『マントル市街地全滅(1)』

『科学忍者隊の諸君、速やかにYG−246地点にて合体を終了し、待機せよ』
南部博士からの通信で起こされたのは、まだ5時半頃の事だった。
博士はきっとしっかりスーツを着込んでいるのだろう、とジョーは想像しながら、「G−2号、ラジャー」と答えた。
その時には冷蔵庫から栄養ドリンクを掴み出していた。
ゼリー状になっているので、多少の栄養は摂れる。
何も食べないよりはマシだった。
「ギャラクターめ。今度は一体何をやらかしやがった!」
ジョーはゼリードリンクを握り潰して、ゴミ箱に投げ入れ、慣れた手付きでサイドボードの上からさっとG−2号機のキーと手袋を取った。
そして、科学忍者隊は指定の地域でゴッドフェニックスに合体した。
甚平が眠そうにしていたが、全員欠伸を噛み殺し、南部博士の指令を待っていた。
ジョーは陸地の移動だった為、最後に合流したが、それでも指令から19分後には全員が揃っていた。
「遅くなったな」
「仕方があるまい」
健が腕を組んで呟いた。
彼だけは事前に指令の内容を知っているようだった。
「おめぇは指令の内容を聴いているのか?」
「テストパイロットの仕事の日で、博士の元に留まっていたからな」
健が不機嫌そうだったのは、そう言う理由か、とジョーは納得した。
また収入の道が閉ざされる。
だが、それは健に限った事ではない。
全員が普段の生活を投げ打って此処に集まっているのだ。
「で、何だって言うんだ?」
ジョーは構わず不機嫌なリーダーに訊いた。
誰だって不機嫌な事はある。
だが、これは任務だ。
いつまでもそんな事を引き摺っている健ではない、と彼は信じている。
「ギャラクターがQ市でメカ鉄獣を暴れさせているらしい」
健は苦しそうに言った。
「Q市と言えば、マントル計画でつい最近OPENしたばかりじゃねぇか?」
ジョーも思わず声を張り上げた。
「そうだ……」
健は腕を組んだままでいる。
『科学忍者隊の諸君。全員揃ったかね?』
博士から通信があったのは、指令から丁度21分の事だった。
「はい、揃いました」
健が初めて腕組みを解いた。
博士の表情が何となく曇っているように見えた。
『健から聴いていると思うが、Q市がギャラクターのメカ鉄獣に襲われ、全滅した』
「全滅ですって!?」
ジョーが眉を吊り上げた。
『国連軍がすぐに出動したが、軍もまた全滅したのだ。
 守り切る事が出来なかった』
「俺のG−2号機が飛べたら……」
『ジョー、君が自分を責める事はない。
 私が集合を掛けた時には、既に手遅れだったのだ……』
「ギャラクターめ。何て事を!」
握り締めたジョーの拳が震えた。
『とにかく諸君には、敵の手掛かりを得て欲しい。
 国連軍の戦闘機からデータを取り出し、街の様子を観察して来て欲しいのだ』
「ラジャー」
健はそれを聴いて役割分担を考えた。
「ジュンと竜は国連軍の戦闘機からデータを得てくれ。
 ジョー、甚平は街中を捜索する」
「ラジャー」
健の指示で、街の中央広場にゴッドフェニックスを着陸させた。
中央広場にも多数の人々の衣服だけが風に飛ばされていた。
「酷いわ。一瞬で消されてしまったって事?」
ジュンが眼を覆った。
「どうやらそうらしいな」
健は仏頂面で答えた。
健の気持ちは解る。
ジョーだって同じ思いだ。
出来たばかりの夢のある街を一瞬にして破壊され、生命まで奪われた。
遺体も残らない方法で……。
健は気を取り直して、予定通りの行動を指示した。
健、ジョー、甚平の3人は生き残りを探して、廃墟となった街を回っていた。
国連軍も捜索に加わっていた。
犠牲となった人の人数を調べる為に、軍は衣服を集めていた。
どの地域にあった衣服と言う事を細かく区分けしてあった。
単独行動となったジョーはそれを見て、顔を顰(しか)めた。
「何てこった…!」
思わず呟いてしまった。
国連軍の人間に訊くと、仲間達も消え去ってしまい、どんなメカ鉄獣が暴れていたのか全く資料がないと言う。
「ジュン達が回収に言ったフライトレコーダーを頼るしかないか…」
南部博士が国連軍に掛け合って、科学忍者隊に手渡すように言ってあった。
軍は最初は難色を示したが、南部博士の鶴の一声で折れたらしい。
何と言ったのかは知らないが、分析は博士がした方が確かに有意義だとジョーは思った。
廃墟となった街をいくら調べて回っても、主の無くなった衣服が出て来るだけだった。
その服を見ると、どんな生活をしていた人々かが解る。
(この子はサッカー少年だな…。可哀想によ……)
ジョーはその衣服を握り締め、その手を震わせた。
怒りが込み上げて来ていた。
それを押し付けるように軍の人間に手渡したジョーは、再び捜索に戻った。
健から生き残りが居た、と言う連絡を受けたのは、それから1時間は優に経っていた。
「こんな中で生き残りがいたって!?」
ジョーは信じられない思いだった。
『とにかく大統領の公邸へ来てくれ』
「解った!」
甚平も同時に呼び出されたらしく、その場所に現われた。
顔色が優れない。
この歳で見るも無惨な物を見て来たのだ。
ジョーは黙って、甚平のヘルメットに手を置いた。
「大丈夫だよ、ジョー。有難う…」
甚平は呟くように答えた。
健が言った人物は大統領邸のトイレの中に倒れていたと言う。
何らかの理由で、トイレには影響が生じなかったのだろうか?
生き残っていたのは、大統領の男性秘書らしい。
私設秘書ではなく、公的な第一秘書だ。
スーツの襟にバッジが光っている。
ジョーは意識を失っている振りをしているその男の眼が一瞬開き、キラリと光った事を見逃さなかった。
男を助け出そうとしている健にジョーは言い放った。
「健、病院に連れて行くのはいい。だが、国連軍傘下の病院にしろ。
 訳は今は話せねぇ。後で話す」
健は人を信じやすい。
親切に介助しているが、ジョーは手を貸さなかった。
甚平が不思議そうにジョーの顔を見た。
軍傘下の病院ならいざとなったら、拘束が効く。
軍人の見張りを付ける事も出来るだろう。
『護衛』と言う名目で。
健もジョーの態度を不審に思ったが、何か考えがあるに違いない、と気付いた。
またジョーの勘が働いたのだろうか。
そう、ジョーはこの秘書官を偽者だと看破していた。
恐らくはギャラクターの幹部、若しくはベルク・カッツェ自身の可能性も少しはある。
そんな物をISO付属病院に入れたり、三日月基地に保護する事は非常に危険だった。
「甚平。他に生き残りは発見出来たか?」
ジョーは甚平の頭に眼を落とした。
「ううん。みんな服ばかりになっていたよ…」
「俺もだ」
ジョーは短く答えた。
その意味を甚平は理解出来なかった。
ジョーは健が発見したこの男が生きている事がおかしい、と言下に言っているのだ。
『健!フライトレコーダーは軍が回収してくれていたので、すぐに集まったわ。
 有効なのは10数個しか取れなかったけれど……』
「いいだろう。それを持ってゴッドフェニックスに戻ってくれ」
『ラジャー』
こうして、健は秘書官を連れて、ゴッドフェニックスに戻り、科学忍者隊は全て撤収した。
ジョーはゴッドフェニックスに戻ってもまだ事情を説明しなかった。
ただ博士に国連軍の傘下の病院を手配して下さい、と言ったのみだ。
自分がG−2号機で連れ込むと言っている。
健はジョー1人に任せても大丈夫か、と少し心配になった。
ジョーが考えている事が彼にも理解出来たからだ。
尤もまだ健は偽者だと疑い始めている訳ではなかった。
南部博士はジョーの言い分を了承し、その手配をしてくれた。
ジョーはG−2号機を分離させ、変身を解いた。
健がトップドームからその男を抱き上げて飛び降りた。
「大丈夫か、ジョー」
「当たりめぇさ。怪我人を連れて行くだけのただの使いさ」
ジョーはニヤリと笑って、男をナビゲートシートに乗せ、さっさと健を土煙に巻くようにして出発した。
彼は本当は覚悟していた。
場合によっては、病院に着く前にこの男と一戦を交える事になるかもしれない、と……。




inserted by FC2 system