『水源奪回(2)』

西の方面にG−2号機を走らせたジョーは、ふと車を停めた。
妙な感覚に囚われたのである。
「何だかこの集落は異様な雰囲気だな…」
思わず呟いた。
そこに暮らす人々は水に困っている様子はなかった。
だが、人々の眼付きが何とも言えず異様なのである。
それを高速で走るG−2号機の中から見て取るジョーの動体視力も大したものだ。
ジョーの第六感が働き始めていた。
これは村人の姿に身を窶したギャラクターの隊員なのではないだろうか?と、彼は思った。
ジョーは周囲を見回した。
G−2号機を見て、科学忍者隊が来たと気づいているように見える。
(やはりギャラクターか……?)
額から汗が流れ出た。
このまま一旦は気づかぬ振りをして通り過ぎ、夜になったら忍び込もうと考えた。
その間に他の地域を回ってしまおう。
ジョーはこの事を健に報告した。
『解った。気づかれたのなら襲撃を受ける恐れもあるぞ。気をつけろよ、ジョー』
「ああ、解っているさ」
ジョーは軽く受け流した。
恐らくはまだ襲っては来ない。
こちらが何か行動を起こさない限りは……。
ジョーはそのまま怪しい集落を通過した。
人々の眼が彼を追っているように見える。
(間違いねぇな……)
ジョーは確信していた。
この集落で何らかの作戦が始められている。
「竜、レーダーでFG−245地点に水源がないか調べておいてくれ。
 夜になったら忍び込む」
『ラジャー』
ジョーの連絡に竜が明確に答えた。
今、午後の3時だ。
他の地域を回っている間に夜がやって来るに違いない。
彼は慎重に他の地域も巡回した。
水が枯渇して生活に困窮した人々の姿を何度も見た。
G−2号機を見て、助けが来たと勘違いした人もいるようだった。
ジョーはそれを気の毒に思った。
(助けには来たが、水を運んで来た訳じゃねぇんだ。すまねぇな……)
その役目は国連軍がやってくれる事だろう。
今、その手配がなされている筈だった。
ギャラクターの野望によって起こされた干ばつで犠牲を出してはならない。
だが、既にその兆候はあった。
お年寄りや小さい子供達から倒れて行くのだ。
ジョーはそれを身を背けたくなる思いで見詰めた。
どうにもしてやれない。
ペットボトルの水ぐらいはあるが、たった1本の水を出した処で、人々には行き渡らない。
それどころか争奪戦が起こるだろうし、ただ混乱を招くだけな事は解っている。
その点、空から見て回っている健と竜が羨ましかった。
甚平も低空飛行しているかもしれない。
ジュンも辛かろう。
彼女はバイクだから、尚更人々の姿が眼に付く事だろうし、人々に縋られる事もあるかもしれない。
きっと心を痛めているに違いない。
ジョーは思わずブレスレットに向かって、ジュンに言った。
「ジュン、大丈夫か……?」
『見るのも辛い光景ばかりだけど、何とか大丈夫よ。
 それより怪しい集落を見つけたんですって?』
「ああ、夜になったら忍び込んでみるつもりだ」
『他におかしな場所がなかったら、全員で行くわ。
 気をつけてね、ジョー』
「おう、俺は大丈夫さ。さすがに気丈なお嬢さんだな」
『あら、どう言う意味?』
「人々の窮状を見て、もっと堪えているかと思ったからさ」
『ジョーこそ、大丈夫?
 子供やお年寄りが倒れて行く姿を見て、心を痛めているのでしょ?』
「バレてたか」
『当たり前よ。じゃあ、まだ後でね』
ジュンの方から通信を終わりにした。
彼女も堪えているのだ。
ジョーはそう思った。

夜になるまでアマハーラ地方の西地区を隈なく回ったが、他に怪しいと思われる地域はなかった。
健達もジョーが見つけたFG−245地点の集落以外には怪しい点が見つからなかったと言った。
そこで、近くの山の中でゴッドフェニックスに合体してひっそりと集合した。
「ゴッドフェニックスは此処に隠し、忍び込もう。
 ジョーが言ったように、水源はあった。
 竜、スクリーンに映してくれ」
スクリーンには巨大な湖が映し出されたが、まだ豊かな水を湛えていた。
「さっきは気づかねぇ振りをする為にじっくり見られなかったんだが…、相当でかい湖だな」
ジョーが腕を組んで呟いた。
その時、サブスクリーンに南部博士が現われた。
『衛星写真から分析した処、アマハーラ地方には、ある地下資源が大量に眠っている事が解った』
「それは何ですか?」
健が代表して訊ねた。
『プルトニウム239だ。ウラン鉱石の中に僅かに含まれているのだが、それがアマハーラ地方には大量にある』
「メカ鉄獣の武器として使うつもりなのかな?」
甚平が呟いた。
「いや、違う。こんな大規模な事をするからにはもっと壮大な作戦を練っている筈だ。
 そして、必ずあの集落に基地がある」
ジョーの言葉に南部博士も頷いた。
『ジョーの言う通りだ。メカ鉄獣の武器の為だけにこれ程の計画を行なうとは考えにくい。  地球規模を破壊するだけのプルトニウム239が眠っている。
 だからその事を国は公表していなかったのだ』
「成る程、悪用されない為に、と言う事だったんですね…。
 それをギャラクターが嗅ぎ付けてしまった」
健は苦い顔をした。
科学忍者隊全員の身体に、ギャラクターに対する闘志が沸いた。
「何とか計画段階で潰さねぇと大変な事になるぜ」
「ああ、早い処基地を発見して叩いておかなければ。
 そして、博士。水源を奪われた人々の救助作戦はどうなっていますか?」
健が訊いた事も大切な事だった。
『今、国連軍が輸送船にタンクを詰め込む作業を急ピッチで進めている。
 間もなく救援部隊の第1部隊が出発する筈だ』
5人は安堵の溜息をついた。
「これから俺達は問題の集落に忍び込みます。
 ジョーによると、既にギャラクターに支配されているようですから、人々はどこかに纏めて収容されているか、若しくは……、殺されているかもしれません」
健は苦し気に言った。
『うむ。残念だがその可能性はある。
 だが、他の集落でそう言った事が起きていると言う報告は入っていない。
 恐らくその集落に本格的な基地があると言う事は間違いのない事だろう。
 ジョー、良く見つけ出してくれた』
「問題はこれからですよ」
ジョーはクールに答え、大型スクリーンの方の湖を見詰めた。
もう夜なので、水面に月が映ってキラキラと揺らめいている。
しかし、明らかに不自然な照明が湖の周辺に建てられている事が解る。
野外の野球場に建っているような照明だった。
「まず手始めはあの湖だ。夜だと言うのに、あんなに照明を当てているのは如何にもおかしい」
健が言った。
「だが、罠である可能性も否定出来ねぇ。
 昼間俺が通った事は奴らは気づいている。
 俺が気づかぬ振りをして通過したとは言え、警戒はしているだろうよ」
「そうだな。しかし、行くしかあるまい」
「ああ、解ってるぜ。ただ、油断は禁物だと言いてぇだけだ」
「その通りだ。全員心して掛かれ。いいな?」
「ラジャー!」
4人が健に答えた。
そして、いよいよ、トップドームから科学忍者隊の5人はひらりと音もなく跳躍した。
これからどう言った事が起こるのか、全く予想も付かなかった。




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