になる事を決めた。
素早く敵の前に進み出ると、ジョーは敵の頭上へと跳躍した。
すると、敵はその刀を大きく振り被って、ジョーに斬り付けようとした。
その瞬間、バリアらしきオーラが一瞬切れる事が目視出来た。
ジョーはマントを一部切り取られたが、無事に着地した。
「おめぇの弱点、見抜いたぜ」
ジョーはニヤリと笑った。
「甚平、竜、おめぇ達、奴にどんどん攻撃を仕掛けさせる事は出来るか?」
「出来るとも!おいら達、優秀な科学忍者隊だよ!」
「怖いぜ」
「そんなの構うもんか!なあ、竜!」
「ああ、構わねぇ。やってやるぞいっ」
竜は相撲の四股を踏んだ。
2人共やる気は満々だった。
ジョーは2人に攻撃を仕向けさせておいて、隙を狙い、敵の隊長を攻撃する考えだ。
危険な賭けだったが、この2人なら信頼してもいい筈だ。
(怪我をしてくれるなよ…)
それだけがジョーの願いだった。
そうして、甚平と竜の陽動作戦が始まった。
敵の前をとにかく前後左右に走りまくる。
竜の巨体も意外と素早い。
勿論、それでなければ科学忍者隊は務まらないが、落武者隊長はそれに翻弄されそうになった。
あちこちに斬り付ける。
その剣の腕はなかなかの物らしく、生まれるべき時代に生まれていれば剣豪と騒がれたに違いない。
鋭い剣風が巻き起こる。
だが、動体視力に優れたジョーは、それを全て見切っていた。
竜に危険が及ぼうとしていた時、ジョーは突然敵の刀の前に入り込み、刀と竜の間を遮った。
そして、エアガンでバリアが切れているその場所から撃ち込んだ。
それは見事、敵の右肩に命中した。
敵の隊長は言葉もなく、ただ呻いてもがき苦しんでいるだけだったが、バリアはまた張り巡らされ、隙が全くなかった。
もう1回、攻撃出来れば何とかなるに違いない。
ジョーはそう確信していた。
やはり、自分が狙われる側にならないと駄目だ、と彼は覚悟を決めた。
この敵はそうしなければ落とせない。
「甚平、竜。下がっていろ」
ジョーの三白眼が吊り上がった。




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