『海が枯渇する恐怖(1)』

ジョーはサーキットを気分良く爽快に走っていた。
平日だからか、誰もコースに出ていない。
彼1人の為にあるようなコースだった。
此処にレーサーとして通っている人間には本職があるケースが多い。
殆どの場合、レーサーとしてだけでは食べる事が出来ないのだ。
ジョー程の優勝経験があれば別だが、そうではない者も多い。
そのジョーでも、本職は別にある。
呼び出しがあれば、レース中だろうと放棄して出動しなければならないのだ。
だから、レースに完全には集中する事が出来ない。
彼にとってはギャラクターを斃す事の方が重要な事でもあるから、仕方がない、と今は諦めている。
でも、年齢的に間に合う間に、ギャラクターを殲滅したいと言う焦りはあった。
両親の仇、復讐心だけで突き動かされていると言う訳でもなかったのだ。
コースを走っている時に、呼び出しがあった。
レース中でなくて良かった。
『こちら南部。科学忍者隊の諸君、至急T−267地点にて合流せよ』
「ラジャー」
ジョーは返事をしておいて、周囲を見回し、変身した。
それと同時に蒼いストックカーがスポーツカー型マシンへと変化して行く。
直接現場へ行け、と命令される時は今現在ギャラクターが暴れていると言う事だ。
竜と連絡を取り、合流地点を決めた。

科学忍者隊が全員ゴッドフェニックスに集合すると、それを見計らったかのように、南部博士がサブスクリーンに登場した。
「T−267地点と言えば、アラボア王国の油田がある地点では?」
ゴッドフェニックスのスクリーンには既にその地図が表示され、竜は計器飛行していた。
『その通りだ。ギャラクターは油田を爆発させまくっている。
 狙いはまだ解らん。油田自体の破壊が目的か、それとも何か、資源を狙っているのか…?』
「博士、可能性があるとしたら後者なのではありませんか?」
健が訊いた。
『いや、それなら油田を爆発させたりはすまい……』
博士は苦渋の表情を見せていた。
『この地域の資源と言えば、油田だからな。だから何故破壊行為をするのか悩んでいる』
「他に地下資源はないのですか?」
ジョーが訊ねた。
油田が狙いではないとしたら、そう言った事も考えられる。
『現時点では確認出来ていない』
「或いは油田のエネルギーをメカ鉄獣に吸収させているとか言う事は?」
ジョーはなかなか鋭い処を突いている、と博士は思った。
『確かに今回のメカ鉄獣はどうも油田を空や外から攻撃しているのではなく、油田の中に自ら入って攻撃をしている。
 ジョーの言う事は否定出来ないぞ』
「だとしたら、途轍もないエネルギーを持ったメカ鉄獣と言う事になりますね」
健が腕を組んだ。
「そろそろ、問題の油田が見えて来たぞいっ。
 有視界飛行に切り替える」
竜が叫んだ。
悲惨な程に燃え盛る油田が眼に飛び込んで来た。
「酷いわ……」
ジュンが眼を覆った。
「あそこで働いている人達の避難は終わったの?」
甚平が博士に訊いたが、博士は俯いて首を振った。
「くそぅ……」
計器でもバンっと叩きそうな位、ジョーはいきり立っていた。
「奴らは人の生命を何とも思ってねぇのか?」
「思ってないさ。そう言う教育をされているんだ。
 ベルク・カッツェの野郎にな…」
健が呟いた。
健も最近、父親をベルク・カッツェの陰謀で殺されたので、言う事が辛辣になって来ている。
「博士、油田の温度はどの位ですかね?
 ゴッドフェニックスで耐えられますか?」
ジョーが冷静に訊いた。
『多分、大丈夫だとは思うが、被害を拡大する事になりはしまいか……』
博士は頭を抱えた。
「そうかもしれませんが、だとすれば上空に誘き寄せるしか手はないでしょう」
ジョーが言った事に、健が反応した。
「ジョー、その通りだ。俺達が上空に奴らを引き寄せればいいんだ」
「成る程ね」
ジョーは小さく呟いた。
肯定の意味だ。
「竜、180度旋回!敵の周りを煽るように飛べ!」
健の命令が飛んだ。
「ラジャー」
竜は旋回して、誘うようにメカ鉄獣の上空を飛んだ。
メカ鉄獣は飛び上がって来ない。
「まさか、飛べねぇんじゃねぇだろうな!?」
ジョーが叫んだ。
「そうなのかもしれない。まだエネルギー不足なのか?」
健は浮き足立っていた。
「竜、スクリーンに奴の様子を拡大してくれっ」
ジョーが言った。
「よっしゃ」
すぐに拡大画面が表示され、竜は計器飛行に移った。
何か弱点はないのか…。
ジョーの眼は皿のようになっている。
「奴ら、油田の火を口から飲んでいるぞ」
ジョーが言った。
健も同じように感じ取ったようだ。
「火をエネルギーとするメカ鉄獣って事か…」
「脚の方は手薄だな……」
ジョーは呟いた。
「見ろ。人間で言うウエストの辺りに隙間があるだろう?
 あそこが乗り込み口の1つになっているとは考えられねぇか?」
「そうも見えるわね。頭からは入れない以上、あそこを狙うしかないって事ね」
ジュンも答えた。
「下肢から登るしかねぇ」
ジョーは言い切った。
「そうだな…」
健も頷いた。
「それしかあるまい。竜はゴッドフェニックスに残って、敵の眼を引いていろ。
 俺達は全員で、足から登り、中へと潜入する」
「中は紅蓮の炎から知れんぞ。危険じゃわい」
竜が心配した。
「だが、他に方法はあるか?あるなら言ってみろ」
健は厳しい声を出した。
竜は黙り込んだ。
代替え案などなかった。
「ジュン、甚平、覚悟はいいな?」
健はジョーには訊かなかった。
彼には当然覚悟があるものと理解しているからだ。
「大丈夫よ」
「おいらも」
甚平はちょっと身震いしていたが、ジョーがその頭をそっと撫でた。
「大丈夫さ、甚平」
「うん、おいら、怖くなんかないよ」
「よし、まずは地上に降りよう」
健の指示で4人はゴッドフェニックスのトップドームから跳躍した。
地上は思った以上に酷かった。
パイプは踏み潰され、そこから原油が激しく飛び散っている。
「原油を浴びねぇように気をつけろ」
ジョーは甚平にそっと言った。
メカ鉄獣は以前映画で観せられたゴジラのようだった。
背中にはヒレがあり、尻尾もあった。
「あのヒレに捕まれば登り易そうだな」
健がそう言ったが、ジョーが否定した。
「あれには何か罠があるに違いねぇ。脚の前側から登るのが一番だと思うぜ」
ジョーの勘の鋭さは全員が身に沁みて知っている。
「解ったよ、ジョー。表側から行こう」
健は力強く頷いた。
これから起こる事は全く想像が出来なかった。
ただ、メカ鉄獣の中は灼熱地獄だと覚悟はしなければならなかった。
「みんな、いいな?行くぞっ!」
健が最初に登り始めた。
その後にジュン、甚平と続き、ジョーは殿(しんがり)を務めた。
何が起こるか解らない。
彼は様々な事を警戒していた。




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