『マントル市街地全滅(4)』

「フライトレコーダーに残っていた映像で新たに取り出されたのはこれだけだ」
南部博士がスクリーンに新たな画像を映し出した。
地中から伸びる10本以上の大きな蔦。
「これだけですか?やっぱり本体は姿を見せていないと言う事ですね?」
ジョーが訊いた。
「然様。良く本体がある事が解ったね。これがレーダーに残っていた映像だ」
博士が切り替えたのは、レーダーに映った影だった。
「丸い…ですね…」
健が呟いた。
「楕円形の丸い物体から触手が出ているような物か?
 そして、本体は地中の安全な処にいて、移動も自由自在。
 こいつは厄介だぜ」
「何だか想像が付かないなぁ。亀のような物から蔦が伸びているって事?」
甚平が眼を丸くした。
「ううむ。亀か……」
博士が顎に手を当てた。
「実はこの形状、調べてみると、亀に似ているのだ」
「タートルキングみたいな奴に花のないジゴキラーが付いているようなイメージかのう?」
「レーダーでは影だけしか解らんので、断定は出来ないが、甚平や竜の言ったようなメカ鉄獣かもしれない」
博士は慎重に答えた。
「資料が無さ過ぎるのだ。後はパイロットの会話記録なんだが、これも『何だこれは?』と言うようなものばかりで、具体的にメカ鉄獣の目撃証言と取れる物は何一つ残っていなかった」
「国連軍、もうちょっと『仕事』して欲しいよね」
「こら、甚平!亡くなった人に何て事を!」
ジュンが甚平を窘めた。
「だが、甚平の言う事も一理あるぜ」
ジョーはそれが特徴の低い声ではっきりと言った。
元々彼は国連軍を買っていない。
「少しでも職務を全うしようって気があるのなら、何かしら手掛かりを残しておくだろう。
 俺ならそうするぜ。墜落して行く戦闘機の中でもな」
「それはジョーだからよ。いくら軍人でもいざとなったらそうは行かないわ」
ジュンが死んだ操縦士を庇うように言った。
「ジュンの気持ちも解らなくはねぇがよう!」
ジョーは苛立ちを隠さない。
「まあ、止したまえ。諸君の間で遣り合っていても仕方がないのだ」
南部博士がやんわりと止めた。
全くその通りだ。
「みんな落ち着け。これからの展開を考えなければならない」
健はリーダーらしく言った。
「マントル計画で作られた都市を巡回してパトロールを続けるとなれば、ただ敵の出方を見るだけになるぜ。
 出来れば、こっちから奴らの基地を突き止めてやりてぇ処だ。
 甚平のG−4号機で何とかねらねぇもんかい?」
ジョーが言った。
「あ、そうか!このレーダーが示した位置にG−4号機で入り込んで、その軌跡を追えばいいんだ!
 さすがはジョーの兄貴だね」
甚平が指を鳴らした。
「そうか!その手があったか!」
健も頷いた。
「南部博士、我々に出動命令を!」
健は博士を振り仰いだ。
「良かろう。これ以上、分析を続けても新しい情報は出て来ないだろう。
 そのジョーの提案は有益だ。
 甚平、頑張るのだぞ」
「ラジャー」
甚平の声が弾んだ。
博士の声が思いの外優しかったのだ。
いつも出動命令を出す時は厳しい博士である。
「では、科学忍者隊、出動します!」
健が代表して言った。
「諸君の成功を祈る」
博士は静かに言うと、司令室から姿を消した。

問題の地点に着くと、ジョーのレーダーの横にジュンも立った。
「此処ね。間違いないわ。甚平、しっかりやるのよ」
「解ってらぁい!」
威勢良く答えた甚平は、G−4号機へと乗り込み、ゴッドフェニックスから分離して行った。
地中に潜る事が出来るのは、甚平のG−4号機だけである。
飛ぶ事も出来るし、水中もOK。
ジョーに言わせたら『豆タンク』だが、抜群の機動性を誇るのだ。
ジョーはその点については認めている。
自分のG−2号機は、性能は良いが、地上でしか身動きが取れない。
地上では最大限のパフォーマンスを見せてくれるが、それ以外では活躍のしどころがないのだ。
ジョーはちょっと悔しげにゴッドフェニックスから離れて、地中に潜り込もうとしているG−4号機を見た。
これからは甚平の出す電波をレーダーで追って行けばいい。
『早速それらしき大きな横穴を見つけたよ。
 東に向かってる。これから追跡するよ』
「甚平、いいか?
 途中で遭遇するような事があったら、どうやってでも地上に出て来いっ!いいな?」
健がブレスレットに向かって叫んだ。
「あいよ。大丈夫だよ、兄貴!」
甚平はこの通り無邪気だが、ゴッドフェニックスのコックピットにいる4人は皆一様に心配そうな表情をしていた。
「甚平の奴、大丈夫かよ!?」
「甚平ったら、大丈夫かしら?」
ジョーとジュンが同時に口走っていた。
「とにかく俺達は様子を見るしかない。
 何かあったら、甚平の援護に回れるよう準備しておけ」
健が言った。
だが、バードミサイルも火の鳥も使えない。
ただ、敵を脅し、翻弄するしかなかった。
「その時は俺がノーズコーンから敵を狙撃してやる。任せとけ!」
確かに今考えられる攻撃法はそれしか見当たらなかった。
「ジョー、念の為、準備を頼む」
「解ったぜ」
健の指示で、ジョーはゴッドフェニックスの先端にあるノーズコーンに保管されているG−2号機へと移ってスタンバイした。
「こっちはいつでもOKだぜ。
 竜、もし甚平が無事に基地を発見したら、俺は此処から降りるからノーズコーンを開けてくれ」
『解った!』
ジョーはG−2号機の中でじっと腕を組んで眼を閉じた。
そして、甚平の無事を祈った。
『敵のメカ鉄獣は北東へ方角を変えたみたいだ。
 おいらの位置は掴めてる?』
甚平の声がブレスレットから流れて来る。
『大丈夫だ。レーダーで捕捉出来ている』
健の声も聴こえて来た。
ジョーは眼を開けた。
彼のG−2号機にも小型レーダーがある。
その光は点滅しながら移動していた。
それが甚平の現在地である。
「おい、健。地中をメカ鉄獣が通ったなら、それなりの地震が計測されたんじゃねぇのか?」
ジョーは思い着いてそれを言った。
『なる程!それは有り得るな。南部博士に注進してみる』
健はコックピットからジョーの意見としてその事を南部博士に伝えた。
『その事なら今、分析中だ。
 甚平の移動よりも早く基地を突き止められる可能性が出て来た』
『解りました。ジョー、聴こえたか?』
「ああ、解った。どちらが早いか、って事だな…」
ジョーはまた瞳を閉じた。
ふさふさとした長い睫毛が印象的だ。
組んだ腕の上で、右手の人差し指をとんとんと動かす。
彼がイライラしている時の癖だが、今はただ甚平か地震測定結果のどちらかが敵の基地の発見をしてくれればいいだけだ、と思った。
どちらでも良かったが、何となく甚平に手柄を取らせてやりたい気はした。
「甚平の奴、張り切ってやがったからな」
ジョーは思わず呟いた。
『兄貴!変な洞窟みたいな処に出たよ!』
と甚平がブレスレットから告げた時、南部博士からも地震の発生源が特定出来たとの連絡が入った。
そこがまさに、甚平が発見した場所とドンピシャだった。
「おう、やったな!甚平!」
『ジョー、ゴッドフェニックスで突っ込む事にする。
 一旦こっちに戻ってくれ!』
「解った!」
ジョーはシートの背中を倒した。




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