『マントル市街地全滅(3)』

G−2号機とバイクに分乗した2人は敢えて、別々のルートを取って移動する事にした。
戦力を分散する事になるが、その方が敵の戦力もまた分散出来るし、撹乱する事も出来る。
ジョーは1人になって暫くすると、すぐに黒塗りの車が尾行している事に気付いた。
車だけじゃなかった。
ヘリも上空をパタパタと音を立てて飛んでいる。
あれも自分を狙っているのだろう。
ジョーは山道へとコースを変えた。
そして左手で運転を続けながら、右手で右大腿部の隠しポケットに手を伸ばす。
勿論、取り出したのは、エアガンと羽根手裏剣だ。
狙うはヘリコプターの操縦士だ。
まずはそちらの方が脅威である。
ヘリはジョーが狙っている事に気付き、尾行から狙撃体制に変わったようだ。
「大体尾行にヘリなんか使うからバレるんだぜ。
 馬鹿な奴らだ……」
思わず呟きながら、ウインドウから身を乗り出した。
その時にはエアガンを左手に持ち替えている。
そのままジョーは引き金を絞った。
狙い違わず操縦士に命中したが、その作業をしている間に、後方から尾行して来ていた車から発砲された。
ジョーは左の二の腕を掠められ、一瞬少量の血が飛んだが、巧みに運転席に戻った為、軽傷で済んだ。
後方の上空からヘリコプターが墜落し、近くで炎上したのが解った。
見事な運転で、それ以上の狙撃を避け、ジョーは広い大地の上にG−2号機を停めて降り立った。
「来るなら来いっ!俺は逃げねぇぜっ!」
ジョーは挑発するような言葉を吐いて身構えた。
すると黒服に身を固めた敵が黒塗りの車から降りて来た。
案の定、その服をパッと取り去るとギャラクターの隊員服を着ていた。
マシンガンを持ってはいるが、車に乗っていたのは運転をしていた人物を含めて4人。
ジョーの敵ではない。
1人の男に向かって信じられないスピードで走り寄り、重い膝蹴りを喰らわせた。
返す刀で左脚を軸にして、その男の後頭部に蹴りを入れた。
完膚なきまでに男は崩れ落ちた。
残りは3名。
ジョーは跳躍して、敵兵の鳩尾にパンチを入れ、その拳をグリッと回した。
これで効果が倍増する。
臓腑を掴まれたような痛みが敵の身体に走った。
銃撃によって掠められた左腕が少々痛んだが、大した傷ではない。
ジョーは全く気にせずに伸び伸びと闘った。
今頃、健も大活躍しているに違いない。
敵は病院で彼らの素顔を目撃している可能性があったので、バードスタイルには変身する訳には行かなかった。
このまま生身で闘う他ない。
だが、彼らの身体能力は生身でも充分に発揮された。
飛翔能力や防御力が落ちるのは仕方がない事だが、ギャラクターの下級隊員ぐらいなら、彼らにとっては何と言う事もない。
2人をあっと言う間に倒したジョーを見て、残りの2人は少し尻込みをしたが、それでもマシンガンで彼を狙って来た。
ジョーはジャンプしてそれをいとも簡単に避け、2人の手元に羽根手裏剣を同時に放った。
無駄のない切れのある動きはバードスタイルの時と何ら変わりはない。
当然のように羽根手裏剣は敵の喉元に刺さった。
倒れ掛かった男に駄目押しの手刀を与え、ジョーは初めて左腕の傷に触れた。
大した傷ではない。
出血も少なかった。
掠り傷だった。
ジョーは周囲を注意深く見渡した。
まだ先程墜落したヘリは燃えている。
その内通報を受けて消防隊が出張って来る事だろう。
面倒な事にならない内に姿を消した方がいい。
彼はG−2号機に取って返すと、すぐさま基地に向かって出発した。

健とジョーは収穫を持たぬまま、基地へと帰還した。
健は一旦自宅に帰り、打ち合わせてジョーが彼を迎えに行ったのだ。
G−2号機を、接岸してあった潜航艇に乗せて此処まで戻った。
「そうか…。ご苦労だった。止むを得ぬ事だ。
 死者が出なくて何よりだった。
 ジョーの判断が正しかったと言う事だな」
南部博士が労ってくれた。
「でも、5人も巻き込みましたよ」
ジョーは仏頂面を博士の前でも隠さなかった。
「ジョー、その傷は?」
「掠り傷です。唾でも付けておきゃあ治りますよ」
「何を言っている?しっかり手当てをしておきたまえ。
 ジュン、頼むぞ」
「解りました」
博士はジュンにジョーの手当てを託して、司令室を出て行った。
フライトレコーダーの解析はまだ続いているようだ。
ジュンは救急箱を持って来て、ジョーの傷口を消毒し、ガーゼを貼りながら、
「甚平。そこのスクリーンを操作して頂戴」
と甚平に促した。
「解ったよ、お姉ちゃん」
甚平がボタンを押した。
「今、解っているのは、この敵のメカ鉄獣の姿だけよ」
ジュンがスクリーンに映し出された写真について説明をした。
「全くただの蔦の化け物のような植物系の鉄獣だとは、何とも掴み処がない話じゃのう」
「だが、蔦って言ったって、これは何本もあるじゃねぇか?
 根元はどうなっているんだ?」
ジョーが言った事は、健も同じように考えていた事だった。
「その写真は撮れているのか?」
健がジュンを振り仰いで訊いた。
「それが撮れていないのよ」
「植物だとしたら、地面から出て来る可能性もあるんじゃねぇのか?」
「地下を移動して神出鬼没に出て来れるって事か!
 ジョー、それは有り得るぞっ!」
健が手をポンと叩きながら叫ぶように言った。
「なる程のう。でも、神出鬼没じゃあ、こっちは敵の動きを察知出来ねぇって事だぞい」
竜が喋ると何とも暢気な話に聴こえる。
しかし、彼の言っている事は尤もな話だった。
「レーダーで探れば位置ぐらいは解るだろう」
健が言った。
「ただ、相当に用心深い敵かもしれないな。
 とにかく本体を全く見せていないんだからな」
健は腕を組んだ。
「相当大きい物体が地下に潜んでいるって事か…。
 全く毎回毎回恐ろしい物を作り出しやがる」
「だが、ジョーの意見は参考になった。
 その可能性はかなり高いぞ。
 恐らくはジョーの言っている事は当たっているに違いない」
「まあ、そう言い切るなよ、リーダーさんよ」
「勿論、今から他の可能性も考えてみるつもりだ。
 だが、今の処、他に有力な考えは思い付かない」
健は腕組みを解かなかった。
そのまま沈思黙考に入ったので、ジョー達はそっとしておく事にした。
とにかく例の大統領の秘書官を装った男が消された以上、唯一の手掛かりはフライトレコーダーしかないのだ。
決定的に似ている有毒植物がまだ上がって来ない処を見ると、ギャラクター独自の工夫がなされた物に違いない。
本物の植物なのか、全てがメカで出来ているのか、まだそれすらも解析出来ていないのが実情だった。
「ギャラクターに狙われそうなマントル計画による都市は他にもある筈だぜ。
 先回りしてパトロールしておいた方がいいんじゃねぇのか?」
「だが、それだと全員がバラバラになる。
 何か起こった時に危険に晒される事になるぞ」
健が口を開いた。
「危険を恐れていては何も出来ねぇぜ」
ジョーは苛立ちを隠さずに言った。
「解っている。だが、南部博士の許可が必要だろう。
 俺が行って話をして来るから、まずはみんなで都市をピックアップしておいてくれ」
健は漸く腕組みを解いて、踵を返した。
「何も思い付かなかったんじゃろうのう。
 ジョーの意見に対抗するような事が…」
竜が呟いた。
「別に健は俺に対抗意識なんて持ってねぇよ。
 ただ、リーダーとして別の可能性も一応は考えておく必要があった。
 あいつはいつだって冷静で、リーダー気質な男なんだよ。
 断じて対抗意識じゃねぇ」
「い…いや、言葉の綾として言っただけでよ…」
竜がジョーの鋭い眼を見て怯んだ。
ジョーは別に竜に対して怒っているのではない。
南部博士が心血を注いで作り上げた街を一瞬にして破壊し、多数の人々の生命を奪ったギャラクターが許せないだけだった。




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