『見えない物を補うのは』

バイザーにヒビが入る程の爆風を受けたのは、敵基地の中だった。
眼の前で爆発が起きた時、まさに敵と肉弾戦を繰り広げていた為、避けるのが一瞬遅れてしまったのだ。
「うっ…!眼が!」
バイザーにヒビが入った事で、ジョーは眼に直接その爆風を受けてしまった。
「くそぅ!」
『ジョー、早く脱出しろ!どうやらこの基地の自爆装置が作動したようだ』
ブレスレットから健の声が聞こえて来た。
「すまねぇ。脱出は無理かもしれねぇ。出来る処まではやってみるが…」
『どうしたんだ?ジョー!どこにいる?』
「機関室の中だ。爆風で眼をやられた。一時的な物だろうが、今は全く何も見えねぇ。
 位置関係は大体把握しているが、もし俺が間に合わなかったら、構わず捨て置いてくれ」
『ジョー!』
他の4人の声が聞こえた。
ジョーはとにかく自分が侵入して来た方角を探そうと、手探りをした。
まずは壁に触れる事。
それからこの部屋の出入口を見つける事。
出入口さえ見つければ、後は通路を探りながら歩けるだろう。
爆風で部屋が熱くなっている。
(とにかく早くこの部屋から…)
ジョーは何とかそこを探り当て、気配を窺いながら通路へと出た。
その時殺気を感じた。
その方向へと素早く羽根手裏剣を飛ばす。
「うっ!」と低い声がして、敵兵が斃れる音がした。
「暗闇での戦闘訓練をしておいた甲斐があったぜ」
ジョーは呟くと右手にエアガン、唇に羽根手裏剣を咥え、左手で壁を探った。
出入口を出たら、脱出口は右方向の筈だ。
『ジョー!今、そっちに向かっている。待っていろ!』
健の心強い声が聞こえた。
「捨て置け、と言った筈だぞ!お前はリーダーだ。まず自分の身を確保しろ!」
ブレスレットに怒鳴りつけ、ジョーは前へと進んだ。

通路には所々途切れる場所があった。
彼が進もうとしている方向に向かって、左右にも通路が伸びているのだ。
侵入して来た時に、その事は解っている。
逃げ出そうと右往左往している敵兵と出くわす事は容易に想像が出来た。
(眼が見えねぇ事を気取られてはならねぇ!)
ジョーは唇を強く噛み締め、十字路となっている部分へ足を踏み入れた。
視力以外の五感を研ぎ澄ます。
敵兵が走って近づいて来ているのが解った。
足音は2人分だ。
ジョーがエアガンを前方に向けると、敵も銃を構えたのが気配で解った。
躊躇わずに引き金を引く。
1発、2発…。
的確に仕留めた。
その時、彼は別の研ぎ澄まされた戦士の気配に気付いてエアガンをそちらに向けた。
ジョーの肩から力が抜けた。
「健、だな?」
「ああ、眼が見えないのに的確に敵を倒すとはさすがだぜ、ジョー。とにかく急ごう」
健がジョーの右手を取って疾風(はやて)のように走り出した。
敵の襲撃を受けないとは限らない。
この場合、健がすぐに攻撃に転ずる事が出来るよう、右手を空けておく必要があった。
ジョーはエアガンを腰に仕舞っていたが、羽根手裏剣を左手に3本持っていた。
左手でも放てるように訓練はしてある。
……眼が見えないからと言って健の速さに付いて行けない彼ではない。
爆音が響く中を数分間走った。
「ジョー、出口だ。ゴッドフェニックスまで跳ぶぞ!」
「おう!」
ジョーは健の手に導かれながら跳躍した。

「すまんな、健。世話を掛けちまった…」
ゴッドフェニックスの定位置に落ち着くとジョーが言った。
「いや。バイザーにヒビが入るなんて、相当の打撃を受けた筈だ。怪我はないのか?」
「ジョーの兄貴ィ…」
「ジョー…」
皆が心配そうに自分を取り囲んでいるのが解る。
「やられたのは眼だけだと思うぜ。でも心配ない。爆風の影響を受けただけだ。
 眼に傷があるようには感じねぇ…」
ジョーはそう言って、閉じていた瞳を開けてみる。
やはり、まだ何も見えない。
暗闇の中だ。
「ジョーの兄貴、全然見えないのかい?」
甚平が不安そうな声を出した。
その時、前方スクリーンに南部博士の姿が映った。
『諸君、ご苦労だった』
「博士ぇ!ジョーの兄貴が眼を…」
『何?』
「爆風でやられただけですよ。傷はありません」
ジョーがスクリーンではなく、見えないレーダーの方向を向いたまま答えた。
「博士。それとジョーのバイザーにヒビが入りました」
健はその事の報告も忘れない。
『何?それは由々しき問題だ。とにかくすぐに帰還したまえ。
 ジョーがそう言うのなら、恐らくは視力の喪失は一時的な物だとは思うが、精密検査をする必要がある。
 バイザーの強化も考えんと行かんな』
「ラジャー!」
美しい夕焼けの中をゴッドフェニックスは基地へと急いだ。
今、この夕焼けはジョーの眼には見えないが、彼の眼はすぐに光を取り戻す事だろう。




inserted by FC2 system