『海が枯渇する恐怖(4)』

科学忍者隊は直ちにサラジン国の油田へと向かった。
ジョーはスクリーンに映る油田をじっと睨みつけている。
まだメカ鉄獣は現われていない。
夜明けは間もなくだ。
ゴッドフェニックスは現地の遥か上空で待機している。
大気が不安定で、既に現地では風雨が激しくなって来ていた。
スクリーンにアップにすると、警戒している職員がちらほらいるようだが、その中に藪原達『ギャラクター特捜班』の面々が混じっているのが解った。
顔まではハッキリとは見えなかったが、その長身と体型でジョーには藪原の見分けが付いたのである。
「ヤブの奴、あんな危険な処で何をしやがってる!」
ジョーはいきなり叫んだ。
「えっ?あそこに藪原警視がいるのか?」
健が訊く。
「いる。その部下も油田の職員に混じって警戒に当たっている」
『心配するな』
その時、とうの藪原から通信が入った。
『施設の職員は全員避難させた。
 此処にいるのは国際警察の人間ばかりだ』
「あんたが現場の指揮を執っているのか?」
『そうだ』
「なら、早く逃げろ。その場所が修羅場になったら、爆発に巻き込まれて死ぬぞ!」
『ジョー、心配してくれるのは嬉しいが、これは我々の任務だ』
「上からの命令って事か?」
『それもあるが、それだけじゃない』
「あんたがやりてぇのは良く解る。
 でも、あんたの配下に付いている人間達にも家族がいるんだぜ」
『部下の生命を預かっている事は重々承知している。
 いいから、メカ鉄獣が来ないかちゃんと見張っていてくれ』
無線は一方的に切れていた。
「くそぅ。危ねぇって忠告してやったのに…。
 それに俺の作戦の邪魔になるかもしれねぇ」
「ジョー。お前の作戦は聴いたが、あの人達もプロだ。
 いざとなったら自分の身は守るだろう」
健が腕組みをしながら言った。
「ジョーったら、強がりを言っているけど、本当は藪原警視の事が心配なのね」
今回はジュンにしてやられてばかりだ。
ジョーは不満そうに唇を曲げた。
「へっ!別にそんなつもりはねぇよ」
「相変わらず強情だな」
健が笑った。
「北東方向にレーダー反応あり!」
ジュンが声を張り上げた。
「いよいよだな…」
健が呟き、ジョーの方を見た。
ジョーは黙って頷き、G−2号機が格納されているノーズコーンへと向かった。
ゴッドフェニックスは急降下した。
G−2号機には飛ぶ機能がないので、ある程度低い場所でなければ分離する事が出来ない。
敵と充分に距離を取った場所で、ジョーはゴッドフェニックスから分離した。
台風のせいか、夜明けになってもなかなか明るくはならない。
『ジョー、そっちの視界はどうだ?』
「ああ、最悪だ」
『大丈夫なの?』 健とジュンが話し掛けて来ている間にも、ジョーは油田へとどんどん進んでいた。
「やるしかねぇ!」
雨足が強くなって来ているが、タイヤを取られる事なく走る事が出来ている。
G−2号機は悪路走行性が高いのだ。
「お出ましだぜ!」
ゴジラのようなメカ鉄獣が尾を揺らしながら、のしのしと歩いて来る。
飛べないだけに歩みは遅い。
ゴッドフェニックスに取り付けた触手で持ち上げる事は簡単に出来るに違いない。
「竜!油田に近づく直前に奴を捕まえてくれ」
『解った!だが、おらも初めての事で上手く行くかどうか…』
「やるんだ!俺だって、こんな事は初めてだ!」
ジョーは吐き捨てるように言った。
『解っとるわいっ!』
竜も怒ったような声を上げた。
『世界中の海を枯渇させようなんて、そんな恐ろしい作戦を実行させる訳には行かんわい』
「おう、それでこそ竜だ」
『2人とも、集中しろよ』
健の声が割って入った。
「ああ、解ってるぜ」
ジョーは油田の建物に向かった。
G−2号機が空に向かって角度を取れる建物。
それは、事務棟だった。
かなり無茶な作戦だが、彼なら出来ると科学忍者隊の全員が信じている。
山脈までは距離があり過ぎる。
この場所でやるしかなかった。
ジョーは建物にいきなり乗り上げ、かなりの角度を付けてスタンバイした。
『ジョー、何をしている?!』
藪原の声だ。
「此処からG−2号機で奴を狙撃するのさ。
 部下を引き連れて離れて見ていてくれ。巻き込まれるなよ」
『ジョー…。解った。成功を祈る』
藪原は心配そうだったが、思いを断ち切るかのように通信を切り、部下に撤退を命じた。
「これから科学忍者隊がメカ鉄獣を吊り上げて、特殊弾での狙撃を敢行する!
 全員撤退!速やかに予定の地点まで退避せよ。様子を見るんだ」
藪原は指揮官として立派にやっていた。
明らかに彼よりも年上の部下が多い。
だが、逆らう者は誰もいない。
多国籍な国際警察の中でも上手く立ち回っているようだ。
見掛け通りのただの優男ではないのである。
仲間達に一目置かれているのが良く解る。

ジョーは精神集中をしていた。
G−2号機を欠いたゴッドフェニックスだが、表向きはノーズコーンを閉じているので、全ての機能が使えなくなっているとは敵には解らない。
そのゴッドフェニックスが、メカ鉄獣を捉えにやって来ていた。
スピードが遅いのが災いして、敵はすぐに竜によって捕らえられた。
「いいぞ、竜!そのまま俺がいいと言うまで上昇してくれ。
 少し南西に逸れてくれ」
『ラジャー!』
ジョーは視界が悪い中、充分に監視していた。
国際警察がジープから投光器でメカ鉄獣を照らしてくれた。
「こいつは有難ぇ。さすがはヤブだ」
ジョーは思わず呟いた。
『聴こえたぜ。ジョー。頑張れよ』
藪原の声が聴こえた。
「ああ、有難うよ」
ジョーはそれっきりこちらから通信を切った。
「竜!そこだ!そこでホバリングして、耐えていてくれ!」
『解った!』
ジョーは狙いを付けた。
爆発しても油田には影響あるまい。
特殊弾は多くは作れなかった。
5体の敵に対して、5発だ。
それだけでやっとだったのだ。
1発も撃ち損じる事は出来なかった。
誰もが、ジョーの指先に期待を込めていた。
息詰まる時間が過ぎて行く。
『ジョー、強風で高度が保てないぞいっ!早くしてくれ』
竜の苦しそうな声が聴こえた。
「タイミングは俺に任せてくれ」
ジョーはそう答えて、眼をツーっと細くした。
コンドルが獲物を捉えた。
運転席の右側にある発射ボタンを優雅に押した。
1発だけ特殊弾が発射された。
彼の事だ。違う事なく、敵のメカ鉄獣に見事に命中させた。
全員が息をついた。
ゴッドフェニックス本体と触手の部分には、特殊加工が施されており、特殊弾の爆発の被害からは免れるようになっている。
ゴッドフェニックスの真下でメカ鉄獣が大爆発した。
何度も爆発を繰り返しながら、瓦礫となったメカ鉄獣が地上へと降って行く。
見事に油田には被害のない、更地に落ちて行ったのは、ジョーの計算通りだった。
ゴッドフェニックスは錐揉み状態となったが、無事に平行飛行に戻る事が出来た。
「みんな、無事か?」
ジョーがブレスレットに訊いた。
『ああ、大丈夫だ!ジョー、やってくれたな!』
健の声が返って来た。
「だが、まだこれは序盤に過ぎねぇ。後4匹もこんな奴がいやがるんだぜ!」
ジョーは気持ちを引き締めながら、そう言った。




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