『水源奪回(6)/終章』

「ジョーっ!!」
健は思わず持ち場を離れた。
その場所が手薄になったのに気づいて、ジュンはカバーに入った。
ジョーは一体どうなったのか、瓦礫に埋もれて姿が見えない。
「まさか…ジョー……」
健が暗然と呟いた時に、瓦礫の中からひょっこりと紺色の手袋が出て来た。
「危なかったぜ……」
「ジョー!」
「この俺がそう簡単にやられるかよ?」
ジョーは瓦礫の中から完全に立ち上がり、汚れを払った。
「怪我は?」
「爆発の衝撃で頭がグラグラするが、そんな処だ。
 他に異常は感じねぇぜ」
「無理をするな。後は俺達で進める」
「そうは行くか!」
その言葉はもう健の隣からは聴こえなかった。
ジョーは既に飛び出していた。
敵兵に見事な蹴りをお見舞いしている。
「ジョー、大丈夫なの?」
「ああ、心配するな!」
ジョーはジュンにニヤリと笑って見せた。
健はホッとして任務に戻った。
心配掛けやがって。後でお灸を据えてやらないとな。
そう思ってから、健はジョーが何故危険な任務に進んで臨んでいるかと言う事に改めて気づいた。
リーダーである自分を任務に専念させる為。
解っている筈ではないか。
でも、こうしてジョーが危ない眼に遭う度に気が気ではならない。
生命が縮まる思いがする。
将来自分が長生きしなかったら、ジョーのせいだぞ、と冗談めいた事を思いながら、健はジョーの闘い振りを見ていた。
いつもと変わりない。
見事な闘い振りだ。
頭がクラクラすると言っていたが、この調子なら大丈夫だろう。
このジョーの眩暈が病気から来ている事など、本人すら知らない事実だった。
その病気が彼の将来を変えるとはまだ誰も知らない…。
ジョーは羽根手裏剣を華麗に飛ばし、周囲の敵兵の戦力を一気に薙ぎ払っている。
エアガンも冴えている。
三日月型キットで敵兵の顎を砕いて回るその行動もいつものパターンだった。
そして、ジョーは倒立し、敵兵の首を両足で挟み込み、「でやーっ」と叫びながら敵の渦の中に投げ飛ばした。
健はジョーの様子を観察する事をやめ、自分も闘いに専念した。
作業をする敵兵の数は減って来ている。
「竜、運び出す為の通路は見つかったか?」
健は上空からずっと探っている竜に通信をした。
『ああ、あったぞい。だが、バードミサイルを使えないんじゃどうする?』
竜の言う事は尤もだった。
『それからのう。水源は別の場所にパイプで吸い上げられているだけだぞい。
 元に戻す事は簡単じゃわい』
「採掘場とその通路毎、山崩れを起こして潰しちまうしかねぇな」
ジョーが呟いた。
「この集落の人々の湖は別の場所に掘って貰って、そこにパイプで吸い上げられた水を流せばいいだろう。
 薄情なようだが、仕方がねぇ」
ジョーが言っている事は止むを得ない処置だろう。
彼の悔しさはその言葉から解る。
掘り出されたプルトニウム239も一緒に埋め込んでしまうのだ。
人々も納得してくれるに違いない。
健はジョーの意見を南部博士に報告した。
『仕方のない事だろう。
 集落の人は安全な場所に避難させたのだな?』
健は博士の言葉を聴いて、ジュンと甚平を見た。
2人とも黙って頷いた。
「ジュンと甚平が避難を済ませています」
『解った。諸君はゴッドフェニックスに戻り、その周辺の山脈に超バードミサイルを低出力にして撃ち込むのだ』
「ラジャー」
『低出力だぞ。忘れるな』
「解っています」
プルトニウムに影響があっては困るのだ。
健もその事ぐらいは解っている。
全員がゴッドフェニックスのトップドームへと跳躍した。
その時、ジョーが少しだけふらついたのに気づいた健は嫌な予感を覚えた。
しかし、それも一瞬の事でその後のジョーの様子に変わりはなかった。
健は気を取り直して、自席へと着いた。
南部博士がサブスクリーンに現われ、どの地点を撃ったら効率が良く、また被害が少ないかを計算したと言った。
その通りにバードミサイルを撃ち込むしかなかった。
超バードミサイルは火薬の量を調節する事が出来る。
それに関する指示も出た。
ジョーは鉄獣相手でないとやる気が出なかったが、それでも一番狙いが正確だと言う事で、彼が赤いボタンの前に立った。
健の見る限り、もうふらつきはないようだ。
「竜、もう少し上昇してくれ」
「解った!」
ゴッドフェニックスは急上昇した。
「そのまま機首を傾らかに下に向けて停止してくれ」
難しい体勢だが、竜はその通りにゴッドフェニックスを空中停止させた。
「行くぜ!」
ジョーは超バードミサイルを2発続けて発射した。
左右の山脈が崩れて行く。
迫力のある映画を観ているようだが、これは実際の姿だ。
「仕方がない事とは言え、この手で緑を破壊しちまったな」
ジョーはもう興味がなくなったかのような態度でふてぶてしくレーダー席に戻った。
もう自分のする事はない、と言った感じだった。
敵の隊長は手強かった。
途中でロボットだと気づいたが、もう少しで爆発に巻き込まれて自分も死んでしまう処だった。
変な眩暈が残っているのが気になったが、気にしない事にしている内にその存在を忘れた。
眩暈が起こるのはこれが初めてではなかった。

これで科学忍者隊としての任務は終わった。
後は水源の問題だが、科学忍者隊が奪回したので、ISOが元に戻すだけだった。
5人はゴッドフェニックスを降り、その土木作業をじっと見下ろしていた。
「これでアマハーラ地方の人々も水源を確保して、平和に暮らせるな」
健が呟いた。
「また、ギャラクターがプルトニウムを狙って来る事さえなければな」
ジョーは余計な事を口走った、と思った。
だが、それは彼の本心だった。
誰もジョーを窘めなかった。
ただ黙って作業を見つめていた。
「ギャラクターを野放しにしていると碌な事ぁねぇ。
 早くこっちから仕掛けて行くようにしねぇと、またこう言った悲劇は起こるぜ。
 実際に水不足で亡くなっている人もいるんだ」
ジョーは悔しさを隠し切れなかった。
またギャラクターの野望によって、犠牲者が出て、自分のような子供が増える。
彼にとってその事程、辛い事はこの世の中にはないのである。
健がそっとジョーの肩を叩いた。
その手は暖かかった。
その上にジュンが手を重ねた。
甚平が背伸びをし、更に竜が同じように手を重ねた。
ジョーは何か堪らない気持ちになった。
「ジョー、お前の言う通りだ。俺達はいつも後手後手に回っている。
 これからはもっと諜報活動に力を入れなくてはならん。
 元々俺達はギャラクターの本部を突き止める為に結成されたんだからな」
健が前を向いたままで言った。
全員が頷いた。
「やりましょう。私達にしか出来ない事だもの」
「おいらもやるぜ。ジョーの兄貴の気持ちは良く解るもん」
「そうじゃ。おら達は5人で1人じゃ」
ジョーは泣きたくなっていた。
体調の不調からも起因しているかもしれないが、最近、何故かこの仲間達と長くは共にいられない気がしているのだ。
「ああ、やろうぜ。俺達の力で」
ジョーは上を向いた。
夜中から始まった潜入任務だったが、何時の間にか昼の日差しが彼らに降り注いでいた。
「さて、誰かさんが腹が減ったと喚き出す前に帰るとするか」
ジョーは悪戯っぽく笑った。
竜が困ったような顔をした。




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