『水源奪回(1)』

科学忍者隊のメンバーはいつものように『スナックジュン』に集まっていた。
竜の前には相変わらず沢山の皿が積まれていて、健とジョーの前にはコーヒーカップだけ。
いつもの光景である。
「此処暫くギャラクターが出て来ていねぇから、今日辺り危ねぇと思うぜ。
 竜、程々にしておけよ」
ジョーが母国語の新聞を開きながら呟くように言った。
「ああん?その為にも腹拵えはしておかないとのう」
竜はサンドウィッチをパクついている。
「そんなに急いで喰わねぇでもいいのによ。その内に噎せ込むぜ」
ジョーが言った瞬間に竜が噎せ込んだので、皆は笑った。
「こんな処でもジョーの勘が利いている。
 本当にそろそろ呼び出しがあるかもしれないぞ」
健が言ったまさにそのタイミングで、全員のブレスレットが鳴った。
『こちら南部。科学忍者隊の諸君、応答せよ』
「こちらG−1号。全員揃っています」
『そうか。至急、全員三日月基地へ集まってくれたまえ』
「ラジャー」
全員が声を揃えて答えた。
ジュンと甚平は店仕舞いを始める。
健とジョーはもう立ち上がっている。
竜だけがまだサンドウィッチを両手に持ち、頬張っていた。
「何やってるんだ、竜!」
ジョーが竜のTシャツの首の部分を後ろから掴んでカウンターから引き剥がした。
竜は恨みがましそうにジョーを見たが、任務の為に仕方がない事だと諦め、それでも手に持てるだけのサンドウィッチはしっかり抱えた。
ジョーはいつものように竜をヨットハーバーまで乗せて行き、そこでG−2号機とG−5号機を合体させて基地まで向かうつもりだった。
だから、竜がいつまでも動かないのでは彼も動けないのだ。
「早くしやがれ」
そう言ったジョーは既に隣のガレージへと走り始めていた。
「ジョー、先に出るぞ」
バイクに跨った健は自宅にしている父親が遺した飛行場まで行ってセスナに乗り換えなければならない。
「おう!後でな」
「竜!すぐに追い掛けるから私も宜しく!」
店の方からジュンがそう言っているのが聴こえた。
G−3号機は海上は走れるが、水中は難しいのだ。

科学忍者隊はすぐさま三日月珊瑚礁の基地へと集合した。
「うむ、今回も早かったな。さすがは科学忍者隊だ。
 さて、今回呼び出したのは……」
南部博士はスクリーンが降りて来るボタンを押した。
そこには地図が映っていた。
地図にはいくつかの地点に赤く×印が付いている。
かなり狭い範囲の地図のようだった。
南部博士は指し棒を持って、説明する。
「アグリカの南部、アマハーラ地方で不審な事件が多発している。その概要はこうだ」
写真が入れ替わった。
「干ばつですか。それでなくても暑い地域なのに…」
健が言った。
画面には枯渇した湖の跡が映っていた。
「このような状況がアマハーラ地方の各地に散見されるのだ。
 まだ全ての水源が枯渇している訳ではない。
 しかし、明らかにおかしい。
 同じ地域でも同時に多発している地域はないのだ」
「つまり選ばれた水源から水が消えていると?」
ジョーが訊いた。
「うむ。その通りだ」
南部博士は渋面を作った。
「自然現象や気象によるものとは考えにくい」
「だとしたらギャラクターしか有り得ませんね」
健が力を込めて言った。
「然様。ギャラクターの仕業に違いあるまい。
 この地方には砂漠が多い。水は人々の財産とも言うべきものなのだ。
 それを何の目的で枯渇させているのか、私には全く想像が出来ない」
「ふ〜ん、南部博士でも解らない事があるのか…」
甚平が呟き、ジュンに窘められている。
「博士、海の潮位はどうなっとるんかいのう?」
竜は漁師の息子だ。
やはり気になるらしい。
「いや、海には変化がない。
 一部地域で川が枯渇しているので、川から流れ込む水が減ってはいるが、それ程の影響はないようだ」
「つまり、こう言う事ですか?ギャラクターは海水…、塩水は興味がない、と」
ジョーが顎に手を当てて言った。
「そう言う事になるだろう」
「枯渇しているのは湖と川、それと写真にもあった砂漠のオアシスですか?」
健が訊いた。
「そうだ。地下で何かを企んでいる事は間違いないのだが、目的が解らない」
「俺達の任務はその目的を突き止めて、ギャラクターの野望を阻止する事ですね」
健は流石にリーダーとして、先を考えている。
「手掛かりを見つけ次第、私に知らせてくれたまえ。
 私も最善を尽くして分析する」
「ラジャー!」
こうして、科学忍者隊はアグリカ南部にあるアマハーラ地方へとゴッドフェニックスで飛び立った。

「これはどこから探ったらいいのか、難しいぞ…」
健はコックピットで腕を組んで考え込んでいた。
「とにかく上から見ていたって仕方がねぇ。
 健と竜には上空からの調査を進めて貰って、俺達はメカ分身してアマハーラ地方の各水源に散ったらどうだ?」
ジョーが言った。
「そうするしかあるまいな」
健の言葉を聴いて、竜は少しホッとした様子だった。
暑い地域を動き回るのは苦手なのだ。
そうして低空飛行のゴッドフェニックスからジョーのG−2号機他全てのメカが分身した。
そこは丁度ほぼ中央に当たる地点だった。
彼らはブレスレットで交信した。
『全員、何か不審な点があればすぐに知らせる事。
 俺はこの地方の東部、ジョーは西部、ジュンは南部、甚平は北部を当たろう』
『ラジャー』
全員がすぐに散った。
ジョーは西に向かって走り始めた。
アマハーラ地方は広大な大地が広がっている。
人はまばらだ。
G−2号機を飛ばしても問題はなかった。
人々は水がない為に、少しでも涼を求めて、自宅内に引き篭っているのである。
既にぐったりしてしまっている人もいた。
公園の噴水に群がっている人々を見た。
まだ水がある水源に人々は列を作った。
ジョーはそんな様子を見て、怒りを露わにした。
「くそぅ。人々の生活を滅茶滅茶にしたばかりか、その生命さえも脅かしやがって…」
失われた水源を奪回しなければならない。
少しでも早く……。
ジョーは額に汗を滲ませていた。
(こんなに暑い地域じゃ、それじゃなくても水は貴重品だ。
 一体、ギャラクターの目的は何なんだ?)
ジョーはその時、突然閃いた事を口にした。
発想の転換である。
「健!ギャラクターの目的が水源を消す事にあるのではなく、別の目的の為に水源が邪魔なのだとしたら?!」
『成る程。それは有り得るぞ』
『流石はジョーね。視点を変えればそう言う事になるわね』
健とジュンの声が聴こえた。
『諸君。アマハーラ地方の地下資源については、公表されていないのだが、私の方で調べてみよう』
会話を聴いていた南部博士の声が入った。
『博士、宜しくお願いします。
 みんな、聴いての通りだ。そっちの観点からも良く探りを入れてくれ』
健が指示を出した。
『ラジャー!』
全員が活路を拓いた思いで、それに答えた。




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