『バクテリア殺人兵器(6)/終章』

落武者のような隊長には肉を斬らせて骨を断つより他はないと覚悟したジョーだったが、問題はあのオーラのようなバリアのような物だった。
それを解除した部分を狙うしかない。
だから自分を攻撃させて隙を見る。
ジョーは先程その方法で敵の右肩をエアガンで撃ったのだが、まだ敵は闘争心丸出しでいる。
武士の心を持っているのだとすれば、そう簡単には屈しまい。
ジョーはこの男を倒す方法を考えた。
そして、バリアに当たる事を覚悟してぶつかって行き、敵を壁際に押し付ける奇襲作戦を採る事にした。
そうして、バリアの中に入ってしまえば、敵を襲うチャンスは幾らでもある。
危険な賭けだった。
だが、攻撃を仕掛けて来るのを待っていたら、こちらは後手に出る事になる。
それを待っているのは余りに非効率的だとジョーは考えた。
こうしている間にも部下達がどこか別の場所から汚染物質を流出させようと企んでいるかもしれないのだ。
今、此処にいた隊員達は一掃していたが、新たにどこかからか仲間がやって来る可能性も否定出来ない。
此処が前線基地だったとしても、地下に行けば別の方法を使う事も可能だと思った。
それを何としても喰い止めたい。
「ジョー、まさか…」
竜が恐れ戦くように言った。
「仕方があるめぇ。あの電気ショックだか何だか解らねぇが、このバードスタイルが何処まで耐えられるか、ってこった」
「羽根手裏剣が一瞬にして焼かれたんじゃぞいっ」
「羽根手裏剣とバードスタイルとでは耐用性が違う筈だ」
ジョーは不退転の決意を固めていた。
「ジョーの兄貴…」
甚平が不安そうに見た。
「俺がやられたら、おめぇ達、頼むぜ。
 心配そうな顔をするなって!そう易々とやられたりしねぇよ」
ジョーは決意を固めた顔で、2人を見た。
惜別の思いが篭っているように竜には見えて、一瞬彼はゾクっとした。
だが、ジョーが死ぬ事を前提に動いたりはしまい。
竜はそう思い直して、甚平の肩に手を置いた。
敵の隊員達は既に倒れ、辺りに倒れている。
2人はじっとジョーの行動を見守った。
ジョーは刀を振り被ったままで、彼の動きを待っている敵をじっと見詰めた。
隙はない。
だが、右肩には痛みがあるようだ。
その振り被るポーズがキツそうだった。
痛みにいつまで耐えられるかが敵としてはポイントとなる。
その前にジョーに動き出して欲しいと願っているに違いない。
静寂が辺りを支配した。
ジョーはついに動いた。
敵のバリアのような物はまだバチバチと放電を繰り返している。
ジョーはじっと見ている間にその解除装置を見つけたのである。
本人の力じゃない。
制御されたものである事を見抜いたのだ。
ジョーは敵に体当たりをした。
身体にビリビリと激しい衝撃が走った。
だが、決して無謀にアタックした訳ではない。
彼は敵の腹部のベルトに触れた。
そして、そこにある制御スイッチを回した。
すると嘘のようにあのバリアが消えたのだ。
「俺の狙いに狂いはなかった…」
ジョーは肩で息をしながら、呟いた。
電気ショックはかなりその身に堪えた。
だが、彼にとっては勝利感の方が強かった。 「行くぜっ!」
ジョーは長い脚で落武者隊長を蹴り飛ばした。
初めて隊長が床に転がった。
しかし、さすがに俊敏に起き上がって来て、刀を正眼に合わせた。
戦国時代に生まれたのなら、剣豪と名づけられたに違いない、その剣の腕を馬鹿にしては行けない、とジョーは思った。
ジョーには剣に対抗出来る武器はない。
甚平と竜も同様だ。
竜が力技で壁にあったパイプを剥がして、ジョーに投げ渡して来た。
ジョーはそれをパシっと受け取った。
剣道の経験がない訳ではない。
科学忍者隊の訓練にはそれも入っていた。
普段は体術で闘う事が多いが、ジョーはそのパイプを手にした。
物凄い剣風と共に、切先がジョーを襲って来た。
しかし、ジョーはそれを見切った。
動体視力に優れている事が、此処でも役に立った。
パイプで敵の刀を止める事に成功したのだ。
パイプは剣によって折れたが、その間に敵の懐に入り込んだジョーは、その鳩尾に深く重いパンチを浴びせていた。
そして、そのまま長い脚を高く上げて、敵の首をぐるりと浚った。
脳震盪を起こして、敵の隊長は棒のように倒れた。
「やったね。ジョーの兄貴!」
甚平が叫んだが、ジョーはまだじっとその姿を見ていた。
先程の基地では隊長が再び動き出して冷や汗を掻いた。
右腕の指先がピクッと動いたが、やがて動かなくなった。
漸く意識を手放したらしい。
ジョーはやっと長い溜息を吐き出した。
「終わったな……」
「南部博士に連絡しないと」
「甚平、おめぇから連絡してくれ」
さすがにジョーはバリアの電流にやられて疲れていたようだ。
「こちらG−4号。D地区の装置を停止。
 ジョーの活躍で隊長もやっつけました!」
『ご苦労。ジョーが片付けたK地区には、既に国連軍が駆けつけ、除染作業を始めた。
 ギャラクターの隊員達は逃げ去っているようで、見当たらないとの事だ』
「だとすれば、この基地にも新手が来る事はねぇって事だな…」
ジョーはもう疲れから回復していた。
一時的な物だったのだろう。
あれ程激しい衝撃を受けたのだから、仕方がない。
「健達のW地区はどうなっているんかいのう?」
『こっちも済んだぜ。みんなご苦労だったな』
健の声がブレスレットから響いた。
「健とジュンのコンビは磐石さ。やってくれると思っていたぜ」
ジョーが呟いた。
『ジョー、随分活躍したようだな。声が掠れているぞ』
健はちょっとの違いを聞き分けている。
「ジョーの兄貴は、敵の隊長を倒すのにちょっと無茶をしたからね」
甚平が揶揄するかのように言った。
「でも、あれ以外にあいつを倒す方法があったか?」
「そう言われると答えに困っちゃうけど…」
甚平がお茶目に笑った。
この子はいつでも科学忍者隊のアイドルだ。
疲れた心を癒してくれる。
孤児なのに、捻くれる事もなく、素直にすくすくと育っている。
それを眩しく見守る兄貴分達であった。
「これからどうするんです?博士」
『諸君の任務はこれで終わりだ。後はISOと国連軍の仕事になる』
『解りました。我々は引き上げます』
健が答えている。
『全員それぞれのマシンで三日月基地へと帰還だ』
健の指示がブレスレットから響いた。
「そう言えば、腹が減ったのう…」
竜が呟いた。
『竜!ジョーは食事を摂らずにこの戦闘に参加したんだぞ!』
健の叱責が飛んだ。 「す…、すまねぇ」
「いいって事よ」
ジョーは笑って済ませた。
『基地に戻ったら、食事券を用意しておく。
 展望レストランで、何でも好きな物を食べるが良い』
博士が笑いながらそう言ったのが聴こえた。
博士も後処理で忙しい筈だが、科学忍者隊の若者の事はちゃんと考えていた。
『諸君、今回もご苦労だった。それぞれゆっくり休みたまえ』
そう言って博士の通信は切れた。
「一番働いてるのは博士だって言うのによ…」
ジョーがボソっと呟いた。




inserted by FC2 system