『海が枯渇する恐怖(8)』

飛行空母の中の通風孔下の通路に無事着地した4人は、早速敵兵のマシンガンの洗礼に遭った。
「ジュンは俺と、ジョーは甚平と一緒に問題のエネルギー炉を探せ」
健が闘いながら指示をした。
「司令室にカッツェがいたらどうする?」
ジョーは羽根手裏剣を繰り出し乍ら、訊いた。
「いや、カッツェはいない。こんなに危険な乗り物にいるとは思えない」
「成る程な…」
ジョーは納得したようにニヤリと笑った。
「ようし、甚平。行くぞ」
「ラジャー」
ジョーは甚平を連れて健と別れた。
敵兵が前からも後ろからも襲って来る。
ジョーは構わずに突っ切った。
羽根手裏剣の切っ先を使って、敵兵の面を見事に切り裂いていた。
敵兵はどさりどさりと倒れて行った。
甚平も負けてはいない。
アメリカンクラッカーを使って、敵を翻弄して行く。
ジョーは長い脚で一回転し、敵兵の脚を払って倒して行った。
その後に残ったのは、羽根手裏剣が喉元に刺さった敵である。
続いて休む間もなく、エアガンの三日月型キットを飛ばす。
敵の顎を連続して砕いた後は、そのままワイヤーを1人の男の首に巻いて、天井のパイプに吊り上げた。
これでワイヤーを元に戻した時には、敵は息も絶え絶えになっている筈だ。
その瞬間には、ジョーは別の隊員に重い膝蹴りを喰らわせている。
その素早さと言ったら、すばしこさで有名な燕の甚平と大差ない。
風を切るように姿が見えなくなって、驚くような場所に出没する。
ある敵と対峙している間に、次の目標を選んでいるジョーは、無駄なく動き、敵兵を薙ぎ倒す。
動体視力に優れているお陰で出来る技だ。
だからこそ、彼は射撃の名手であり、羽根手裏剣を自由自在に操る事が出来るのだ。
右手にエアガンを持ちながら、羽根手裏剣を唇に咥えている。
羽根手裏剣は左手でも扱えるように自己訓練してあり、右手が塞がっていても、彼は何の苦労もなく、敵を捻り潰す。
その行動の速さは賞賛に値する。
あの藪原がクルーザーの中での生身の彼の闘い振りを見て、驚きの声を上げた程である。
ジョーには全く隙がなかった。
彼に隙が出来るとすれば、誰かを守ろうとする時だけだ。
その時ですら、周囲には充分過ぎる程に気を配り、行動を起こしている。
さすがに科学忍者隊のサブリーダーだけの事はある。
身体能力も判断力も健と同等に等しい。
ただ、健にはリーダーとしての素質が備わっているだけなのだ。
ジョーにはそれがない。
自分でその事を認識しているので、彼は健がリーダーでいる事に対し、僻んだりはしない。
自分はこのポジションで充分なのだ。
やりたいように出来る。
リーダーだから、と抑える必要がないのである。
ジョーは素早く敵兵に重いパンチを喰らわせ、気絶させながら、先へと進んだ。
「甚平。遅れるなよ」
「解ってるよ」
この凸凹コンビはなかなか良いコンビである。
ジョーの身体の隙間から攻撃したりするような奇襲攻撃を仕掛ける甚平であった。
敵は意表を突かれて、どっと倒れる。
その敵を乗り越えて、惚れ惚れするような高いジャンプを見せて、ジョーが敵兵に長い脚で首筋にキックをお見舞いする。
これでは当分その敵は起き上がる事が出来ないだろう。
相当なダメージを負っている筈だ。
ジョーは羽根手裏剣を撒き散らしながら秒速で敵兵へとダッシュした。
敵がおろおろとしている。
この素早さには誰も敵わない。
腰が引けている敵もいる。
そんな敵を甚平がアメリカンクラッカーで雁字搦めにして面白がっている。
「甚平。遊びに来たんじゃねぇぞ」
「解ってるよ」
先程と同じ答えが返って来た。
(まあ、甚平は子供だ。仕方があるめぇ…)
ジョーは苦笑いしながら、それを見過ごそうとした。
その時彼はハッとした。
甚平の後ろから狙っている銃口がある。
「甚平!危ねぇっ!」
ジョーはそう叫びながら甚平に覆い被さり、敵へ向かってエアガンの引き金を引いた。
辛うじてジョーの方が引き金を引くのが早かった。
「油断するな、っていつも言っているだろうが!」
ジョーは甚平の頭に拳を1つ落とした。
「ごめんよ、ジョーの兄貴……」
さすがの甚平も青菜に塩だったが、幸いにして2人に怪我はなかった。
『ジョー。そっちはどうだ?』
ブレスレットから健の声がした。
「今の処、敵を一掃している最中だ。エネルギー炉は見つかっていねぇ」
『こっちも同様だ。引き続き頼むぞ』
「ああ、解った」
それだけの会話で充分だった。
ジョーは甚平を引き連れて、先へと進んだ。
やがて通路が行き止まりになった。
いや、行き止まりではない。
ドアで仕切られているのだ。
恐らくはそこから先は選ばれた者しか入れない仕組みになっているのだろう。
健に連絡しようとしていた時に、そのドアが開き、亀のような面を被った隊長らしき男が登場した。
「ゴジラの次はガメラか」
ジョーはその身体を見回した。
人間の癖に装甲が相当厚いようだ。
下手な武器は通用しないかもしれない。
(弱点があるとすれば、眼か……)
ジョーは内心で呟いた。
「甚平。奴の身体は亀並みの装甲に覆われている。
 絶対に油断をするな。
 並大抵の攻撃ではびくともしねぇぞ」
ジョーはそう言いながら、隊長が出て来たと言う事は、エネルギー炉はこっちにあるに違いない、と判断した。
「甚平。エネルギー炉はこっちだ、と健に連絡しろ。
 俺はこいつに付き合う。雑魚は頼んだぜ」
「何だよ、ジョーの兄貴。美味しい処ばかり……」
甚平は言い掛けたが、敵の巨大な身体を見て、一瞬怯み、ジョーの言う通りにした。
背の高さはジョーと同じぐらいだが、横幅は竜の2倍はあるだろう。
力技で来られたら、ジョーの兄貴でも危ないんじゃないか?と思った甚平は、すぐに健を呼ぶ事にした。

ジョーは睨みを利かせながら、敵の太った隊長を見やった。
面が亀のようになっているが、身体は分厚い黒い皮膚らしき物で包まれており、背中には甲羅まで背負っている。
恐らくはあの甲羅は破れまい。
狙うとすれば、先程直感した眼と、顔を覆う面の僅かな隙間だ。
面と言うよりも覆面のように後頭部まで覆われたその面には、ほんの僅かだが、素肌が見えるポイントがある。
前から喉笛を狙うか、後ろから首を狙うか。
狙えるポイントは3箇所しかない。
ジョーは慎重にならざるを得なかった。
敵の重さを想像するに、300kgは下らないだろう。
そんな重さの敵に圧し掛かられては、さすがのジョーも身動きは取れない事だろう。
それとも自らの身を囮にして、至近距離から確実に急所を落とすか……?
ジョーは今、悩んでいた。
まずは闘ってみねぇ事には判断出来まい。
そう思い至ったジョーは、エアガンで敵の装甲の厚さを計ってみる事にした。
確かにエアガンは敵の心臓に命中した。
ジョーの射撃の腕だ。
それは抜かりがない。
だが、敵はびくともしなかった。
(やはり……。エアガンでは敵の装甲は破れねぇ…。
 となれば、狙うは3箇所。全部仕留められれば言う事はねぇが……)
彼は敵の攻撃を待った。
エアガンを撃った事で誘われたかのように、大亀が動き始めた。




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