『マントル市街地全滅(5)』

甚平の現在地の近くには建物が立っていた。
正確には立っていたと言うよりも、クレーターのように窪んでいる何かの出入口がある。
そして、レーダーで見る限り、甚平の居る場所から通路になっていて、蜘蛛の巣のように放射状に伸びているのが解った。
「甚平、地上に出て合体しろ」
「えっ?こんな場所でいいの?解ったよ」
甚平はG−4号機で地上に姿を現わした。
そしてゴッドフェニックスに合体する。
これで全機能が使える事になった。
「良くやったな、甚平」
ジョーは甚平の頭に手を置いた。
「この位朝飯前だよ。おいらだって一人前の科学忍者隊さ」
甚平は胸を張った。
「ははははは、そうだったな」
ジョーは彼のヘルメットを撫でた。
甚平は何故か赤くなった。
そんな甚平を可愛いと思うジョーであった。
自分にもそんな時代があったのだろうか?
なかったかもしれねぇな、と思う……。
「よし、突入するぞ」
ジョーは健の声に我に返った。
ゴッドフェニックスは鉄のクレーターの中に機首を突っ込ませた。
全員でトップドームへと上がり、カプセルが開いた処で跳躍する。
「この中に例のメカ鉄獣がいる筈だ。探して爆破する。
 場合によってはゴッドフェニックスに戻る必要があるかもしれない。
 竜はこの近くから余り動かないようにしてくれ。  全員メカ鉄獣を発見したら、すぐに連絡を取る事」
「ラジャー」
健の指示で全員が散った。
敵兵がわらわらと現われて来るが、ジョーは構わずにバキ、ボキ、とやっつけて行く。
得意の長い脚での足払いをしておいて、纏めて倒した処に、羽根手裏剣を飛ばした。
正確に命中している事は言うまでもない。
マシンガンがあらぬ方向を向いて咆哮している。
その流れ弾に当たって倒れる敵兵もいた。
「間抜けめ……」
ジョーは呟きながら先を急いだ。
敵兵の中に、ホームベースにスライディングする野球選手のように滑り込んで行き、一気に倒した。
その一瞬後にはジョーだけが立ち上がっている。
それでも襲い掛かって来る新手の敵に、彼は容赦なくパンチやキックを与えて行く。
彼はスリムな身体の割に膂力がある。
その筋肉の発達を見れば解る事だが、繰り出す技は重い物が多い。
敵兵は有無を言わさず倒されて行くのだ。
ジョーのエアガンが唸った。
三日月型キットがワイヤーで飛ばされ、敵兵の顎や腕を打ち砕いて回る。
かなりの衝撃だから、骨が折れるぐらいの怪我は負うだろう。
しかし、死なせる事はない。
危険な武器は羽根手裏剣の方かもしれない。
返しが付いた先端部分。
これが喉元や首筋に入ったら、生命は危険に晒される。
だから、ジョーは出来るだけ手の甲など相手の戦意を喪失させる場所を狙った。
また、エアガンで撃っても相手は死ぬ事はない。
一時的なショックで倒れるだけだ。
しかし、ジョーは心臓を狙った。
中途半端な場所を撃ったのでは、すぐに息を吹き返す可能性があったからだ。
ジョーはまた華麗にぐるりと回った。
長い脚が敵兵を何人も薙ぎ倒して行く。
竜巻ファイターに耐える位だから、三半規管は十二分に発達しており、この程度の事で眼が回る事はない。
敵兵がマシンガンで自分を狙っている事に気付くと、ジョーは跳躍して、天井のパイプに足先だけを引っ掛けて逆さにぶら下がった。
マントが下向きにバサっと下がった。
そのままの状態でエアガンを正確に発射する。
上下逆になっていても、射撃の名手には関係がなかった。
敵兵がまた何人も倒れて行く。
彼が引き金を引いた分だけ。
ジョーはまた床にヒラリと舞い降りて、敵兵の向こう側へと飛んだ。
こんな奴らに構っている暇はない。
植物型メカ鉄獣を探さなければならないのだ。
『諸君!』
闘いの最中に、全員に南部博士からの通信が入った。
『敵のメカ鉄獣は、蔦の表面から特殊な液体を出すらしい。
 それが人々を溶かしていた。
 中和剤を今開発しているが、諸君は充分に気をつけたまえ。
 ゴッドフェニックスでも溶かされる可能性がある』
『ラジャー』
全員の返答がブレスレットから聴こえた。
ジョーは「何てこったい」と呟いた。
『ゴッドフェニックスが溶かされるって事は、俺達のバードスーツも危ない。
 全員必ずメカ鉄獣を見つけたら連絡をしろ。いいな?』
健がブレスレットから話し掛けて来た。
「解ってるよ」
ジョーは投げやりな感じで答えた。
敵兵はまだ周囲に多くいる。
仲間達も多分同様だろう。
しかし、全部を俯瞰して見ると、ジョーの周辺の敵の数は異常に多かった。
勿論、ジョーにはその事は解らない。
「妙に警備が厳重だ…。もしかしてまた俺が当たり籤か?」
そっと呟いた。
だが、仲間達の現状が解らない以上、まだ自己判断は不可能だった。
ジョーは1つの大きな部屋を見つけて、敵兵を倒しながら、そこに転がり込んだ。
そこには大きな亀がいた。
手足を出したり引っ込めたりする穴が10箇所空いている。
そこから蔦がずるずるとジョー目掛けて伸びて来た。
ジョーは咄嗟にジャンプして、天井のパイプに掴まり、バードスクランブルを発信した。
生物と植物を合体させたような見た事もないメカ鉄獣だった。
太い蔦だ。
これに掴まったら、遣られてしまう。
ジョーは素早い動きで、10本の蔦を巧みに避けた。
しかし、蔦の側面には無数の穴がある。
そこから何か得体の知れない液体がプシュっと音を立て、ジョーの方に飛んで来た。
咄嗟にマントで身を守った。
しかし、何と、マントの大部分が溶けてしまった。
Q市では、人間の衣服は残っていた。
それなのにバードスタイルが溶けるとは……。
やはり、普通の衣服の成分とは違うし、変身のメカニズムに関する何かがこの液体に弱いのかもしれない。
これではジョー1人ではどうしようもない。
「竜、ゴッドフェニックスを発進させろ!俺達では太刀打ちできねぇ。
 例の液体を浴びたらマントが溶けた!」
『何だと!?竜、急げっ!ジョーは退避しろ。
 俺達もゴッドフェニックスに戻る事にする』
健の声がした。
「わ…解った」
ジョーは身体にもダメージを負っていた。
意識が朦朧とし始めていた。
健がそれを察知した。
『ジョー、しっかりしろ!俺が助けに行くっ!』
「健……。危険だ…。来ては、行け、ねぇ……」
ジョーはその言葉を最後に崩れ落ちた。
マントだけではない。
背中の一部も溶け始めていた。
どうやらこの特殊な液体は移動するようだ。
「健…。来るな。……おめぇも巻き、込まれる……」
ブレスレットにそう言うのが精一杯だった。
ジョーはついに意識を失ってしまった。
『ジョー!ジョーっ!』
健の呼び掛けにも答えない。
ジョーが危険な眼に遭った事を全員が理解した。
どうやら生命にも関わるようだ。
健は先程バードスクランブルが発信された場所へと急ぎながら、博士に意見を求めた。
『とにかくゴッドフェニックスに戻り、全身にシャワーを浴びせるんだ!
 水勢は最大にしてな。
 マントが溶けたとなると、その液体がジョーの身体にまだ残っているかもしれない』
「では、ジョーの身体は溶けてしまうのですか?」
『解らん。バードスタイルだったので、一般の人々とは違うとは思うが……』
南部博士の声も沈痛だった。
「メカ鉄獣が出て来るかもしれません。
 火の鳥を使いたいのですが、ジョーは大丈夫でしょうか?」
『何とも言えないが、その植物が火に弱いのであれば、ジョーを蝕んでいるその液体も消えてなくなるかもしれない。
 今の処、こちらの分析でも火が一番有効性があるようだ。
 それをするのなら、ジョーの身体にシャワーを浴びせる必要はないだろう』
「解りました。やってみます」
健は悲壮な決意をして答えた。
ジョーの身体が持ち堪えられるかどうかが、彼の心に引っ掛かった。
とにかくジョーを救い出す事だ。
今はそれに集中する事にした。




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