『マントル市街地全滅(2)』

健達はフライトレコーダーを回収して、三日月基地に戻り、ジョーは国連軍傘下の病院へと向かった。
南部博士が話を取り付けてある。
ジョーはこっそりと駐車場でG−2号機を降りて、博士に通信した。
「先程の男を病院まで連れて来ました。
 今の処、何かの薬を飲んで意識を失っているようです」
『薬だと!?』
「ええ。あの現状で生き残ったとは考えにくいと思います。
 こいつはギャラクターです。
 健が助け起こした時には意識がない振りをしていたのです。
 俺はそれを確認しています。
 本人の耳に入ると行けないので、健達には黙っていましたが……」
『つまりギャラクターだと言いたいのかね?』
「その通りです」
『うむ…。それで国連軍の病院を……。
 で、一体どうするつもりなのだ?』
「病院で検査しても何処も悪くはない筈です。
 奴は科学忍者隊の基地に連れ込まれる事を期待していたものと思われます」
『それで?』
「眼が醒めたらどう言った行動を取るか、監視していたいと思います。
 そっちのフライトレコーダーの方の分析には別に俺が居なくても構わないでしょう?」
『それはそうだが……』
博士の歯切れはいつに無く悪かった。
ジョーに悪い事が起こらないかと心配しているのだ。
「大丈夫ですよ、博士。いざとなったら暴れるかもしれませんが、俺がまた眠らせてやります」
『無茶をしちゃあ行かん』
「解ってます。奴の目的は科学忍者隊の正体を得る事だと思っています。
 そして、あわよくば基地を突き止めようと思ったのでしょう。
 絶対にそうはさせません」
『ジョー……。おお、健達が戻って来たようだ。
 必要があれば健を応援にやる』
「解りました。そうして貰えると有難いです」
ジョーにしては珍しく、素直にそう答えた。
いつもなら自分1人で大丈夫だ、ぐらいは言うだろう。
それだけ彼はこの怪しい男に危機感を抱いていた。
ジョーは通信を切ると、まだナビゲートシートで意識を失っている男を見た。
ジョーよりも体格がいい。
竜の方が適任だったかもしれないが、それは仕方のない事だ。
ジョーはその身体を揺さ振って『本当に』意識が戻らない事を確認すると、病院へと入って行き、事情を説明してストレッチャーを頼んだ。
「南部博士から連絡があった。
 ギャラクターに襲われたQ市の大統領の第一秘書だとか?」
受付でがたいの良い男がそう言い、係の者を手配した。
さすが軍需病院。
受付も軍人の事務官なのか、とジョーは感心した。
そして、声を落としてこう囁いた。
「怪我をしているように装っているが、嘘だと思う。
 意識を失っているのも、何か薬を飲んだだけだ。
 充分注意するように医師や看護師には徹底してくれ」
「それも先程、南部博士から連絡が来ている」
受付は決して愛想が良くはなかった。
そんな必要はないからだ。
受付の奥の部屋から医師と看護師が出て来た。
ただの医師達ではない。
それなりの訓練は積んでいる医療軍人だ。
これなら心配は要らねぇな、とジョーは思った。
だが、相手はギャラクターだ。
国連軍はこれまでどれだけギャラクターにしてやられて来たか。
そう思うと油断はならない。
自分が見ているより他はないだろう、と思った。
ジョーはG−2号機に案内し、男をストレッチャーに乗せるのを手伝った。

第一秘書を装った男は、すぐに処置室に運ばれた。
血液検査から、ジョーの主張通り、薬を使っている事が判明した。
血と見せ掛けていた腕の傷はメイクだった事も解った。
「やっぱりだ……」
治療を眺めながら、ジョーが呟いた。
そこへ健が到着した。
「ジョー、本物の第一秘書は死んでいた」
「俺の思った通りだな。博士にも話した通り、こいつはギャラクターだぜ」
「ああ、博士から話は聴いた。かなり早い時点で気付いていたそうじゃないか。
 敵に聴かせない為に俺達には話さなかったんだな。
 全くお前は、大した勘と観察眼だぜ」
「観察眼はリーダーのおめぇ程じゃねぇさ。
 たまたま見ちまっただけだぜ。奴の眼をな」
「そうか…」
「俺は奴をベルク・カッツェかと疑ったが、どうもそうではなさそうだ。
 顔も髪も変装ではなかった。
 目的は俺達の正体と基地の場所を探る事に違いねぇぜ。
 で?フライトレコーダーの解析は進んでいるのか?」
「メカ鉄獣は植物系らしい事が解った」
「またジゴキラーかよ?」
「いや、あのような古代の物ではない。
 所謂毒草。有毒植物の姿に似ているらしい」
「まだ分析中って事か?」
「ああ。花は持たず、姿は蔦のような形をしている。
 だが、まだ解っているのはそこまでだ。
 似ている毒草の中にも、当てはまるものはないらしい」
「つまりはギャラクターオリジナルって事だな」
「そうかもな」
「作戦が練れねぇじゃねぇか?」
「そう言う事だ……」
健は暗い表情で頷いた。
「まあ、草だとすれば、焼き払うか毒の成分を突き止めて、そいつを解毒してやるかだな」
ジョーが呟いた時、医師が言った。
「意識が戻りそうだ。核心を突く話は控えた方がいいぞ」
そう言われて、2人は黙った。
そして、男の様子を見た。
手指がピクピクと動き始めている。
「ん?」
ジョーが不審に思った時、突然男は爆発した。
爆弾などは持っていなかった筈だ。
何かが遠隔操作で爆発したのだ。
医師や看護師達にも傷を負った者が出たが、ジョー達は無事だった。
ジョーは立ち上がり、ある光る小さな物体の欠片を拾った。
それは男が襟に付けていたバッジの欠片だった。
「どうやら消されたらしいぜ…」
ジョーは暗澹として呟いた。
「怪我人は!?」
健が訊いている。
「軽傷5名。大した事はない」
医師が即座に答えた。
「良かった…」
健もジョーも安堵した。
これが一般の病院だったら、どうなっていただろうか?
大惨事に繋がっていたかもしれない。
此処が軍需病院だったから、彼らは身を守る術を知っていたのだ。
「ジョーの判断は正しかったな……」
健が呟いた。
「だがよ。話は白紙に戻ったぜ」
ジョーはくるりと踵を返した。
「消されたんじゃしょうがねぇ。帰って分析結果が出るのを待とうぜ」
「ジョー、気をつけろ。俺達はこれから尾けられる可能性がある」
健が慎重な含み声で言った。
「……確かにそれは有り得るな」
ジョーは顎に手を当てて答えた。
2人は処置室を出た。
「撒いてやる自信はあるが、どうするよ?」
「闘って追い返そう」
「ほぉ、健にしちゃ珍しい事を言うじゃねぇか。
 無益な闘いは控えたい、とでも言うかと思ったよ」
ジョーはポンっと健の肩を叩いた。
「撒けるとは思うが、万が一の事もある。
 基地の場所は絶対に知られちゃあ行かん」
「解ったぜ。任せときな」
「それはこっちの台詞だ」
健は珍しくニッと笑って見せた。




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