『海が枯渇する恐怖(3)』

ゴッドフェニックスはすぐさま改造工程に移った。
科学忍者隊は基地内のカフェで時間を潰すしかなく、全員の心にイライラが募っていた。
「一体何時間掛かるんだ?その間にまた何処かの油田が攻撃されるぞ」
ジョーは焦りを思わず口にした。
皆、言葉にしないだけで、思いは同じである。
「ジョー、解ってはいるが、今は待つしかないんだ。
 博士の作戦に賭けよう」
健が宥めるように言った。
「国際警察の情報は本当なんだろうな?」
「まあ、ジョーったら、藪原さんとは旧知の仲なんでしょ?」
ジュンが眼を丸くした。
「それとこれとは話が違う」
「でも、ISOの情報部員からも同じ情報があったと博士は言っていた…」
健が呟いた。
「海を枯らすなんて事が出来るのかなぁ?
 おいら、信じられないなぁ」
甚平が両頬を手で支えながら、憂鬱そうな声を出した。
「恐ろしい事じゃわい。ギャラクターならきっとやりよる」
竜は怒りを露わにしていた。
漁師の息子だ。無理もない。
「地球は壊滅同然だぞ。そんな事をしてまで地球と言う星を手に入れて、どうするつもりなんだ?
 俺には皆目解らねぇ!」
ジョーが叩き付けるように言った。
「みんな、ちょっと声を抑えましょう。
 落ち着いて頂戴。
 私達が科学忍者隊だと言っているようなものよ」
ジュンの言う事は確かに正しかった。
ジョーは気不味そうに押し黙った。
「だがな。作戦は俺に一任されたようなものだ。
 地上から特殊弾でゴッドフェニックスにぶら下げられたゴジラ型のメカ鉄獣を撃つってよ。
 どんなに無謀な事か解るか?
 ゴッドフェニックスに危害が及ぶかもしれねぇんだぜ」
ジョーは声を潜めてそう言った。
彼は仲間達の事を心配しているのである。
作戦を急ぎたい気持ちとは相反しているが、どちらも本当の彼の気持ちだった。
「藪原警視殿の情報は確かなのかもしれねぇが、他に方法はねぇのか?」
ジョーの焦りは尤もだと言えるだろう。
彼の事だから、的を外す事はない。
だが、あれだけのメカ鉄獣を5体も同じ方法で倒す事は、無謀極まりない。
「仕方がないだろう。飛べないメカ鉄獣が相手だ。
 油田から引き離すには、ゴッドフェニックスに触手を付けるのが一番だろう。
 だが、敵を地上に下ろす事は出来るぜ」
健が笑ってみせた。
「だが、その時は俺はゴッドフェニックスから分離しているぜ」
「すぐに合体すればいいのさ」
健は事も無げに言った。
彼にだって本当はそんな事をしている余裕があるかどうか解ってはいない。
しかし、ジョーの思いは存分に伝わっている。
「それにな。博士だって、特殊弾の威力の調整は考えている筈だ。
 或いはゴッドフェニックスに何か加工を施し、特殊弾の被害を防ぐようにするだろう」
「成る程。博士の事だ。それは有り得るな」
ジョーも漸く納得した。
『諸君。藪原警視からの情報だ。
 次にギャラクターが狙っている油田が解った』
南部博士からブレスレットに通信が入った。
「解りました。取り敢えず司令室に戻ります」
健が答え、全員がサッと音もさせずに席を立った。

「アラボア王国の次はどこですか?博士!」
意気込んだジョーに、博士は「落ち着け」と言った。
「まだ、ゴッドフェニックスの改造は完成していないのだ。
 今からきちんと伝えるから、そう焦るものではない」
「でも、いつギャラクターが攻撃を仕掛けるか解らないじゃありませんか?」
健が訊いた。
「今の処、その気配はないそうだ」
「何でそんな事が解るんですか?」
ジョーが言った。
「ジョーは知らなかったのだろうが、藪原警視はプロファイリングのプロだ。
 彼の計算によると、次の攻撃は明日の現地時間早朝だと言う事だ」
博士はスクリーンを降下させ、地図を映し出した。
「此処はサラジン国の油田だ。
 現地時間の早朝と言うと、こちらの時間では今夜零時過ぎ。
 その時間の現地の天気予報によると台風が来ているそうだ」
「そんな中でどうして攻撃を仕掛けるんですか?」
健が訊いた。
「藪原警視によると、最初のアラボア王国は見せしめだった。
 だが、今回からはギャラクターは本気だと言う。
 人々が台風に気を取られている間に、攻撃を仕掛けると言うのだ」
「それは信じてもいいんですか?」
ジョーはまたぶっきらぼうになった。
『ヤブ』と呼んで親しんだ仲だが、ギャラクターの事となると、彼も慎重になる。
「藪原警視は、若いが実績を積んでいる。
 東京大学を出て、国際警察に入った。
 所謂『キャリア組』なのは、知っているだろう。
 とても優秀な捜査官だ」
「つまりは俺達とは此処の出来が違うと?」
ジョーは自分の頭を指差した。
「ジョー、言い過ぎよ」
ジュンがジョーを窘めた。
ジョーはまた苦虫を噛み潰したような顔で押し黙った。
「解りました、博士。それまでにゴッドフェニックスの改造と、特殊弾の開発は間に合うのですか?」
健が言った。
「間に合わせる。何としても…」
博士が拳を握り締めた。
「諸君は一旦帰宅して、それまで休息を取りたまえ。
 今夜から活躍して貰わなければならないからな」
そう言うと、博士は忙しそうな背中を見せて、出て行った。
「博士は休む暇がないのにな…」
ジョーは吐き捨てるように呟いた。

ジョーはトレーラーハウスで作戦を練っていた。
健が言うように、ゴッドフェニックスへの特殊弾対策は博士がしてくれているだろう。
だが、地上からG−2号機でどうやって狙撃したら良いのか?
博士の言うように高い山脈から狙い撃ちするしか考えられなかった。
油田の周辺は地形として平らな場所が多かった。
危険地域なので、山を切り拓いて作られたのだろう。
ジョーはトレーラーハウスで地図帳を繰った。
サラジン国の油田の周囲を指で辿って、山脈を探す。
「狙うとしたら、此処しかねぇな」
指がピタリと止まって、ジョーはその場所を叩いた。
「或いは……」
彼はそこまで言って、言葉を呑み込んだ。
(危険だが、油田の建物にG−2号機の機首を乗り上げる…)
それが出来るのかは油田の写真を実際に見てみないと解らない。
ジョーは集合時間よりも早く、基地に行く事にした。
1人司令室で、油田の写真を見て研究する。
360度回転して見られるような映像になっていた。
ジョーはそれを全て頭に叩き込んだ。
計画通りに行くとは限らない。
その時は……。
そう考えたのである。
そして、科学忍者隊は夜11時に基地へと集合した。
他のメンバーは眠って鋭気を養ったようだ。
眠っていないのはジョーだけだった。
科学忍者隊としては、他のメンバーの方が正しい行動を取ったと言えるだろう。
だが、特殊弾の射手は彼なのである。
一晩ぐらい寝なくたって大した事はない。
ジョーは不敵な笑みを浮かべていた。
健がそれを見て、全てを悟った。
「ジョー、お前、休まずに作戦を練っていたな?」
「まあな。少なくともサラジン国の油田では、何とかなりそうだぜ」
「随分自信ありげだな」
健が笑った。




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