『海が枯渇する恐怖(6)』

(敵はまだ4体いる…。
 どんな手を使って来るか解らねぇ。
 まだ俺達は残りの4体の姿を見てねぇし、もしかしたら飛べる奴がやって来る可能性だってある。
 ギャラクターを甘く見たら駄目だ……)
ジョーは食事中も考え続け、なかなか食が進まなかった。
「ジョー、要らんのならおらが貰うぞい」
竜の嬉しそうな言葉に、ジョーは黙ってサンドウィッチの皿を彼に向かって押し出した。
(敵が1体ずつ勿体ぶって出て来るのが解らねぇ。
 今度は2体同時だと言うが、俺と国連軍選抜射撃部隊で潰せると言うのだろうか?
 ヤブのプロファイリングに何か欠けているピースがあるとすればどうだろう?)
ジョーは薮原のプロファイリングや南部博士の見解が間違っているのではなく、材料が足りない、と思っているのである。
(此処は南部博士に言って、情報部員にもっと活動して貰うしかねぇな…。
 国際警察にそこまでの能力があるとは、ヤブには悪いが思えねぇ……)
そして、ギャラクターの本拠地としている場所を早く見つける事ば自分達の急務だと思った。
「なあ、健。敵がゴジラもどきのメカ鉄獣の基地にするとしたら、どの辺だと思う?
 歩いて移動しているのなら、目撃情報があってもいい筈だが、敵はいきなり現われている。
 飛行空母か何かで運ばれているのか、飛べねぇ振りをして自分で飛んで来ているのか…」
「考えられるのは前者のような気がするな。
 それは薮原警視のプロファイリングの中にはなかったな…」
「例えば、その飛行空母の中にゴジラもどきが集めた油田のエネルギーを貯蔵しているのだとしたら、話は全く変わって来る」
ジョーは言った。
「ヤブを含めて俺達はメカ鉄獣にばかり意識を向け過ぎた。
 もし飛行空母がいたとしたら…、俺は奴らの狙いはゴッドフェニックスだと思っている」
ジョーの言葉に健が納得が行ったと言うように頷いた。
「その可能性は大いにあるな。ジョーの勘は相変わらず冴えているな」
健は腕を組んで、考え込んでいた。
彼の前のサンドウィッチは空になっている。
「南部博士に言って情報部員に調査して貰った方がいいんじゃねぇのか?」
「そうだな。早速進言してみよう。
 此処からではまずいから司令室に戻ろう」
健は全員をもういいか?と言う顔で見回した。
甚平と竜はサンドウィッチをまだ両手に持っており、口をもぐもぐさせていたが、それでも頷いた。
「全く2人ともお行儀が悪いわねぇっ!」
ジュンは2人を窘める事を忘れなかった。

司令室に戻ってから、健はブレスレットで南部博士に通信し、ジョーの意見を伝えた。
『薮原警視の報告にはなかったが……。
 確かに国際警察には、情報が欠けている可能性もあるな。
 解った。ただ、ISOの情報部員だけでは不公平だ。
 薮原警視にもこの話は回しておこう』
南部博士がこんなにも公平・不公平を考える人だとはジョーは思っていなかった。
飽くまでも合理性を採る人だからである。
ただ、薮原にもう1度チャンスを与えようと言うのだろう。
国際警察がこの全容を解明すれば、薮原のプロファイリングの中身も変わって来る。
彼の面目躍如となるかもしれない。
南部がどうしてそこまで薮原を立てているのかは解らないが、これまで国際警察で此処までギャラクターに関して関与して来る人物はいなかった。
薮原なりにクルーザーの事件から相当の努力をしてデータを集めたのだ。
それは科学者並みの努力だったと思う。
だから、南部は薮原を買ったのだ。
その辺の機微は健やジョー達にはまだ解らなかった。
材料不足を補ってやれば、薮原のプロファイリングは役に立つ。
南部博士はそう考えているのだろう、と漠然と思っていた。
レニック中佐とマカラン少佐がやって来ており、南部と一緒に特殊弾を使う為の武器の開発を見守っている様子だった。
「俺もそっちを覗きに行ってもいいですか?」
ジョーが言った。
『気になるのなら構わん。但し、いつでもすぐに出動出来るように心掛けておいてくれたまえ』
「ラジャー」
ジョーは答えると、司令室に仲間達を残し、南部博士の元へと向かった。

「博士。これを超バードミサイルに搭載する事は出来ませんか?」
ジョーは9割方開発が終わっている特殊弾用のバズーカ砲を見て、言った。
「バズーカ砲自体を超バードミサイルに取り付けて、一緒に爆発させる事は可能だろう。
 ジョーは飛行空母か何かが存在すると見ているのだな」
「ええ。それでなければあの飛べないメカ鉄獣が目撃情報もなく、いきなり油田に現われる理由が解りません。
 油田の奥深い地下に基地を作っているのなら別ですけど……」
ジョーは言い掛けてハッとした。
「成る程、そう言う考え方もありますね」
レニックとマカランは黙って2人の様子を見守っている。
「博士。徒労に終わる可能性は高いと思いますが、念の為俺達はアラボア王国で被害を受けた油田を調べてみましょう」
「うむ、良かろう。現地には私から連絡しておこう」
「お願いします」
ジョーはそう言って走り出た。
レニック、マカランとは全く会話をしなかった。
「相変わらずマイペースな処は変わらんなぁ。
 ギャラクターと言うと眼の色が変わる」
レニックがマカランに向かって囁いた。

科学忍者隊は直ちにゴッドフェニックスで出動した。
その間に南部博士が超バードミサイルに特殊弾を搭載したバズーカ砲を取り付ける用意も進めてくれる筈だ。
一旦は基地に戻って、その作業もしなければならない。
ジョーの言うように徒労に終わろうとも、調べてみる価値はある。
国際警察とISOの情報部員は今、飛行空母の存在について、過去のレーダー反応を調べている事だろう。
また、目撃情報を得る為に躍起になっているに違いない。
薮原も焦りを滲ませている筈だ。
自分が立てたプロファイリングの結果が違って来てしまう。
やはりギャラクターの戦法にはまだ慣れていない証拠だ、と彼は頭を抱えていた。
自分が見破れなかった事を、ジョーが見破ったのだ。
尤もまだ飛行空母は発見されていないが…。
確かにその可能性はある。
彼はその結論に達しなかった。
その事が悔しい。
「海を枯渇させる、と言ったプロファイリングは誤りだったのか……」
と思わず脱力したように呟いた。
薮原は優秀な捜査官だが、向上心も忘れてはいない。
これまでのギャラクターの手口を様々な方向から分析したつもりだった。
だが、実際に最前線で闘っている科学忍者隊の方が数段自分よりも優れていると思った。
これには適わない。
自分は取って付けたように仕入れた情報だけで動いている。
そして、国際警察もまだ、ギャラクターに対する捜査の手が生温い。
その事に打ちのめされていた。
だが、彼は打たれ弱い訳ではない。
新しい調査結果が出次第、新たなプロファイリングに入るつもりでいる。
薮原は決して心が折れたりする刑事ではなかった。

さて、その同じ頃行なわれていた科学忍者隊の調査は綿密だった。
実際にG−4号機で甚平が地下に穴を掘り、それに他の4人が飛ぶように続いて行った。
だが、どう探しても地下には基地らしきものは存在しなかった。
ゴッドフェニックスが上からレーダーで見た時にもそれらしき物は見えなかった。
それでも、地下を実際に探ってみたのだ。
「こうなるとジョーの飛行空母説が俄かに浮上して来たな」
健が言った。
「超バードミサイルを加工して貰う為に一旦三日月基地へ戻ろう」
健の声に全員がゴッドフェニックスに戻った。
今になってなお、謎解きをやっているとは、何とも気忙しい。
この間にもエネルギー充填の為に、油田が襲われる可能性だってある。
薮原がプロファイリングした時間も迫って来ていた。
とにかくまずは基地へ急ぐ事だ。
南部博士はバズーカ砲の取り付けキットを製作し、待っている事だろう。
そして、レニック中佐、マカラン少佐もそれぞれ特殊弾を積んだバズーカ砲を持って、国連軍で出動待機をしている筈だ。
薮原のプロファイリングは完全に信用を失った訳ではない。
彼が指摘したアグリカ地方の砂漠と、サバーラ国の油田に敵が現われると言った時間まで、後1時間半に迫っていた。
超バードミサイルに細工をする時間は充分にある。
科学忍者隊はまた司令室で待機する事になった。




inserted by FC2 system