『海が枯渇する恐怖(7)』

藪原が予告した時間に敵は現われるのか?
ジョーは腕組みをして指をとんとんと動かしながら、焦れていた。
藪原の事だ。
そのプロファイリングには間違いがあるまい。
材料が足りていなかっただけだ。
今、国際警察が持っている材料だと、七つの海を枯渇させ、人々を恐怖に陥れるのが目的であると言う結果になるのだろう。
だが、もう飛行空母がメカ鉄獣が集める油田のエネルギーを吸収しているのだとすれば、話は違って来る。
ジョーの言うように、ギャラクターはゴッドフェニックスを焼き切ろうとしているのかもしれない。
だとすれば、今、超バードミサイルに付けて貰っている特殊弾のバズーカ砲が役に立つかどうかだ。
地上に現われるメカ鉄獣をジョーと国連軍選抜射撃部隊の2人で倒すとしたら、そのエネルギーは飛行空母には入らない筈だ。
(待てよ……?)
遠隔操作で飛行空母にエネルギーが注入される仕掛けになっているのかもしれない。
ジョーはそう思った。
それを健に話した。
「確かにおかしい。その可能性は充分にある。
 俺達は注意して掛からんと行かんぞ。
 ジョーが離れている間に飛行空母が現われたら、どうすればいい?
 やられるのを待つだけ、と言う事になる」
「ゴッドフェニックスに吊り上げるのをやめよう。
 引きずって油田から引き離し、俺がノーズコーンから敵を撃つ。
 そうすれば超バードミサイルは使える」
「成る程のう。今日のジョーは冴えてるぞい」
竜が言った。 「いつもだと言ってくれ」
「あれ?そうだっけ。兄貴に窘められる事も良くあったような…」
甚平は余計な事を言った。
ジョーの拳が黙って頭に落とされ、甚平は半べそ状態になった。
別に堪えてはいない。
いつもの事だ。
「そうだな……。場合によっては、国連軍選抜射撃部隊の2人の方に飛行空母が出る事も考えられるぞ」
健が腕を組んで言った。
その時、南部から通信が入った。
『諸君。国際警察が目撃情報を掴んだ。
 飛行空母は実在するぞ。
 藪原警視のプロファイリングによると、アグリカ地方の砂漠にある油田と、サバーラ国の油田、どちらに飛行空母が出るかと言う可能性は、アグリカ地方の砂漠の砲が95%の可能性があるとの事だ』
「それを信じるのなら、出動先は決まりですね。
 俺達がアグリカ国、レニック中佐達はサバーラ国」
健が言った。
『そう言う事になる。飛行空母が現われたら、中に潜入して油田から得たエネルギーを爆発させると言う手もある。
 超バードミサイルは必要ないかもしれん』
「まあ、何かの為の保険に取り付けておきましょう。博士」
ジョーが呟くように言った。
『それは解っている。もう取り付けは完了しているぞ。
 後は敵襲を待つのみだ。
 藪原警視のプロファイリングによると彼が言った通りの時間に敵はやって来る。
 後、30分だ。ギャザー、ゴッドフェニックス発進せよ』
「ラジャー」
こうして科学忍者隊はアグリカ国へと飛び立った。

アグリカ国は夜の帳が降りていた。
油田は砂漠にあったので、藪原達が施設の人間を避難させていた。
サバーラ国は国連軍が担当しているようだ。
サバーラ国の方が避難させる人数が多い。
そんな時は国連軍の方が役に立つ筈だ。
科学忍者隊は予定通り、アグリカ国上空へと出動した。
「そろそろ時間だぞ。ジョーはノーズコーンへ、ジュンはレーダーを頼むぞ」
健が指示を出した。
ジョーは既に動き始めている。
あっと言う間にコックピットから姿を消した。
「作戦通りに行くじゃろうかの?」
竜が立ち上がっている健を見上げた。
「賭けるしかあるまい。博士が言ったように超バードミサイルを使わないで自滅させる手もある。
 俺達はやるしかないんだ。
 藪原警視の海を枯渇させると言うプロファイリングだってあながち間違いではないかもしれない。
 ゴッドフェニックスを潰した後にやればいい事なんだからな」
健はそう言った。
ジョーも密かに同じ事を思っていた。
G−2号機に飛び込みながら、ヤブに悪い事をした、と思っていた。
真っ向から否定してしまったのだから。
しかし、今はそんな事を考えている時ではない。
ジョーは精神を集中させた。
『右前方50キロに飛行物体を発見!早いわ!すぐに此処まで到達する』
ブレスレットからジュンの悲鳴のような声が聴こえた。
「ようし、竜。ノーズコーンを開けろ」
『今開けるのは危険じゃわい!』
「此処からじゃあ、状況が解らねぇ。いいから開けろ」
『解ったぞい。おら、知らんぞ…』
竜のボヤキが聴こえたが、ノーズコーンは開いた。
暗いが油田の火があるので、ある程度は見える。
G−2号機はその姿を半分晒したままなので、竜の言うように危険な状態にあった。
アームで固定はされているものの、激しい揺れを感じた。
この中で精密にガトリング砲の銃弾を撃たなければならないのだ。
ジョーには緊張が強いられる事になる。
「早く来やがれ!」
ジョーは焦りを見せた。
『来たわ!メカ鉄獣を下ろした』
ジュンの声と共に、竜は機首を転回させた。
ゴジラ型メカ鉄獣を触手で挟む為である。
少し梃子摺ったが敵を引き摺りながら砂漠の上を飛んだ。
『ジョー、もういいだろう。敵を離すぞ』
「OK。いつでもいいぜ」
健の声にジョーは答えながら眼をツーっと細めた。
「ジュンは敵の飛行空母がどこかに行かねぇように見張っとけよ」
『解ってるわ!』
「ようし、竜。敵に機首を向けろ」
『解っとるわい!』
ゴッドフェニックスが急転回した。
揺れるG−2号機の中で、ジョーはそれに耐えた。
半分剥き出しになっている状態では、揺れは何倍にもなる。
「やってやるぜ!」
ジョーはやる気満々で、敵を撃ち落としに掛かった。
タイミングを計ってガトリング砲のボタンを優雅に押す。
今回は3連発にした。
彼の射撃の腕の前に、敵は成す術もなく、大爆発を起こした。
「博士が作った特殊弾の威力は相変わらずだな」
『ジョーの兄貴の射撃の腕もね』
甚平の声が聴こえた。
『よし、竜、全速力で敵の飛行空母を追えっ!
 俺達はあいつに飛び移る。
 ジョー、一旦コックピットに戻るか?』
「いや、このまま行く。俺に構うな」
『解った!』 竜がゴッドフェニックスを飛行空母に近づけて行く。
その上方に到着した時、夜中だと言うのに4人の戦士が華麗に舞い降りた。
ノーズコーンはジョーが飛び出した事を確認して閉じられた。
「健、あそこに隙間がある!」
ジョーが言った。
竜にはとても入れそうもないが、この4人なら入れる隙間が、飛行空母の空気取り入れ口にあった。
「よし、あそこから侵入しよう」
健は即座に決断した。
彼が最初に飛び込み、ジョー、ジュン、甚平と続いて潜り込んだ。




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