『水源奪回(3)』

トップドームから飛び降りた5人は警戒して集落に近づいた。
夜中だと言うのに寝静まっていない。
そして、此処の水はまだ枯渇していない事が解っている。
ジョーの言うように、この集落にいる人々の行動はおかしいし、動きが只者ではない。
既にギャラクターと入れ替わっているように思える。
何と言っても子供がいないのが特徴だった。
「ジュン、甚平。この集落の人々がどこかに纏めて捕らわれているかもしれない。
 探して事情を訊いてくれ」
健が指示を出し、2人は小声で「ラジャー」と答えた。
そのままさっと気配を消す。
残った年上組3人はそっと集落へと足を踏み入れた。
「見ろ、あそこに火が熾っている。明らかに怪しいぜ」
「だが、ジョー。お前が言うように罠かもしれないぞ」
「しかし、行く以外に手はあるめぇよ」
「そうだな」
「一体何をする気じゃろうて…?」
「博士が調べてくれたように、プルトニウム239を夜な夜な掘り出しているんだろうぜ」
ジョーは吐き出すように言った。
見てみると、湖らしき巨大な穴が姿を表わした。
水は既に枯渇している。
そこに重機が置かれて作業がなされている様子だった。
「罠でも構わん。あの場所でプルトニウム239を掘り出している事は間違いがないんだ。
 行くしかあるまい。竜はゴッドフェニックスに戻っていろ」
「何じゃと?」
健の言葉に竜は思わず大声を出してしまった。
健とジョーから「シーっ」と注意されるまで、彼が自分が大声を出した事にも気付かなかった。
「俺達に何かあった時にはゴッドフェニックスで突っ込んでくれ。解ったな、竜」
それには健の悲痛な程の覚悟が見て取れた。
「健…。ジョー…」
竜は2人を見回した。
「解った。気ぃつけて行けや」
竜はヒラリとゴッドフェニックスのトップドームへ戻った。
「ジョー、大丈夫か?」
「何がだ?」
「戦力を分散したが、大丈夫かと訊いている」
「愚問だな…」
ジョーはニヤリと笑った。
それが答えだった…。
健もニヤリと返した。
「じゃあ、行くとしよう」
健が先に立った。
ジョーは後方を気遣いながら、健の後ろを進む。
健と一緒なら任せられた。
2人の身体能力は伯仲していたし、判断力も同様だった。
ただ、リーダーとしての資質は明らかに健の方が優っていただけだ。
ジョーは自分にリーダーの資質などない事は充分に承知していたから、健の立場を羨んだりした事はない。
却って自由に動けるサブリーダーと言う立場に満足していた。
「ジョー。あそこを見ろ」
健が言った時にはジョーの視線は既にそこに釘付けだった。
「掘削機を使って大規模に掘り出してやがる」
掘削機の周辺にはトラックが並んで、輸送機でもあるかと思ったが、何もなかった。
「つまりは地下から運び出すと言う寸法か…」
ジョーは唸るように呟いた。
「地下には大規模な基地が出来ていると言う事になるな」
健も言った。
「地下への入口を探そう」
「おう」
2人はバラバラになって動き始めた。
森の木を伐採したような跡があり、そこに掘削場が作られていた。
秘密の出入り口は森の中にある、と言うのがジョーの勘だった。
やがて、森の中に不自然に岩をくり抜いたような場所がある事に気がついた。
そこにはご丁寧にギャラクターの隊員が2人、マシンガンを持って警備に就いていた。
「あったぜ、健……」
『こっちもだ…』
どうやら出入り口は複数あったらしい。
『お互いこの場から突入しよう。中で逢おうぜ。無事でいろよ、ジョー』
「当たりめぇだ。その言葉そのままおめぇに返す」
『解ったぜ。行くぞ、ジョー!』
「おうっ!」
2人は通信を切って、早速乗り込む事にした。
勿論、警備の隊員はあっと言う間に叩きのめされている。
ジョーは生き生きと働いた。
こいつら1人1人を倒して行く事が、いつか自分の本懐を遂げる日に繋がるのだ。
羽根手裏剣で鼻を明かし、エアガンの三日月型キットでジョーは敵の顎を砕いて行く。
お得意のパターンだ。
長い脚が華麗に舞った。
ジョーが1回転すると、敵兵がドドっと一気に倒れて行った。
そのままではジョーは停まらない。
長いリーチで敵の顎を捉えてぶっ飛ばす。
それでも、足りずに別の隊員の動きを封じる為に羽根手裏剣を飛ばしておき、その間に眼の前の隊員の鳩尾に重いパンチを繰り入れている。
捻りが入っているから相当に痛む筈だ。
敵は一瞬の内に崩れ落ちた。
少しのマシンガンの弾丸ぐらいは、マントが防いでくれた。
ジョーは1人の隊員に膝蹴りを入れて、そのまましゃがみ込み、その姿勢のままで脚を繰り出した。
敵兵の足払いをしたのだ。
不安定な体制からそれが繰り出せるジョーの身体能力はやはり優れていると言わざるを得ない。
次の瞬間には跳ねるように立ち上がっていた。
敵と闘っている間には、既に次の敵を見定めているのが彼のいつもの手段だった。
だから、行動に無駄がない。
健も今頃同様に闘っている事だろう。
ジョーはリーダーである健に嫉妬心は全く持っていない。
自分がリーダーの器でないと言う事は百も承知だ。
この2人はぶつかる事もあったが、互いの力を認め合っている。
だから、今も無事に進んでいるものとお互いに信じているのだ。
彼なら大丈夫…。
そんな気持ちが信念として必ずあった。
健に負けない働きをしよう、とは思っていたが、それは決してライバル心ではない、と自分では思っていた。
健も恐らくは解ってくれている事だろう。
ジョーは敵のマシンガンに向けてエアガンを撃ち放した。
敵兵のマシンガンが弾き飛ばされ、あらぬ方向に咆哮を始めた。
敵兵には混乱が起きていた。
とにかくどんどんと中枢部に進む事だ。
掘削機が掘り出した地下資源はこの地下基地へとプールされている筈だ。
此処からどこかへ運び出す手筈になっている筈だ。
『健、ジョー、聴こえる?集落の人々は、ギャラクターに公民館に軟禁されていたわ。
 1週間前に突如集落毎ギャラクターに乗っ取られたと言っているわ。
 この集落にある湖もそれから涸らされたと言っている』
『解った。人々を安全な場所に…、そうだ、山の上にでも集めてくれ』
『ラジャー』
ジュンの答えは明確だった。
彼女に任せておれば抜かりはあるまい。
『ジョー、聴こえたか?』
「ああ、はっきり聴こえたぜ。取り敢えず集落の人々が無事なようで良かった。
 後は此処の人々、そしてアマハーラ地方の全ての人々の為に水源を奪回してやる事だ」
『勿論、プルトニウム239を取り返す事もな』
「この地域の人々にはプルトニウム239なんて物は要らねぇんだ。
 国際科学技術庁で買い取ってやる方がこの地域の人々には何倍も役に立つ」
『それは南部博士が考えるさ。俺達は任務の事だけを考えればいい』
「おっとすまねぇ。余計な事を考えちまった。
 地上からこの地方の人々の窮状を散々見ちまったもんでな」
『気持ちは解るぜ。ジョー。とにかく急ごう』
「ラジャー!」
ジョーは答えながら、敵兵の腰にしこたま強い膝蹴りをお見舞いしていた。
敵兵の腰がそのままぐにゃりとこんにゃくのように歪んだ気がする。
男は立ち上がれなくなった。
新手が現われたが、ジョーは気力が充実していた。
こんな時の彼は無敵である。
「うおりゃ〜っ!」
と叫びながら、敵兵の渦へと自ら飛び込んで行った。
羽根手裏剣が華麗に舞っていた。
それは見事に1本の無駄もなく敵兵の手の甲を抉り、喉元を突き破っていた。
敵兵が苦悶している間に、ジョーは先を急いだ。




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